2024
09.23

トランプ選挙集会の本当の姿を見た。大手メディアが報じない「動き」は演説が始まる前に起きていた【米大統領選2024】

国際ニュースまとめ

この夏、好きなミュージシャンのツアーに行ったり、出会いの場に出かけたり、友情の印のブレスレットを交換したり、それぞれの過ごし方をされたのではないでしょうか。私は、アメリカでフロリダ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、イリノイ4州をまわり、ドナルド・トランプ氏の選挙集会でMAGA(アメリカを再び偉大に)信者たちの話に耳を傾けてみました。

【画像】異様な雰囲気が漂う選挙集会…金ピカのベンツも並ぶ

ジャーナリストとして活動する私は、MAGA運動と極右の心理についての本を執筆中の研究者でもあります。この10年近くは極右のオンラインフォーラムに入り込み、人々がどのように過激化していくかを研究し、暴力が起きそうな時を特定してきました。客観性を保つように訓練されてはいますが、ネット空間で飛び交う狂信や陰謀論、ミソジニー(女性への嫌悪や蔑視)、ヘイトスピーチに圧倒されそうなこともあります。とはいえ、ネット上に吐き捨てられる、乱暴で悪意に満ちた言葉がオフラインの世界の姿を必ずしも反映してはいないとちゃんとわかっています。

トランプ氏の選挙集会を実際に訪れたのは今年が初めてでした。参加者たちがどんなふうに物事を見ているのか、対面して話せばわかるかもしれないと思ったのです。足を向け始めて3カ月ほどですが、すでにトランプの集会が独特だとわかりました。テレビからはほとんど見えてこないものでした。

トランプ氏の選挙集会に参加するため、列を作って待つ人たち= 2024年8月30日、ペンシルベニア州ジョンズタウントランプ氏の選挙集会に参加するため、列を作って待つ人たち= 2024年8月30日、ペンシルベニア州ジョンズタウン

集会の会場の外に着くと、目がくらくらして倒れてしまいそうで、ディストピア的なカーニバルにいるような気持ちになります。お化けが出るようなテレビゲームの世界のようです。

「トランプ」や「MAGA」と書かれた旗があちこちにはためき、ストリートパフォーマーたちがトランプをテーマにした見せ物を披露しています。ホバーボードに乗った(アメリカ政府を擬人化した)アンクル・サムや、トランプ氏のマスクをつけて、MAGA帽子を被ったブレイクダンサーたちの姿もあります。

参加者たちはおのおのクーラーボックスを持参していて、正午に差し掛かるころには、もう4時間も飲み続けていて足元がおぼつかない男性らと思う存分話をすることができます。ミラーライト(アメリカで人気のビール)の蒸気がこちらに漂ってくるようです。

MAGA帽子やTシャツを扱うお店がたくさんあって、トランプ氏のぬいぐるみやボタン、宝石、靴、小物なども売られています。友人やカップル、親子連れが所狭しと賑やかに立ち話をしています。

ペンシルベニア州ジョンズタウンで一際小さなお店を構えていた人に話を聞いたところ、1回の集会で1万ドル(約140万円)の売り上げになると言っていました。

自分のお店に並べた商品を見つめる人=ペンシルベニア州ジョンズタウン自分のお店に並べた商品を見つめる人=ペンシルベニア州ジョンズタウン

実際の「動き」があるのは、演説が始まってからではなく、選挙集会が始まるのを待っている時です。

参加は無料で、誰でも入場券がもらえます。先着順がルールで、入場券が手元にあるからといって席が確保されるわけではありません。会場が満員になれば、入場を断られます。ちなみに、トランプ氏の主張とは異なり、常に満員ということはありません。

開場時間は実際にイベントが始まる何時間も前に設定してあり、席を確保したい人たちが列を作って並びます。ペンシルベニア州ハリスバーグでは、駐車場は朝9時にオープンし、会場の扉が開いたのが午後2時、イベントが始まったのが午後4時、トランプ氏の演説は午後6時でした。

集会の会場の周りでは、あらゆる方向から音楽がガンガン鳴り響いてきます。スピーカーからだったり、生演奏だったり。ジョンズタウンでは独立戦争の服装をしているミュージシャンも見かけました。 

