2021
05.27

ファイザー製を選り好み……身勝手なドタキャン問題化 カナダ

国際ニュースまとめ

<「より優れたワクチン」を引き当てようと、不人気ブランドの接種を当日キャンセルする人々が相次いでいる> カナダ南東部のオンタリオ州ハミルトン市で、ワクチン接種の悪質な当日キャンセルが問題となっている。ハミルトンはトロント市街から車で1時間ほどに位置し、150を超える滝を擁する滝の街として知られるほか、鉄鋼業で栄える工業都市としても有名な街だ。 このところ現地ではSNSなどを通じ、ファイザー製ワクチンの方が効能に優れるとする風説が流れている。市民としてはファイザー製を予約したいところだが、予約段階でワクチンの製造元を選択することはできない。当日接種会場へ赴き、その場で初めて知ることができるしくみだ。 そこで人々は当日、会場の掲示を見てモデルナ製ワクチンを接種中だと知るや否や、予約をキャンセルして帰宅するという行動に出ている。ペナルティはないため、自宅に帰ってから再び予約を取り直せば良いという寸法だ。 運が良ければ次回にファイザー製の接種を受けることができるし、そうでなければまた当日キャンセルを繰り返すことになる。 こうした身勝手な直前キャンセルは問題化しており、ハミルトン市議会の一般問題委員会で取り沙汰された。カナダのニュース専門チャンネルであるグローバル・ニュースは、ハミルトンの保健担当者であるエリザベス・リチャードソン医学博士が委員会に招喚されたと報じている。博士は、市民がワクチンを選り好みしていることを当局として認識している、と証言している。 専門家は、ファイザーとモデルナ製に優劣はないと説明する 実際のところ、両社のワクチンに顕著な優劣の差はない。リチャードソン博士は、モデルナとファイザーのワクチンのどちらが優れているということはないと委員会内の発言でも強調するなど、誤解の解消に追われている。 市内の感染症内科医であるザイン・チャグラ医師も、両ワクチンは作用のメカニズムが類似していると説明している。チャグラ医師はカナダ公共放送のCBCに対し、「両者は同種のワクチンであり、(ウイルスがヒトの細胞に侵入する足掛かりとなる)スパイクタンパク質のほぼ同じ領域をコードするほか、同一の技術を利用して」いると解説する。 なお、モデルナ製はファイザー製にはない添加物を1種使用している。それに対するアレルギー反応が起きる可能性はあるが、それにしても接種人口あたりごく僅かな割合に留まるとチャグラ医師は述べている。 モデルナ製ワクチンについてはもう1点、ファイザー製よりも供給の安定性に問題があるとの認識も根強い。しかし、実際のところカナダでは十分な量が確保されており、1回目にモデルナ製を接種したからといって、2回目の接種時にワクチンがないということは想定しにくい状態だ。 ===== 貴重な予約枠が当日キャンセルで無駄になっている 事実上、両ワクチンの効能に顕著な差異はなく、むしろ当日キャンセルにより接種時期が遅れるデメリットが大きい。しかし、依然として優劣があるとする噂が人々を翻弄し、予約枠を浪費する市民が後を絶たない。 これまでのところ幸運にも、こうした選り好みによって無駄になったワクチンはないという。しかし、当日キャンセルが公然と行われる現状を鑑みるに、予約制度そのものの崩壊が懸念される。 グローバル・ニュースは、予約枠のひっ迫を報じている。州は接種対象者を18歳以上に拡大したが、ハミルトン市が確保するワクチンの絶対数が追いついておらず、希望者に対応できていない状態だ。 診療所によってはアクセス多数でシステムに障害が起きるほどとなっており、ワクチン予約は争奪戦の様相を呈している。また、市が用意する予約専用ダイヤルにかけても予約枠に空きがないと断られるケースが続出しており、混乱は増すばかりだ。予約を取れてもすぐにワクチンを接種できるわけではなく、接種日程は早くて2週間後、あるいはそれ以上先となる。 予約枠がこれほど貴重な存在となっているだけに、枠を勝ち取った一部の市民がその権利を直前で放棄する行為は、社会の反感の的となっている。こうした人々が何度も予約を取れば予約の総数が増え、善良なその他の市民の予約日が遅延する結果を招きかねない。 日本同様、複数の予約を掛け持ちする行為も横行する ハミルトン市の出来事とは別に、カナダの一部地域では、複数の予約を重複して取る行為が問題となっている。カナダ中部の地方紙『レジーナ・リーダー・ポスト』は、すでに予約枠を押さえた人々がさらに1日でも早い接種日程を求め、2つ目、3つ目の予約を取っていると報じている。 2つ目の予約を取った時点ですでにある予約はキャンセルすべきだが、これを怠る人々が多く、結果として予約済みのはずの人が接種会場に姿を見せないという事態になっている。 複数予約を取ったうえで一部を無視する行為は、優先接種が始まった日本でもすでに問題になっている。似たケースが問題化していることを踏まえると、日本でもこの先、ワクチン銘柄の選り好み問題も起きかねない。貴重な予約枠を浪費しないよう、良識ある行動が求められそうだ。

Source:Newsweek
ファイザー製を選り好み……身勝手なドタキャン問題化 カナダ