2021
05.19

台湾有事になれば、日本はどこまで介入すべきか…アメリカは何を求めてくる?

国際ニュースまとめ

<台湾海峡の「平和と安定」を日米共同声明に従って守るためには、現実的なプランと迅速な対応が不可欠だ> 4月16日、日本の菅義偉首相は外国首脳としては初めて、ジョー・バイデン米大統領の就任後にホワイトハウスを訪れ、首脳会談を行った。この会談後に発表された共同声明は大いに注目を浴びた。 共同声明の中で両首脳は、台湾海峡の「平和と安定の重要性」と「両岸問題の平和的解決」における共通の利益に言及した。これは(1972年の日中国交正常化前の)69年以来のことで、3月の日米外相会談でも(短いが)同様の言及はあったものの、台湾はこれを歓迎。一方、中国は軽視し、在米中国大使館は「断固反対」を表明した。 だが会談からわずか数日で、台湾問題をめぐる日米の結束は一時的に揺らいだ。菅は今回の訪米について20日に国会報告を行った際、共同声明は「軍事的関与などを予断するものでは全くない」と説明した。つまり有事の際に自衛隊が関与することを示すものではないというわけだ。 これを「逃げ腰」と受け取った中国メディアは、中国が台湾に侵攻しても日本は軍事介入しないと報道。一方の台湾は、日本の「心変わり」は大したことではないと言わんばかりに自力での安全保障を誓った。 菅の発言は矛盾していない とはいえ、菅の発言は不正確でもなければ、共同声明に矛盾してもいない。どんな状況であれ、台湾と公式な同盟を結んでいるわけではない日本が、無条件の軍事的関与を宣言するのはおかしい。菅の発言はアメリカの戦略的曖昧さを一部借用したものと解釈するべきだろう。日本が関与のレベルを明確にしない限り、中国は台湾侵攻を計画する場合、日米両国の関与の可能性を考慮せざるを得ない。 共同声明での台湾への言及(および日本の関与をめぐる議論)は、ある重要な問いを提起する。台湾有事の際、アメリカは日本に何を要請するのか。その答えは日米同盟にとって極めて重要で、両国が支持表明を実際の計画・準備に結び付けるカギとなる。 少なくとも、アメリカは台湾とその上空および周辺で戦闘作戦を実施する際の拠点とするべく、在日米軍基地の使用を要請するだろう。 60年の日米安保条約改定時に当時の岸信介首相とクリスチャン・ハーター国務長官が結んだ「条約第6条の実施に関する交換公文」では、アメリカと日本は、米軍が日本国内の施設・区域を戦闘作戦行動の拠点として使用する場合は日本との「事前協議」の対象とすることで合意した。これらの関与は、日本の作戦を援護する場合を除き、日本から行われるだろう。 ===== 南シナ海で海自護衛艦などと共同訓練する米空母ロナルド・レーガン(20年7月) U.S. NAVYーREUTERS アメリカは台湾を防衛したいが日本は攻撃されていない場合は交換公文の条件に該当し、日米の「事前協議」でアメリカは在日米軍基地を使用する意思を明示する。日本が同意しなければ、アメリカの作戦実行に支障を来す。遠くから作戦を実行するか、日本以外で拠点にできる国を探さざるを得ないが、いずれも難しい。日本の(自衛隊や民間の)基地や港を使うことに日本が反対すれば、アメリカはひどく不利になる。 こうした施設・区域の使用は作戦上不可欠だが、自衛隊による支援は米主導の作戦の兵力増強につながる。そのため、アメリカが日本の関与を要請するのはほぼ確実だ。しかもアメリカは、日本がどの程度関与するかは日本の政府首脳が状況をどう捉えるか次第だと承知している。 日本は攻撃されず、紛争が限定的に思えるなら、日本は自国の安全保障に「重要な影響」があるとの定義にとどめるかもしれない。この場合、法的に日本の関与は非戦闘的な後方支援に限定される。 