2025
09.01

関東大震災後の朝鮮人虐殺、「今を生きる私たちに知る責務」。歴史修正や排外主義が目立つ今だからこそ直視すべき「加害の歴史」

国際ニュースまとめ

都立横網町公園の朝鮮人犠牲者追悼碑都立横網町公園の朝鮮人犠牲者追悼碑

都立横網町公園(東京都墨田区)内の朝鮮人犠牲者追悼碑前で9月1日、関東大震災後に虐殺された朝鮮人らを追悼する式典が開かれた。

追悼式典は「このような歴史を決して繰り返さないように」との思いで毎年、開かれている。式典では、多くの参列者が追悼碑に花を手向けた。

昨今、SNSでは朝鮮人虐殺事件の発生自体を否定するような投稿も見受けられる。

追悼の辞では、歴史修正主義や排外主義が広がりつつあることに強い危惧を示す声が相次ぎ、「歴史を理解することは、今を生きる私たちの責務」と呼びかけられた。

追悼碑に花を手向け、手を合わせる参列者追悼碑に花を手向け、手を合わせる参列者

「今を生きる私たちが理解する必要」

式典は、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会が主催。実行委員長の宮川泰彦さんは開会のことばで、「人の手によって生み出された流言(デマ)により、虐殺が起こった。なぜこのようなことが起こったのか。今を生きる私たちが知り、理解する必要がある」と話した。

1923年9月1日に関東大震災が発生した後、混乱の中で「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「火をつけ、暴動を起こそうとしている」などの悪質なデマが広がり、朝鮮人らが住民の自警団や軍隊、警察などにより虐殺された。

実行委員長の宮川泰彦さん実行委員長の宮川泰彦さん

式典では「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑を守り、語り継ぐ会」のメンバーが、犠牲者を追悼する「クンジョル」を行った。

主催者によると、クンジョルとは、敬意を示すため膝をつき頭を深く下げる、朝鮮の伝統的なお辞儀。葬儀や先祖を祀る祭祀(法事)などの際に、故人に敬意を示して行われる。

追悼式典で行われた、犠牲者を追悼する「クンジョル」追悼式典で行われた、犠牲者を追悼する「クンジョル」
追悼式典で行われた、犠牲者を追悼する「クンジョル」追悼式典で行われた、犠牲者を追悼する「クンジョル」

例年、追悼式典開催と同時刻に、保守系団体「そよ風」などが会場の側で朝鮮人虐殺を否定する主張を繰り返してきた。

在日コリアンの人々らに対する差別発言も繰り返され、東京都はこれまでにも都人権尊重条例に基づく「ヘイトスピーチ」にあたると認定していた。

今年は会場周辺でそのような活動は見受けられなかったが、都はこれまでにはなかった、追悼碑の周りを塀で囲うという対応を取った。公園内の各所には多くの警備員が配置され、厳戒態勢の中で式典は実施された。

「歴史修正主義や排外主義を蔓延」を危惧

朝鮮総連・東京都本部の康景翊さんは追悼の辞の中で「関東大震災虐殺事件から1世紀を経てもなお、日本政府や東京都は、虐殺事件に対して知らぬ存ぜぬを陳腐に繰り返しながら、さらにはなかったことにしようとしている状況がある」と指摘。

虐殺事件自体を否定するような声も出てきていることについて、以下のように述べた。

「今日、私たちがここに集まったのは、犠牲者を追悼すると共に歴史の真実を正しく記憶し、そこから得た教訓を生かし、過ちを再び繰り返さないようにするためだと考えます。

国や自治体が忌まわしい歴史の汚点を否定し、隠し、教えず、日本社会に歴史修正主義や排外主義を蔓延させてヘイトクライムを増殖させている現状を大変危惧しています」 

102年前の出来事というだけではなく、今に繋がる問題があるとし、だからこそ「歴史の教訓を忘れてはならない」と話した。

また、本政府に対し、虐殺事件の真相を徹底的に調査することや、国の責任を認め謝罪することを求めた。

追悼碑に手向けられた花追悼碑に手向けられた花

関東大震災の後、起こった虐殺。政府による記録は

1923年9月1日に関東大震災が発生した後、何が起こったのか。

朝鮮人の虐殺については、政府が公開する文書でも明記されており、内閣府のウェブサイトでも確認することができる。

内閣府が事務局を務める中央防災会議に設置された「災害教訓の継承に関する専門調査会」は、2009年3月に取りまとめた関東大震災に関する報告書(1923 関東大震災 第2編)の中で、以下のように記している。

《朝鮮人が武装蜂起し、あるいは放火するといった流言を背景に、住民の自警団や軍隊、警察の一部による殺傷事件が生じた》

中央防災会議の報告書によると、殺傷事件では、朝鮮人や中国人が犠牲となり、犠牲者数は「震災の死者・行方不明者約10万5000人の内、1~数%」にあたる1千〜数千人としている。

報告書では「武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行を加えたあげくに殺害するという虐殺という表現が妥当する例が多かった」と記している。 

追悼式典で行われた、犠牲者を追悼する「クンジョル」追悼式典で行われた、犠牲者を追悼する「クンジョル」

小池都知事は今年も追悼文送らず

追悼式典は、1973年に慰霊碑が建てられた翌年から毎年実施されている。歴代の都知事は2016年まで毎年、追悼文を寄せていたが、小池百合子都知事は2017年以降、追悼式典に追悼文を送らない姿勢をとっており、批判を集めている。

都知事は今年も、追悼文を送らなかった。今年で9年連続となった。

報道によると、これに対し追悼式典の主催団体は「碑は都の所有で、歴代都知事が追悼文を送ってきた歴史がある」として抗議声明を送った

式典の追悼の辞の中でも、小池都知事の姿勢を厳しく批判し、追悼文を送るよう求める声が相次いだ。

一方、埼玉県の大野元裕知事は、さいたま市内で開かれる、虐殺された朝鮮人を追悼する行事に2年連続で追悼文を送る姿勢を示した

千葉県の熊谷俊人知事も船橋市内で開かれる追悼式に2年連続で弔電を送っており、東京と埼玉・千葉の知事で対応が分かれた形となった。

排外主義と歴史修正。参院選の演説会場では「15円50銭」めぐる発言も

7月に行われた参院選では、「日本人ファースト」や「望ましくない外国人の排除」などを掲げた参政党が14議席を獲得した。

同党の街頭演説会場では、聴衆の1人が近くにいた人に対し、「15円50銭って言ってみな」と発言。その様子が映った動画が拡散され、波紋を呼んだ

「15円50銭」は関東大震災の後に、朝鮮人と日本人を「判別」するために使われた言葉だ。朝鮮人をめぐるデマが広がった後、軍人や自警団が日本人ではないと認定するために使ったのがこの言葉だった。

うまく言葉を話せなかった外国人や障害者、標準語を話さない人の虐殺に繋がったその言葉が、令和の現代で使われたという事実は、大きな衝撃を与えた。

排外主義、そして歴史修正主義が広がりつつある今、加害の歴史にも向き合う重要性が改めて指摘されている。

(取材・文=冨田すみれ子)

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Source: HuffPost