10.06
スティーブ・ジョブズが見通した未来、外した未来
<史上最高のテクノロジー予言者スティーブ・ジョブズの没後10年、彼が予想した未来はどの程度実現したのか。その一部を検証してみた> 今年の10月5日、アップルの共同創設者スティーブ・ジョブズがこの世を去って10年が過ぎた。ジョブズは、テクノロジーの将来を見通した史上最も偉大なビジョナリーの1人。彼が設立したアップルは現在、時価総額2兆ドルを超え、世界で最も価値のある企業となった。 ジョブズの偉業は疑いの余地がない。2011年10月5日に亡くなって以来、アップルは繁栄を続けている。株価は10年前の11倍以上に上昇した。 しかし、ジョブズの将来の予測は、その多くが実現したが、外れたケースもある。その両方のケースの主なものを紹介しよう。 リモート時代を先取り ワールド・ワイド・ウェブの考案者であるティム・バーナーズ=リーがハイパーテキストを開発する数年前、1985年のプレイボーイ誌のインタビューで、ジョブズはこう語った。「ほとんどの人が自宅用にコンピュータを購入するとしたら、その理由として最も説得力があるのは、全国的な通信ネットワークにリンクできることだ」。 当時、コンピュータは主に仕事で使用されていたが、それすらも一般的ではなかったのに。 「自宅用にコンピュータを購入する主な理由は、自宅で仕事をしたい、または自分や子供のために教育用ソフトウェアを使いたい、ということだ。どちらかの理由でコンピュータの購入を正当化できない場合、他の唯一の考えられる理由は、単にコンピュータを使えるようになりたいということだ」と、ジョブズは言った。 「何かが起きていることはわかっているが、それが何であるかが正確にわからないので、学びたいというわけだ。でもそれは、いずれ変わるだろう。コンピュータはほとんどの家庭で不可欠の存在になる」 パソコンが日用品に その1年前の1984年、ジョブズは子供が幼い頃からコンピュータを使うようになると予測し、ニューズウィークの特別版アクセス誌にこんな話をした。「あなたは10歳の時にコンピュータを手に入れ、何とか電源を入れる。すると、コンピュータが『私はどこにいるの?』と問いかけるので、『ここはカリフォルニアだよ』と教えてあげることになるだろう」 ■情報過多 ユニバーサルな通信ネットワークへの接続がもたらした結果の1つは、多すぎる情報の負担だ。ジョブズはそれも予見していた。 「私たちは情報経済の世界に住んでいるが、情報社会に住んでいるとは思わない。人々は以前よりもものごとを考えなくなった。それは主にテレビのせいだ。読書をしなくなったし、あまりものを考えなくなっているのは確かだ」と、ジョブズは1996年にワイアード誌に語った。 私たちは、インターネットがクリックひとつでこれまで以上に多くの情報をもたらすものになることを予見したが、大小を問わず日常的な仕事をどれほどインターネットに依存するようになるかまでは完全に認識していなかった。 同じインタビューで、ジョブズはこう付け加えた。「だから、より多くの情報を得るためにウェブを使用する人はほとんどいないと思う。私たちはすでに情報過多の状態にある。インターネットが提供できる情報量に関わらず、ほとんどの人は消化できないほどたくさんの情報を受けとっている」 ===== ■電子商取引 ジョブズは、インターネットがある産業に特に大きな革命をもたらす可能性があることを理解していた。それは商取引だ。 売り手がデジタルへの移行の最大の受益者になるとジョブズは予測し、1996年のインタビューでワイアード誌に語った。「客は多くの店に足を運ばなくなるだろう。そしてインターネットを通じて買い物をするようになるだろう!」 しかし、そのインタビューで、ジョブズはインターネットが出版に与える影響を過小評価し、アマゾンのような小売業者と一緒にソーシャルメディア企業がウェブを支配し続けることを重要視しなかった。 ■ジャストインタイム(JIT)方式 同様の趣旨で、ネット上ではデータがほぼ瞬時で流れるため、それが日常生活のペースを完全に変えることをジョブズは指摘。伝説的なたとえ話を語った。 「今、ディーラーが『ご希望の車は1週間では入手できません。3カ月かかります』と言うとしよう。あなたは『ちょっと待って、座席が紫色の革張りのピンク色のキャデラックを注文したい。1週間で手に入らないのはどうして?』と聞く。するとディーラーは『製造しなくてはならないからです』と言う。あなたは『今、キャデラックを製造しているのか?それなら今すぐピンク色に塗ればいいじゃないか』と言う。するとディーラーは『ピンク色の車をご希望だとは知りませんでした』。そこで、あなたは『それじゃ今教えるよ。ピンク色の車がほしいんだ』と言う。するとディーラーは「ピンク色の塗料がありません」と答え、塗料のサプライヤーには納品までリードタイムが必要だと言う。あなたは尋ねる。『塗料メーカーは今、塗料を製造中なのか?』そして、ディーラーは『はい、それを依頼するまでに2週間かかります』と答える。あなたが『革の座席のほうは?』と聞くと、『やれやれ、紫色の革とは。3カ月はかかりますよ』とディーラーは言う」 「このやりとりからわかるのは、問題は物の製造にかかる時間ではないことだ。問題は情報がシステムを通過するまでにかかる時間だ。一方、デジタル情報は光の速度か、それに非常に近い速度で動く」 全否定したツールが人気に ■スタイラスペン ジョブズは、アップルのティム・クックCEOと長年CDO(最高デザイン責任者)を務めたジョニー・アイブを打ち負かすためにいくつかの予測を行った。その最も悪名高い例は、ペン型の入力デバイス、スタイラスペンに対する悪口だ。 2015年にアップルペンシルがアップルのタブレット端末iPad Proと一緒に発売されたとき、アップルは、ジョブズがほぼ10年前に口にした悪口雑言をあえてプロモーション用に再現してみせた。 「スタイラスペンなんて誰がほしがるんだ?」 2007年に第1世代iPhoneを発表した際に、ジョブズはこんな質問を投げかけた。 「買わなくちゃいけない、片付けなくちゃいけない、それからなくす。むかつくよな!誰もスタイラスなんかほしくない」 ■大画面 アップルが遅ればせながらスタイラスペンに対するジョブズの否定的な見方に逆らったのは、電話とタブレットの画面が着実に拡大していたからだ。アップル幹部は、スタイラスペンは必要になると考えた。 ジョブズは、携帯型デバイスは一定のサイズを超えてはならないと断言。2010年の電話会議中に、7インチのタブレットにはサンドペーパーを付けるべきだ、そうすればユーザーが指先を細く削ることができるから、と述べた。 ===== 彼はまた、大画面の携帯電話を巨大な軍用四輪駆動車ハマーになぞらえ、「誰も」こんな携帯電話は買わない、「手のひらでつかむことができないからだ」と語った。 2012年、アップルは7.9インチのiPad Miniを発売した。iPhone 13の大きさは6.7インチだ。 ■音楽配信 2003年のローリングストーン誌のインタビューで、ジョブズは音楽のサブスクリプション(定額制)・サービスに対する確固たる信念を表明した。スポティファイはこの時点では存在しなかったが、このアイデアについてジョブズは明確に述べた。 「人はサブスクリプションで音楽を購入したがらない。これまでシングルレコードを買い、その後カセットを買い、8トラックカセットを買い、CDを買って音楽を聴いてきた。これからはダウンロードで音楽を買いたいと思うだろう」 定額制音楽配信サービス、アップルミュージックは2015年に導入された。そしてアップルは2019年にiTunesの終了を発表した。
Source:Newsweek
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