一方、在日米軍基地を含めて日本が直接攻撃された場合や、日本政府が状況を日本の存亡に関わる脅威と捉えた場合は、日本は戦闘や武力行使も含めて関与する可能性がある。だが、実際に日本が攻撃された場合と同じレベルまで許容するかは不透明だ。 対応は安全保障関連法に基づいて判断 アメリカは言うまでもなく、日本が攻撃を受けたかどうかに関係なく、日本が状況をできる限り広範かつ緊急なものと捉え、作戦上の柔軟性を最大限にすることを望むだろう。戦闘区域の日本の領域への近さと、有事が日本の燃料・食糧供給網に及ぼすダメージを考えれば、これは無理な主張ではないかもしれない。 日本政府が2015年成立の安全保障関連法に基づき、台湾への攻撃を米軍などへの後方支援を行う「重要影響事態」と解釈した場合、アメリカが自衛隊に支援を求める領域はいくつか考えられる。その大部分は、恐らく日本の領域内での支援活動だ。日本の米軍基地は短距離防空手段が乏しいため、米軍基地の保護は日本の重大任務となる。ほかには、日本国内における物資の供給や整備、移動手段や医療サービス等の後方支援が考えられる。 日本の領土からは離れているが他国の領空・領海には入らず、また戦闘エリアから遠い地域については、アメリカは日本に諜報や監視、偵察などの活動に加えて人命の捜索や救助等の支援を求めるだろう。事態が深刻であれば、アメリカは日本に押し寄せる難民への対応や、台湾国内での避難作戦について自衛隊の支援を要請するかもしれない。 仮に日本が直接攻撃されるか、集団的自衛権の行使を認める「存立危機事態」と日本政府が判断した場合、アメリカは安全保障関連法の規定どおり、自衛隊に武力行使を含めた全面的な作戦展開を期待すると思われる。 ===== アメリカは、ミサイルなどを用いて日本の空と海を防衛する際に日本に支援を求めるかもしれない。日本の領土と戦闘地域の間でアメリカの船舶と航空機の護衛任務を武装した自衛隊に頼むこともあるだろう。つまりアメリカは台湾周辺での戦闘において日本に武力行使を用いた支援を求めることがあり得るのだ。 一方、アメリカが何を求めようと、日本の関与は常に政治的判断となるだろう。日米共同声明に台湾を明記することを菅政権が了承した際、同政権はすなわちそれが、台湾海峡の「平和と安全」が損なわれれば日本が何らかの関与をするという意思表示だと理解していたはずだ。 もし日本が何もしない、もしくは期待外れの支援しかしない場合には、日米同盟が揺るがされるだけでなく、アメリカを中心とした世界の同盟関係そのものに疑問符が付くことになる。 この状況を回避できる前向きな兆候もある。例えば、日本政府は台湾海峡有事の際に自衛隊が取るべき対応について複数のシナリオを検討していると言われる。さらに、4月下旬の日経新聞の世論調査では、台湾海峡の安定に関与することを支持すると答えた人は74%に上った。 日本政府は、武力行使を法的枠組みに基づいて判断する傾向にあり、それによって日本の対応は変わる。もし中国が台湾を攻撃すればアメリカは迅速な関与を模索するだろうが、日本の対応にありがちな、行政上のさまざまなハードルをクリアしていくやり方では刻一刻と変わりゆく作戦展開に付いていけない。 日本の政治決断がアメリカのスピードに付いていくには、日本は今のうちから有事に際してアメリカが何を要請してくるかを知る必要がある。日米が台湾海峡の平和と安定への支援を表明した今、両国は有言実行のための現実的なプランを練るべきだ。 日経の4月26日付の論説記事が書いたように、戦後の防衛を全面的に米軍に頼ってきた日本にとって、米中の板挟みになりたくないという考え自体が間違っている。「中立はあり得ない」のだ。 From Foreign Policy Magazine

Source:Newsweek
台湾有事になれば、日本はどこまで介入すべきか…アメリカは何を求めてくる?