2021
05.27

インドネシア、中国・イランのタンカー摘発 経済制裁逃れの石油「瀬取り」か

国際ニュースまとめ

<詳細が明かされないのはインドネシアの中国への「忖度」との声も> インドネシアの裁判所は5月25日、”瀬取り”をしていたとされる石油タンカー2隻の中国人船長とイラン人船長2人に対して「海上に不法に燃料を放棄した」「インドネシア領海に不法に侵入した」として執行猶予付きの禁固1年の有罪判決を下したことを明らかにした。 地元メディアなどによると、パナマ船籍のタンカー「MTフレア」の中国人船長ヨー・クン被告とイラン船籍のタンカー「MTホース」のイラン人船長メディ・モンハセムジャロミ被告は、1月にインドネシア領海への不法侵入と積み荷の石油の海上不法投棄などで摘発、起訴されていた。スマトラ島北部のリアウ諸島州バタムの地方裁判所で4月から公判が続けられた結果、25日に判決が言い渡された。なお両船の乗組員は全員訴追を免れている。 判決の中でバタム地裁の裁判長は「今後2年間、同様の罪を犯さないことを条件に2被告に禁固刑の執行を猶予する」との判決を2被告に言い渡した。 ただ中国人船長のヨー・クン被告に対しては、「瀬取り」を摘発された際に証拠隠滅を図る目的で積み荷の石油を海上に不法投棄したことは有罪とされ、罰金20億ルピア(約14万ドル)の罰金支払いを命じた。 報道によると両被告の弁護士は「判決を受け入れて控訴しない」との方針を明らかにしており、判決は確定するものとみられている。 イラン、制裁逃れで中国へ石油輸出か 1月24日、インドネシア領カリマンタン島(マレーシア名ボルネオ島)西カリマンタン州沖合のインドネシア領海内で航行する2隻の不審な石油タンカーを日本の海上保安庁に相当する「海上保安機構(BAKAMLA)」が発見した。 両タンカーは海上での船舶の識別符号や船舶の種類、位置や針路、速力などの航行状態などを自動的に船舶同士や陸上局と情報交換するシステム「自動船舶識別装置(AIS)」をオフにしていたことからBAKAMLAが不審船と判断して拿捕したという。 拿捕の際、2隻のタンカーは舷側を並べるように接しており、パナマ船籍の船からは大量の石油が海上の投棄されていた。 ===== BAKAMLAでは、いずれかのタンカーから相手のタンカーに積み荷の石油を移送する「瀬取り」の途中だったとみているが、どちらからどちらへ石油の移送が行われたか、行われる予定だったかに関しては明らかにしていない。こうした詳細が語られないことについては、インドネシア側が中国に対して配慮し、曖昧なまま処理したとみられている。 中国人船長の「MTフレア」号は中国上海にある会社(上海フーチャ―・シップ・マネイジメント)が所有、運用していることが明らかになっている。 同船には中国人乗組員25人、イラン人船長の「MTホース」には30人のイラン人船員が乗り組んでいたがすでに全員が強制退去処分を受けて帰国しており、両船長だけが訴追されていた。 弁護士によるとイラン人のメディ被告は「石油移送の件は知らない」と瀬取りへの関与を全面的に否定していたが、インドネシア領海への不法侵入を問われた容疑だったことから判決を受け入れたとしている。 メディ被告にはインドネシアのイラン大使館から派遣された館員が公判中付き添い、全面的に支援しており、判決後の身元引き受けも行うものとみられている。 今回の瀬取りは氷山の一角? 「瀬取り」に関わったとされる両タンカーは依然としてバタム島沖合に係留された状態で、今後の取り扱いについては未定という。 両タンカーの拿捕、捜査にあたったBAKAMLAなどによると、米国などによるイランへの経済制裁でイランは自国生産の石油を輸出する相手が不足し、慢性的な「石油余り」の状態に陥っているという。 このため制裁に関係していない中国がイランから石油受け入れを行っている可能性が高く、インドネシア周辺海域でも頻繁に行われている可能性があり「今回の摘発は氷山の一角に過ぎない」とみている。 経済制裁下のイランが石油を必要とする中国に対して「密かに石油輸出」をしている疑念が改めて深まったといえる。ただ中国の民間企業が独自に行っている「瀬取り」なのか習近平政権による「お墨付き」の方針なのかは現段階では明らかになっていない。 このため、BAKAMLAでは今後は海軍などと共同して周辺海域での中国関連船舶やAISを「故障していた」などと主張して意図的にオフにして航行している船舶などへの警戒監視を強める方針を改めて確認している。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== 問題となった中国とイランのタンカー摘発の様子 瀬取りを行っていたとみられる中国とイランのタンカー KOMPASTV / YouTube

Source:Newsweek
インドネシア、中国・イランのタンカー摘発 経済制裁逃れの石油「瀬取り」か