02.28
<北朝鮮内部>賃上げ10倍から1年、どうなった?(2) 「生活良くなったという声ない」「出勤強要でまるで政府の奴隷」と住民

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2023年末、北朝鮮政権は国営企業や公務員の労賃(月給)と退職者の年金を、年初に比べて約10倍に一斉に引き上げた。だが、破格の賃上げを評価する声はほとんど聞かれない。(石丸次郎/カンジウォン)
◆大幅賃上げは当初から不評
10倍にも及ぶ「大幅賃上げ」は、断行当初から不評であった。なぜだろうか?
北朝鮮国内に住む取材協力者たちが共通してあげる理由は、一つ目に、労賃から差し引かれる金額も上がるに違いない。二つ目に、賃上げを理由に締め付けが強くなり、職場外での経済活動がいよいよ難しくなる――というものだった。要するに、実収入はさして上がらず、統制だけが厳しくなることを予想したのであった。
◆コメ1キロも買えない労賃体系だった
そもそも、引き上げ前の国定の労賃が、実生活にほとんど意味をなさない水準であったことを知っておく必要がある。
アジアプレスでは、北部地域で週1回、物価調査を長年続けている。「賃上げ」1年前の2022年末の平均的な月労賃は2~3000ウォンで、市中で購入できるのはトウモロコシなら1キロ、白米なら500グラム程度に過ぎなかった。また、支給される配給は労働者本人分だけで、概ね3~7日分に過ぎなかった。家族分の支給は皆無だった。
これではとても暮らしていけない。住民たちは、職場の外で商行為や私的な雇用を通じて稼いで暮らしてきた。都市部では、日雇いの労働に出れば1日に1万ウォン程度が稼げたのである。
住民たちは、北朝鮮で義務である職場での労働と並行して、副業での稼ぎを主な収入源として生計を立てる生活を30年続けてきた。金正恩政権は、このような個人の経済活動を強く統制、制限しつつ、国定の労賃の大幅引き上げを実施したのである。
◆不評の天引きをやめさせた当局
多くの住民が予想したとおり、上昇した労賃から、党員の場合は「党費」、青年同盟や職業同盟などの社会団体に所属している場合は「盟費」が、従来通り天引きされた。さらに軍隊や災害被害などへの支援の強要も続いた。
住民たちの失望に慌てたのか、当局は今年2月になって対応を始めたと、両江道(リャンガンド)の協力者A氏は言う。企業に対し、天引きを無くして労賃を全額支給し、徴収すべき諸費用は、別途に労働者から受け取れと強く指示したという。
「工場や企業が労賃からの天引きをしていないか、毎月の会計検閲で厳しく見るようになった。労賃支給実態を検察、銀行、行政機関に報告しなければならなくなった」
天引きを無くしても、個別に労働者から徴収すれば「手取り」は増えないはずだが、当局はいったんの「全額支給」を強く求めている模様だ。
◆さらに厳しくなった職場への縛り付け
金正恩政権は、コロナ・パンデミックが始まった2020年頃から、防疫の必要性もあり、個人の経済活動を厳しく制限・統制した。
自宅で個人食堂を営むのは禁止。パンや餅などの食品、衣料品の縫製、リアカーを使った運搬などの小商いに人を雇うことが不可能になった。自由な商業空間であった市場は、取引できる品目が大幅に減らされた。
成人男子は配置された職場への出勤を強要されて、商行為や賃仕事をすることが困難になった。職場を離れて別の稼ぎに精を出す者は「職場離脱者」「無職者」として処罰されている。
このような強力な規制は、「ゼロコロナ」政策が緩和され始めた2023年以降も維持された。都市住民は現金収入を減らし、地方都市では脆弱層に栄養失調や病気で亡くなる人も現れた。金正恩政権による労賃の大幅引き上げは、反市場政策と住民統制強化を進める中で実行されたのだった。
◆大幅賃上げで暮らしは良くならなかった
大幅賃上げから1年余りが経った。当の北朝鮮住民は、現在どのように評価しているだろうか。両江道に住む2人の協力者の言葉を紹介したい。
「4~5万ウォンというのは小さな金額ではないし、もらえることは嬉しいのだが、問題はそれだけでは食べていけないこと。労賃だけでは必要な食糧を買うのにまったく足りない。(大幅賃上げで)生活が楽になったという声は聞かない」(前出A氏)
「商売ができていた時の方がずっと良かった。今は、政府がやれと言うとおりに出勤して働かなければならず、奴隷になったようなものです」(B氏)
統制強化とセットで実施された大幅賃上げ。その「副作用」について注視が必要だ。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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Source: アジアプレス・ネットワーク

