03.26
「ゲイだと知られ、芸能界を追放された」21歳の大学生がLGBTQが活動できる芸能事務所を開いた理由
「事務所にゲイだと知られて、芸能界を追放されました」
「芸能活動をするなら、ゲイってことは隠す必要があると言われました。自分を否定され、ファンの方を騙しているような感覚で、とても苦しかったんです」
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近年、自身の多様なルーツを明かして活動・発信する芸能人やインフルエンサーが少しずつ増えている。一方、自身が性的マイノリティーであることを公にする人はごくわずかで、トランスジェンダー以外のセクシュアリティの人は、ほとんど見かけないのが実情だ。
本人が明かさずに活動したい場合、それは尊重されるべきだ。
だが中には自身の性を公にしたくても、事務所から止められるケースも多く、疲弊する当事者も少なくない。
現状を改善しようと2021年2月、性的マイノリティーのインフルエンサー活動を支援する芸能事務所「releys」(京都市中京区)が生まれた。
代表を務めるのは、自身もゲイという近畿大在学中の杉雄大さん(21)。「セクシュアリティを原因に、やりたいことを諦めないといけないのはおかしいと思うんです。当事者が活躍できる環境を開拓していきたい」と語る。
現在25人が所属する「releys」。何を目指し、どういった思いで発信をしているのか。杉さんと、事務所に所属する当事者4人に話を聞いた。
◆セクシュアリティを原因に、やりたいことを諦めなくて良い環境を
「releys」を立ち上げた背景には、杉さん自身の経験がある。
鹿児島県出身で、6歳の時に自身の性に気づき、友人には明かして生きてきた。
すんなりと受け入れられてきたが、周囲と自分の間に、どこか壁があるようにも感じ、将来が全く想像できない不安や孤独感を抱えていた。
2020年にコロナ禍に入ると、孤独はより強まり、死にたいと思うこともあった。杉さんは「自分のことを知っている人に直接会う機会がなくなり、将来家族もおらず、ただ一人で死んでいく未来を疑似体験した感覚になりました」と振り返る。
そんな時に救いとなったのが、初めて出会った同じセクシュアリティの同級生の存在だった。「自分だけじゃない」と自らの体験で実感し、いろんなことを話せたことが希望になった。
20歳になる直前に「当事者の居場所をつくり、自分のように苦しんでいる人を救いたい」と考え、「releys」の立ち上げを決意した。
毎月京都や東京、福岡などで当事者交流イベントを開催。
また情報を集める中で、「ゲイであることを隠しなさいと言われ、芸能活動を諦めた」といった生の声を聞き、芸能の場にも当事者の居場所がないと実感した。当事者が活躍できる環境を開拓していきたいと考え、インフルエンサーとして活動する性的マイノリティーのマネジメントやプロデュース事業(「オムライス」と「ナポリタン」)を行っている。
当事者の活動の形は、YouTubeやTikTok、歌手などさまざまだ。
杉さんは「当事者が日常を発信し、自分たちの夢を叶えるという姿や情報が、多くの性的マイノリティーにとっても、『ひとりじゃない』と感じ希望を持てる、ある種の居場所になるんじゃないかと信じています」と話す。
企業と協力し、LGBTQフレンドリーの不動産屋ホテルの紹介など、当事者に役立つ情報も発信していくという。
◆「ゲイは隠せ」に疲弊し引退を経験。でも「歌を通し、悩んでいる人の力になりたい」
事務所に所属する歌手ユニット「甘邪鬼(あまのじゃく)」(@amachan1125)は現在、YouTubeなどで日常などを発信し、いずれ歌手デビューが予定されている。
メンバーの中野ひかるさんは元アイドル、清水ひろきさんは元演歌歌手で、それぞれ芸能活動を挫折した経験がある。セクシュアリティによる孤独感に悩んできた2人は、気持ちを代弁してくれる音楽に助けられてきた。「自分たちも、LGBTQの人をはじめ、悩んでいる人の力になれるような歌を届けていきたい」と話す。
ゲイであるひろきさんは「女っぽい」などといじめられた経験から「普通でいなきゃ」と思い、本当の自分の思いを言えず、孤独を感じてきた。
高校2年生の時、渋谷でスカウトされた。一度断ったが、孤独感があったからこそ、「誰かが自分を見てくれるのは嬉しい」という思いも背中を押した。
なかなか結果が出ず、19歳の時に一度諦めた。その後、知り合いのプッシュもあり、22歳で演歌歌手としてデビューすることが決まった。歌った経験はなく、とにかく修行を重ねた。
少しずつ人気が出る一方で、罪悪感が募った。応援してくれるファンの方には女性が多かった。また先輩から「彼女できた?」「どういう女の人が好きなの?」と聞かれることも苦しさに拍車をかけ、ステージで泣いてしまうこともあった。
マネージャーにゲイであると打ち明けると、理解を示してくれたものの、「ゲイだってことは世間には言うんじゃない。受け入れられないから」と言われた。