パラソルの下で懐かしの名曲やヨットロックを奏でる人もいました。午前中にこの人の前を通りかかった時には、ジミー・バフェットの『マルガリータビル』を歌っていました。「…searching for my lost shaker of salt」という歌詞を口ずさみながらこっちを指差してきたので、私は「Salt! Salt! Salt!」と大声で返しました。ほかの人たちは「トランプ!トランプ!トランプ!」と返していました。

昼過ぎにまたこの歌い手の前を通りかかると、聴衆の好みに寄せたパフォーマンスになっていました。歌詞の大部分をトランプを意識した言葉に変えていました。例えば『ザ・テンプテーションズ』の『マイ・ガール』を『マイ・トランプ』にするといった具合に。前に置かれたコップは投げ銭であふれていました。

トランプマスクをつけてブレイクダンスを踊る人=ペンシルベニア州ジョンズタウントランプマスクをつけてブレイクダンスを踊る人=ペンシルベニア州ジョンズタウン

選挙集会に漂うムードは、お祭り騒ぎ、コミュニティー、反抗、暗黒が一緒くたに混ざり合っています。参加者たちの間にはコンサートのアリーナでファン同士が抱くのに似た一体感があります。周りは「仲間」ばかりなので、トランプ氏への支援を正当化しなくていいというリラックス感もあります。攻撃的な反抗心がその場の雰囲気に活気を与えます。

女性たちはほとんどの場合、「私はトランプの物。残念でした」というような文句が踊るピンク色のTシャツを着ています。男性は、「トランプが嫌いなら、俺のことも嫌いだろうね。全然平気」と書かれたスポーツウェアを着ています。

トランプ氏が事あるごとにメディアを嘲笑し、選挙集会で報道機関の話を持ち出すと轟音のようなブーイングが上がることを思うと、私にとって最初の「参戦」となったフロリダ州ドラルの集会に向かいながら、一体何を目の当たりにすることになるか不安でした。このようなイベントでは絶対に中立性を保つと決めていますが、保守系の人たちに混ざると、自分のリベラルさが目立ってしまうのではないかと心配でした。

一部の例外を除いて、みんな礼儀正しく、友好的で、熱心に話しかけてきてくれます。首から記者証とカメラを下げて歩いていると、「写真を撮って」と言われます。リクエストには必ず応じるようにしています。そこで、インタビュー取材を申し込むと、たいていの人が応じてくれます。

トランプ氏の選挙集会でインタビュー取材をするときは、私はひたすら耳を傾けることにしています。取材を始めるにあたって最初は質問を投げかけますが、尋ねる内容は何でもいいのです。私が批判するつもりがないこと、矛盾をつくようなこともしないとわかりさえすれば、前大統領について思っていることを自由に話してくれます。真実だと思い込んでいる陰謀論や偽情報についてもいろいろと語ってくれます。 一生懸命話す人々に「もっと詳しく教えて」と口を挟むことはあっても、ほぼ黙って聞く側に徹します。

人気の話題は、トランプ氏が大統領選に勝利した2016年のことです。心の中にあったけれど、口にすることが許されなかったことを大胆に言ってのけるトランプのような大統領が出てくるのを待っていたのだと。「トランプって嫌なヤツかって?その通りだよ。でも、トランプは『俺らの嫌なヤツ』なんだ」とそこにいた男性の1人に言われました。すると、周りに人たちも一斉に頷き、この男性に賛同しました。 

自分たちの気持ちを話せる空間をトランプ氏が作ってくれたと称賛します。自分たちの気持ちというのは、トランプ氏が現れる前までは公共の場で口にすることが憚られた人種差別的で性差別的なヘイトスピーチのことを指しています。 

トランプ氏の選挙集会に参加するため、待っている人=2024年7月31日、ペンシルベニア州ハリスバーグトランプ氏の選挙集会に参加するため、待っている人=2024年7月31日、ペンシルベニア州ハリスバーグ

