06.26
<内部調査>北朝鮮住民の暮らしはどうなっているのか(1) 劣悪なインフラ…水道、電気、暖房、トイレの実態とは
アジアプレスは、北朝鮮住民の最近の実生活の一端を把握するため、インフラ設備から教育、医療、文化など社会生活について聞き取り調査をした。対象は北部地域に居住する住民。3回にわたって連載する。第1回は、生活の基盤となる水道、電気、暖房、トイレといったインフラ環境について報告する。(チョン·ソンジュン/カン·ジウォン)
今回の調査は今年3~5月にかけて、両江道(リャンガンド)と咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む3人の取材協力者に質問する方式で行った。北部地域に限られているため、普遍化するには限界があるが、他の地域の状況を推測することはできるはずだ。第1回目では、両江道の都市部に居住するA氏の説明をまとめた。
◆水道は時間制限、低水圧でアパートの3階以上は水来ない
A氏は3月、水道と飲み水に関する質問に対して、地域差はあるが大部分の地域で、水の供給に時間制限があるとして、次のように説明した。
「私の住む洞(町)は、1日2回、朝7時と夕方5時に水が供給されますが、水圧が低いので3階以上に住む人は(下階から)汲んでこなければならない有様です」
A氏は、「供給される水では足りず、常に水を節約しなければならない」とし、その原因についても指摘した。
「配管が古い上にポンプが悪いので、(パンデミック前の)2019年に比べて水の供給量ははっきり減りました。問題が多いです」
◆電気供給は1日1~2時間だけ、暖房費が高騰
「電気事情はもっと深刻です。今(3月)は水不足のため、1日1~2時間程しか使えない。一日中まったく電気が来ないこともよくあります」
電力の60%以上を水力発電に頼っている北朝鮮では、結氷期、渇水期に電力事情が深刻になる傾向がある。取材した3月は渇水期のため、ことさら悪かったとみられる。
「『工業線』と『住民線』がはっきりと分けられていて、『住民線』への電気供給はほとんどないけれど『工業線』にはそれなりの供給があるようです」
「工業線」とは工場、企業所の生産のための電気供給専用線であり、「住民線」とは一般家庭用の線である。電気が不足しているため、「住民線」への供給をほとんど停止しているというのが協力者の説明だ。
また協力者は、「家庭で中国産の太陽光パネルを使用する住民が多い」と述べた。
A氏は続けて、電気事情が劣悪になり、暖房費用もさらに上がったという。
「暖房費がとても高くなりました。電気がある程度来ていた頃は、ヒーターなどを使っていたのですが、今はそうした暖房器具がほとんど使えません」
そのため、薪や石炭の需要が増加し、価格も上がったと協力者は説明する。
「石炭や薪の価格も上がりました。木材は立法メートル当たり中国100元から125元に上がりました。石炭も1トン当たり110元から150元に上がりました」
※中国1元は約22日本円。
◆便所はほとんど汲み取り式 堆肥のために貯めるので
「便所は以前と大きな変化がありません。最近建設するアパートには、屋外の共同便所を現代化するとして国産タイルも敷いていますが、排水がまともにできません。(人糞を)堆肥として使うために溜めておいて、溜まったら運び出すようにしているので、臭いもひどく、今も不便です」
最近のトイレも、未だに汲み取り式の穴あき構造で作っているという説明だ。通常、北朝鮮のアパートでは水洗トイレが備えられているが、水不足が続くためあまり使用できていないと推測される。
「まれに個人の家で洋式便器を置く場合がありますが、ほとんどの人にとっては汲み取り式が習慣になっていて、洋式にしたいと思う人はいないと思います。平壌のアパートでは、便所を現代化するには十分な水量が必要だと、水圧を高めるためのポンプを中国から輸入して設置していると聞きました」
2020年10月10日、労働党創建75周年閲兵式の演説で、金正恩氏は人民の生活を顧みることができなかったことへの自責の念から、涙を流して生活の改善を誓った。しかし住民からの聞き取りから見て、地方都市の基礎的な生活インフラの状態は、改善された様子はまったくなさそうである。次回は、教育と医療サービスの状況について報告する。(続く 2 >>)
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮国内に搬入し連絡を取り合っている。
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Source: アジアプレス・ネットワーク