08.30
日本語を話さなければ「必ず不法行為」。愛知県警、内部資料で2010年にも記載。「ゼノフォビアの表れ」と専門家
「外国人は必ず何らかの不法行為がある」という心構えで、職務質問や所持品検査を徹底するよう呼びかける文書を、愛知県警察が2010年にも作成していたことが、関係者への取材で分かった。ハフポスト日本版が内部文書を入手した。
外国出身の3人が愛知県などを相手に起こした国家賠償請求訴訟では、原告側が今回見つかったものと同様の内容の文書を証拠資料として提出している。こちらは、愛知県警が2009年に作成したものとみられる。
「外国人は凶器を持っていることが多い」
ハフポスト日本版が新たに入手した内部文書は、「執務資料 若手警察官のための現場対応必携 〜君も今日からベテランだ!〜」と題する冊子。愛知県警察本部の地域部地域総務課が2010年7月、警察官向けに発行したもので、全体で133ページある。
関係者によると、新人警察官たちが警察学校を卒業する際に配布され、少なくとも2010年と2011年に入校した警察官に配られたという。
冊子の「実践編・刑事関係」には「不良来日外国人の発見」という見出しのページが収録され、次のような記載があった。
<心構え>
☆旅券を見せないだけで逮捕できる!
◎外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!!
◎応援求め、追及、所持品検査を徹底しよう!!!
続く<対応要領>では、
◯一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、
旅券不携帯、不法在留・不法残留、薬物所持・使用、けん銃・刀剣・ナイフ携帯等必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した(※)追及、所持品検査を行う。(※原文まま。徹底した、の誤り)
◯「ニホンゴワカラナーイ」に惑わされないこと。都合の悪いときの単なる逃げ口上である。それ自体が日本語であり、日本に住んでいる限り、日本語を十分理解できるので、身振り手振りも交えてどんどん追及する。
との手引きを記載している。
さらに、<留意事項>の欄では
◯外国人は凶器を持っていることが多く、1人の時は必ず応援要請を行い、間合いと、相手の動作に細心の注意を払う。
◯車両に乗車している外国人は、運転席横にサバイバルナイフ等を忍ばせていたり、急発進するので、不用意に運転席窓から首や手を入れてはならない。
と、注意を呼びかけている。
冊子の冒頭では、当時の地域部長が「本書は、現場で対応する若手警察官が、日常遭遇する事案で処理に注意を要する内容を掲載し、また、一人ひとりが自信を持って職務執行できるよう、各種活動の根拠まで網羅しました」と、狙いを説明している。
関係者によると、現在は紙の冊子は配布されておらず、各自が県警内部のポータルサイト上で見ることができるようになっている。
「執務資料」の内容は、2010年の作成当時からその後更新され、最新版からは上記のような「外国人」と犯罪を結びつけるような文言は削除されているという。
「外国人は悪いやつだと教育を受けた」
「人種」や肌の色、国籍、民族的出身などを基に、個人を捜査活動の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりする警察らの慣行は「レイシャル・プロファイリング」と呼ばれ、日本でも近年問題が明るみになっている。
警察官から人種差別的な職務質問を受けたとして、外国出身の3人が国、愛知県、東京都を相手取り、レイシャル・プロファイリングの違法性・違憲性を問う国家賠償請求訴訟を起こしている。
愛知県警で「職務質問のプロ」として長年にわたりキャリアを重ねた男性は、「若手警察官の頃は、職務質問の検挙のノルマを達成するために、『外国人っぽい人』に手当たり次第に声をかけて、職務質問することが仕事の一つでした」と、ハフポスト日本版の取材に証言した。
新人警察官の頃に「現場対応必携」の冊子を配布され、仕事に慣れるまでは度々読み返していたという。
「警察学校時代から『外国人は悪いやつ』という教育を受けてきたので、執務資料を読んでも『そういうものだ』と思い、おかしいとは感じませんでした」
男性は「ノルマを効率的に稼ぐ」ために、出入国管理法違反に当たるオーバーステイの摘発を念頭に、「外国人に見える人」に対して積極的に職務質問をしてきたと明かす。
「肌が褐色だからとか、黒いから、というのが職務質問した本当の理由ですが、それを報告書で正直に書くと違法な職務質問になってしまうので、書類上は『目を逸らしたから』などそれらしい理由をつけて報告を上げていました。