ステージ上と本当の自分がどんどん乖離していき、精神的に限界を迎え、4年で引退した。ずっと頑張ってやってきたからこそ、大きな未練があった。
ひかるさんは、小学2年生の時から歌手になりたかったと振り返る。また自身がゲイであることで本当の自分の気持ちを言えずに生きていたことから、「歌は単純に好きでしたし、自分の気持ちを代弁してくれるものでもあり、惹かれたんだと思います」と話す。
高校時代からオーディションを受け、19歳の時にスカウトを受けて役者としてデビューすることになった。「役者も売れれば歌える」と教えられたほか、ダンスができれば歌の仕事に近づけると考え、とにかくいろんな努力を重ねた。
一度大きな失敗をし、事務所に干され地元に戻ったものの、それでも諦められず、オーディションを受け続けた。アイドルとしてデビューが決まったが、昔の知り合いに自身のセクシュアリティをアウティングされた。
「母親に言う」という脅しもあり、母にカミングアウトすると、「ひかるはひかるでしょ」と受け入れてくれた。
また役者に戻り活動を続ける中、ゲイの友人が親にカミングアウトし、家を追い出された話を聞いた。親にも受け入れられない人がいると痛感し、自分の歌や芸能活動を通して変えていきたいという思いを強くした。
夢を追い、いろんなステージに立っていた2019年、ひろきさんと出会った。ひろきさんは周囲の勧めがあったこと、悩んでいるLGBTQの力になりたいという思いに共感したことから、2人で活動することを決めた。
いろんな事務所からスカウトがあったが、LGBTQの支えになりたいという軸のある「releys」を選んだ。2人は「歌や発信を通して、LGBTQへの偏見を少しずつ無くしたり、当事者の力になれる歌を届けたりしていきたい」と話す。
◆LGBTQという言葉がなくなるくらい当たり前に
12歳離れた年の差ゲイカップルのしょーたさんとりょうさんはYouTubeチャンネル「ShoRyo channel」(@ShoryoC)で、動画を投稿している。
動画は基本的に自宅で撮影。ケーキ作りやナイトルーティン、記念日の過ごし方など、「日常感」を大切にしており、2人は「ゲイカップルも男女のカップルと同じで、身近にいるよと感じ取ってもらえたら嬉しいです」と話す。
Twitterを通し、2017年に付き合い始めたという2人。YouTubeは、しょーたさんの発案で始めた。きっかけの1つが、2018年9月6日に中野区で一度パートナーシップ宣誓をし、結婚式場を探す時に苦労した経験だった。当時は今よりも性的マイノリティーのカップルが挙式できる式場は少なく、偏見を感じることもあったという。
当事者の発信をインターネットで探したが、YouTubeで動画を投稿している日本のゲイカップルはその時見つからず、やってみたいと思ったという。記録を残すホームビデオのようなものになれば、との思いもあった。現在、チャンネル登録者数は3万人に迫ろうとしているが、2人は「こんなに多くの応援が得られるとは思っていませんでした」と話す。
動画を作る中で2人がこだわっているのは、「LGBTQは学校や職場など、みんなの近くにいるんだよ」という思い。ゆるく日常を感じ取ってもらおうと、キャラクターは作らない。妥協ができない完璧主義のしょーたさんと、楽観的でポジティブなりょうさんの真反対の性格がありのまま動画に収められている。また、パートナーシップ宣誓制度についてなど、当事者ならではのリアルな経験を語る動画も多い。
こうした作りにしているのは、テレビに出る性的マイノリティーは「オネエ系タレント」と呼ばれるトランスジェンダーの方が多く、LGBTQ当事者へのイメージが少し偏っている感覚があったことも大きい。またBL(ボーイズラブ)は人気で、自分たちも作品を楽しむことはあるが、「美化され消費されているような違和感」もあるといい、「LGBTQ当事者もみんなとなんら変わらないと浸透していけば、生きやすくなる当事者も多いと思います」と話す。
動画を投稿し始めた頃は悪意に満ちたコメントも少なくなかった。だが最近は応援してくれる人が増え、偏見などに対してはファンが指摘し守ってくれることも。2人は「こういった空気が、徐々に動画を見ている方のリアルにも広がっていくと嬉しいと思います」と話す。
またウェディングモデルの仕事を受け、式場で幸せな様子を見せる動画はTikTokで19万回再生され、「幸せな気分になれます」といったコメントが多く寄せられ、嬉しく思ったという。
@shoryochannel 誰もが結婚式💒ができる時代へ。#セント・ラファエロチャペル東京#LGBT婚#ゲイ#カップルの日常#平和な日常
最初は明確な目標があったわけではなかったが、少しずつ活動の軸が生まれた。
それは「いつかLGBTQという言葉がなくなるくらい、当たり前になってほしい」という思いだ。
実現にどれだけ時間がかかるかはわからない。その願いが叶う未来を信じながら、2人の時間を大切に過ごし、映像におさめ続けていく。
〈取材・執筆=ハフポスト日本版・佐藤雄(@takeruc10)〉
Source: HuffPost