集会に参加している人たちは、トランプ氏の下品で攻撃的で失礼極まりない話し方を積極的に受け入れ、真似するのです。大手メディアはこうした集会の卑猥さや口汚い罵りをほぼ報じません。無視することができないほどに、トランプ氏の選挙集会の特徴なのにもかかわらずです。

ほとんどの出店がまだ「FUCK BIDEN」(くたばれバイデン)の旗を売っています。バイデン大統領が大統領選から撤退を表明した後でも、です。 会場近くの駐車場を見渡すと、多くの車に「くたばれバイデン」の旗がはためいています。「The Hoe is worse than Joe」(あばずれはバイデンより最悪)と書かれたおそろいのTシャツを着た家族連れたち、「たわごとはもううんざり」と書かれたトランプの髪型になるサンバイザーをかぶった子どもたち、車のバンパーには「大きなおっぱいと小さな政府が好き」とか、硬くなった女性の乳首に銃が置かれた画像と一緒に「銃とおっぱいとウイスキーが好き」と書かれているのも見かけました。

7月の暗殺未遂後は、「You missed, BITCHES」(外したね、クソ野郎)という文言とともに両手の中指を立てたトランプの画像が付いたさまざまな商品が売り出されるようになりました。

私が話した人たちは会話の中に中傷や侮辱の言葉を織り交ぜてきます。10代が親の許容度を測るかのような行動です。

カマラ・ハリス氏が民主党候補者に選ばれてからというもの、私が取材する男性たちはハリス氏が一生懸命お願いして今いる地位を築いたと言ってきます。こう話す時、彼らは自分たちが侮辱的なことを言っているとわかっているので居心地が悪そうな態度になりながら、私がどんな反応を示すかうかがいます。

私は仕事をするうえで女性蔑視とセクハラに耐えてきたので、彼らの言葉を聞くたびに怒りを感じ、うんざりします。しかし、それは隠し、目を瞬かせ、無表情のまま、彼らが話し続けるのを待ちます。

取材で話した人たちとの会話すべてに陰謀論と偽情報が登場しました。

暗殺未遂は内部の犯行だった

オバマが今でも政府を動かしている

違法にこの国に滞在している人たちは、多額のお金、恩恵、住む家、無料の教育を与えられている

犯罪発生数が過去最高を記録している

反ファシストの集団「アンティファ」がアメリカの主要都市を焼き払った

世界を一体化させようとするグローバリストの陰謀団がすべてをコントロールしている

2020年の選挙でトランプは負けたのかという質問を投げかけることにしています。すると、1人を除き、即座にまったく同じ返事が戻ってきました。「あの選挙は盗まれたものだ」。そう口にしなかった1人も肩をすくめたため、「ひょっとするとそうかもしれない」と思っていると受け取りました。

取材で耳した会話は、人間性を奪うような言葉で埋め尽くされています。彼らの攻撃の主たる対象は移民です。移民の配偶者を持つ身としては、反論しないように文字通り舌をかんで自分を抑えることもあります。

トランプ氏の選挙集会に集う人たちは「国境侵入」を嘆き、もし「正当のやり方」で入国すれば歓迎すると口をそろえて主張します。白人のトランプ支持者たちは会話の中でマイノリティーをこき下ろしますが、集会にやってくる非白人の参加者たちのことは称賛します。

トランプ支持者たちはここぞとばかりに「多様性」を持ち上げ、「トランプ支持の韓国系」のグループとイタい自撮りを撮ることもあります。この韓国系を名乗るトランプ支持者たちは、私が訪れたすべての集会に来ていました。

取材相手はすべて、トランプ氏がもし11月の大統領選で負けた場合、平和的な力の移行はありえないと考える人ばかりでした。多くが口にしたのは「市民戦争」(自ら戦いに出るという人はゼロ)、「内乱」、「我々の知っているアメリカの滅亡」、「アメリカ帝国の没落」でした。政治に携わる人々同様に、トランプ支持者たちも今回の大統領選をアメリカという国の生死を決めるイベントと見ているのです。 

取材相手がもうこれ以上話すことはないと切り上げようしたら、取材を終えるようにしています。取材中、ほとんど口を挟むことのない私に「一緒に話せてとても楽しかった」と感謝する人たちもいます。