外国人の個人情報を集めることも指示されていたため、街中で外国人っぽい人を見かけたら、親切な警察官を装って『道に迷われてます?』と声をかけ、氏名やパスポート番号などの人定事項をメモします。集めた個人情報は、警察署の複数の担当課に共有していました」
男性は「レイシャル・プロファイリングは、人権を重要なものとして捉えないという警察組織の問題のうち、氷山の一角」だと話す。どういうことか。
「処理に手間がかかるだけでノルマの数字にならない犯罪は、たびたび見逃されています。また、数字を稼ぎやすい軽犯罪法違反の容疑で事件化するため、野球のバットやハサミなどを車内に保管している人に『護身用だった』と言わせるよう言葉巧みに誘導する、ということも当たり前に行われています。
他にも、(地域警察官が家や事業所などを訪問する)巡回連絡で『災害時に使用するため』と説明して集めた個人情報を、本人に無断で犯罪捜査のために利用することも日常的にされています。
レイシャル・プロファイリングは外国人だけに関わる問題だと思われがちですが、市民の人権を軽視する警察組織の様々な不当な行為と、根底ではつながっていると私は思います」
レイシャル・プロファイリングを促す制度の立て付け
東京経済大学非常勤講師の寺中誠さん(刑事政策論、犯罪学理論)は、今回見つかった愛知県警の内部文書に対し、「外国人を潜在的な犯罪者だとみなしており、それ自体がゼノフォビア(xenophobia、外国人嫌悪)の表れだ」と話す。
寺中さんによると、愛知県警察に限らず、「外国人に見える」ことだけで「不審者」と捉え、職務質問の対象とするように教える指導は、特に2000年代〜2010年代にかけて全国的に広がったという。
「外国人」が職務質問の対象にされやすい背景の一つに、出入国管理法が在留資格や在留期間に関わる行政手続きの違反に対して刑事罰を科すという、制度としての構造的な問題があると寺中さんは指摘する。
「警察当局としては、外国人であれば行政手続きの違反でも『犯罪化』して立件でき、さらに出入国管理法違反に当たるオーバーステイの摘発がノルマの対象にもなっている。こうした制度の立て付けや警察内部の方針が、レイシャル・プロファイリングを促す仕組みになっています。
そもそも日本には差別禁止法が存在しないため、差別的な法執行が事実上合法化されてしまっているという大元の問題もあります」
加えて、職務質問の法的根拠である「警察官職務執行法」第2条1項の規定が厳格に遵守されてこなかった点も、レイシャル・プロファイリングが常態化する要因の一つだと寺中さんはみる。
▽警察官職務執行法・第2条1項
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。
「公権力である警察に広い裁量を持たせ、法文が定める『合理性』の判断を非常に緩やかに解釈することを判例上認めてきた責任が、司法にはあります。
少なくとも、職務質問した理由を説明するよう市民から求められたら、警察官は『犯罪を犯していると疑うに足りる』と合理的に判断した根拠を明確に答える必要があります」(寺中さん)
松村国家公安委員長「調査の必要ない」
上述の国賠訴訟で、原告側が証拠として裁判所に提出している愛知県警の内部文書は、国会でも取り上げられた。
6月6日の参議院内閣委員会で、共産党の井上哲士議員は、愛知県警の2009年作成の執務資料がいつまで使用されていたかを質問した。
警察庁の檜垣重臣・生活安全局長は、「ご指摘の資料について愛知県警察に確認したところ、法律の改正があった場合や社会情勢の変化等、見直しが必要な都度更新している資料であり、更新日は確認できないという報告を受けています」と説明。当該資料を愛知県警が作成していたことを、事実上認めた。
だが同13日の参議院法務委員会で、警察庁は当該資料について「確認することができない」とせを修正した。
また、井上議員が「入手可能な極めて限られたものでさえこうした記載があるわけで、外国人であることだけで職務質問するという運用が警察内部で教示・推奨されてきたんじゃないか」と疑問を呈した上で、「こういう資料について、過去のものも含めてお調べいただきたい」と求めた。
これに対して松村祥史・国家公安委員長は、警察官職務執行法第2条に基づき指導してきたなどとして、「都道府県警察の執務資料の一つひとつについて、確認する必要はないものと考えております」と述べ、調査はしないとの姿勢を示している。
【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)】
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Source: HuffPost