07.01
野鳥の異常行動・怪死相次ぐ 目が腫れ上がり、人を恐れず…米
<米首都ワシントンD.C.近郊で、野鳥たちが謎の異常行動を見せている> アメリカの首都ワシントンD.C.の近郊で、野鳥に異変が起きている。通常では見られない振る舞いが続々と目撃されているほか、庭先や路上などで死骸の目撃例が増えており、回収された死骸には伝染病にかかったかのような外観上の異状が見られる。 最も顕著な症状は目の異変だ。目が異常に腫れ上がったり、まぶたが大量の分泌物が固着して目が塞がれたりしてしまい、視力を失っているケースが目立つ。回収された鳥の死骸には、左右の目が異なる大きさに膨らんでいたり、目の周囲にカサカサとした物体が大量に付着していたりするものが多く見られる。 これに加え、神経の異常も疑われている。一部の鳥は発作やふらつきなどの症状を示し、飛ぶことができなくなっているほか、人を恐れなくなり積極的に手のひらに乗るようになる個体もある。ここ1〜2ヶ月で市民や当局職員たちが発見した例は数百件に上るが、専門家たちは原因を見出せていない。 米公共放送のNPRが運営するDCイスト誌によると、首都の野生動物保護団体のもとに4月11日に持ち込まれた1羽の鳥が最も早い確認例だと見られる。団体に持ち込まれる時点ですでに「鳥たちにとって悲惨な状態」となっているものが多く、既知の治療法がいずれも効果を示さないことから、獣医たちは安楽死以外の選択肢を持たないのが現状だ。 こうした報告は首都ワシントンD.C.の位置するコロンビア特別区だけでなく、隣接するメリーランド州やバージニア州など、首都近郊で5月下旬以降から増加している。オハイオ州野生生物局の生物学者であるラウラ・カーンズ博士は米NBCニュースに対し、これまでに同州で報告された例だけで数百羽の規模に達すると述べている。 ムクドリやカラスなど、街中の身近な野鳥に拡大 異常行動と謎の死の事例は、当初は特定の種に集中していた。日本の市街地でもよく見られるムクドリの一種に加え、オンタリオ州の州鳥としても親しまれるアオカケス、そして街のゴミを漁るなどカラスに似た習性を持つオオクロムクドリモドキと、計3種が中心だった。 ところが時間が経つにつれ、街中でよく見られるさまざまな野鳥に広がりを見せている。現時点では、カラス、シジュウカラ、コマドリなどのごく一般的に見られる種を含め、10種以上に拡大した。庭先や公園・路上などで死にかけたり盲目になったりしているところを住民が発見し、野生動物局に通報するというのが主なパターンだ。 国立公園内でもレンジャーが発見しているが、広大な敷地内をくまなく捜索しているわけではない。すでに報告された例以外にも、未発見の例が相当数に上るものとみられる。ケンタッキー州魚類・野生生物資源局のケイト・スランカード博士はNBCニュースに対し、「これはおそらく、これまでにない問題です」と述べ、刻々と拡大する状況に対し危機感を示した。 ===== 疑われる未知の感染症のほか、セミ由来説も 現在のところ原因の目星はまったくついておらず、専門家たちも首を捻る。鳥類の感染症とあって鳥インフルエンザが懸念されるところだが、これによるものではないようだ。インディアナ州の野生生物局では、州内5つの郡で発生した不審な死亡例について、鳥インフルエンザ、および鳥が媒介してヒトへのウイルス感染を広めるウエストナイル熱について死骸を検査した。同局スポークスマンは、結果はいずれも陰性であったと発表している。 現段階で濃厚なのは未知の感染症の可能性だが、これに加え専門家たちは、セミの大発生による二次被害である可能性も視野に入れているようだ。今年アメリカは、17年に1度大量発生する周期ゼミ「ブルードX」の当たり年になっている。4月からすでに羽化が始まっており、その数は6月までに全米で数十億匹から数兆匹に達すると予測されている。 おびただしい数のセミに悩む人々は、駆除のため殺虫スプレーの散布を始めた。そこに含まれる有毒成分がセミの死骸に残留し、餌としてついばんだ野鳥が神経を冒された可能性があると考えられている。異常な死亡例は4月から報告されており、時期的にもセミの羽化が進んだ期間と一致する。また、セミの大発生はワシントンD.C.やオハイオ州など米北東部を中心に起きており、地域的にも符合することになる。 ほかの見方としては、過去の鳥の大量死と関連づける説が出ている。アメリカでは昨年8月ごろ、南西部ニューメキシコの国立公園などで、渡り鳥を中心に数十万羽の死亡が確認されていた。地方紙『ラスクルーセス・サン・ニュース』によると当時住民たちは、感染した鳥たちが死の直前に大集団を形成するなど、異常な振る舞いを目撃している。当時は低気温や大規模な森林火災などの影響が疑われたが、今回の事例を受け、2つのケースに何らかの関係があるのではないかとの見方が浮上している。 感染警戒も、決定的な対策はなく これまでに原因が特定できておらず、感染症の疑いもあることから、住民は不安を抱えながら日常生活を送っている。症例は鳥類だけに確認されており、ヒトなどほかの動物に伝染したとの報告はまだない。しかし、バージニア州野生生物資源局の獣医であるキルゲスナー博士はワシントン・ポスト紙を通じ、病気の鳥の死骸を処分したりする際には使い捨て手袋を着用い、衛生面に配慮するよう市民に呼びかけている。症例の出ている鳥に無闇に近づかないことや、ペットが近づかないよう留意するなどの予防措置も挙げており、同局は人間とペットへの感染の可能性も排除していない。 事態を受けて米地質研究所は、庭先などに設置しているバードフィーダー(給餌器)を取り下げるよう市民に要請した。仮にウイルスや細菌などによるものであれば、餌台の餌と水が病原菌を媒介し、拡散を早める危険性がある。 また、殺虫剤由来説も依然として濃厚であることから、過度なセミ駆除の取り止めも求められている。バージニア州野生生物資源局は米ABC7ニュースの取材に対し、セミへの駆除スプレーの噴霧を止めることが重要だと説明している。セミを介した殺虫剤の被害は実際に起こり得るのだという。過去には犬や猫、そして鳥やコウモリなどが殺虫成分の染み込んだセミを食べてしまい、これが原因で体調を崩す事故が発生している。 このように各種の対応が提言されているものの、原因が判然としないだけに決定的な対策は打ちづらい状況だ。身近な野生生物の大量死が米東部住民の不安を掻き立てている。 ===== Mysterious disease killing birds in Ohio, public asked to remove feeders ODNR advises residents to take down birdfeeders amid mysterious disease killing birds in Ohio
Source:Newsweek
野鳥の異常行動・怪死相次ぐ 目が腫れ上がり、人を恐れず…米