集会で出会ったトランプ支持者たちは話を聞いてもらえない、無視されていると感じていて、自分たちが受けている不当な扱いへの腹立ちに耳を傾けてもらえる機会に心から感謝しています。この人たちは毎日の支払い、医療機関にかかること、フェアな扱いを受けることといった、自分自身や隣近所の人たちが直面している困難を知ってもらいたいのです。

話には共感するところもあります。私もトウモロコシ畑に囲まれたアメリカ中部の小さな町で生まれ育ったため、全国的な話題から文化的にも政治的にも排除されていると感じる気持ちがわかります。しかし、同時に、これらの憂いに対する反応は偏っていて、冷酷で、欺くようで、憎しみに満ちています。子ども時代や父親がやっていた労組の仕事を懐かしそうに振り返り、古くから言い伝えられている「偉大なる豊かさ」があった時代のアメリカのことを話題にしながら、自分たちが変化してゆくアメリカで不当に苦しんでいると感じています。

本来は自分たちが享受すべき国家の繁栄の割り当て分を、何の貢献もしていない部外者だったり、他人を食い物にする怠け者だったりといった恩恵を受ける資格のない人たちが手にしていると考えて、憤っているのです。

トランプ氏はまさにお手本通りのファシストの手法を使って、この怒りを正当化し、激昂するよう焚き付けます。トランプは過去を美化し、女性を軽んじ、社会を「我々」と「彼ら」に分断し、犠牲者意識や罪の転嫁、理想化された白人ナショナリストの社会階層という共有観念を生み出し、支持者たちはそれを鵜呑みにしてしまうのです。

トランプ氏の選挙集会への列に並び、「Make America Great Again」と書かれた手作りのボードを持つ子ども=ペンシルベニア州ジョンズタウントランプ氏の選挙集会への列に並び、「Make America Great Again」と書かれた手作りのボードを持つ子ども=ペンシルベニア州ジョンズタウン

参加者たちが集会の席についたあたりで、取材を切り上げるようにしています。集会が始まると、参加者たちは似た考えを持つ者同士なことに安心してディープなMAGAイデオロギーの話を始めます。

会場の外では、グッズなどを売っていた人たちが店じまいを始めます。私は車に乗り込み、会場を後にします。車のバックミラー越しに「くたばれバイデン」の旗がだんだん小さくなっていくの見ながら、悲しみと深い懸念が心に垂れ込めます。

この3カ月の取材を通して、アメリカにおける民主主義を破壊しようとする、巨大で一丸となった動きが存在することがはっきりとしました。このキャンペーンは偉大さを取り戻し、私たちの国を救うためのものだという主張の下に行われいますが、実際やっていることは真逆のことなのです。

トランプ氏の選挙集会への参加者たちはまじめな顔で自らを「愛国者」と名乗りますが、真の愛国主義はヘイトや独裁や反体制的なものが土台にはなっていません。トランプ支持者の多くがこのことを理解せず、自分たちが利用されているということにも気づいていないのでしょう。

私が取材した人たちに限った話ではありません。確かに選挙集会で出会った人たちはみなさんが思い浮かべる平均的な共和党支持者よりも極端な考えを持っていますが、世論調査の結果に目を向けると、「今よりも良かった過去」に戻れるのであればトランプ的なファシズムを信じてみるのも悪くないと思っている人たちが多いことがわかります。非常に恐ろしいことです。

トランプ氏のキャンペーンに人はなぜ賛同するのか、つまりその人たちが抱える問題や不安、欲しい物、必要な物を知ることができれば、本当に起こるべき変化が何かわかるのです。考えや生き方がまったく違う人たちと会話し、訴えにじっくり耳を傾けるだけで魔法のように何もかもがただちに改善されるわけではありませんが、始めるにあたっての第一歩としてはいいのではないでしょうか

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筆者のジェン・ゴルベック氏はメリーランド大学の教授で、専門分野は過激主義、ソーシャルメディア、悪意のあるネット上の振る舞い、人工知能です。極右の動向などについて伝えるニュースレター「MAGAReport 」を執筆しています。

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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Source: HuffPost