06.28
防衛省のイスラエル製ドローン輸入は「一線を越える」。防衛大卒業生が実名で反対する訳
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防衛省がイスラエル製の攻撃型ドローンの輸入を検討している問題で、多数の幹部自衛官を輩出する防衛大学校(防大)の卒業生からも、計画に反対する声が上がっている。
会社員の平山貴盛さん(28)はこの半年間、イスラエルによるガザでの虐殺に抗議するデモに参加し続けている。
3月には「ジェノサイドに抗する防衛大学校卒業生の会」を結成。防衛省と輸入代理店4社にイスラエル製ドローンの購入中止を求める署名キャンペーンも展開し、6月28日時点で賛同は3万筆近くに上る。
会発足のきっかけは、市民団体「大軍拡と基地強化にNO!アクション2023」による2月の防衛省との交渉で、同省が実証試験の契約を結んだ攻撃型ドローンのうち、イスラエル製が過半数を占める事実が明らかになったことだった。
「多くのパレスチナ人が虐殺されているこのタイミングで、日本政府が税金を投じ、イスラエルの軍需企業から武器を購入することは、虐殺への明確な加担になる。完全に一線を越えてしまう」(平山さん)
実名を明かし、顔を出して街頭に立ち続けるのはなぜか。そこには、「安全保障の専門教育を受けた者としての義務感」がある。
ドローンの実証事業に99億円
防衛省は、「無人アセット防衛能力」の強化を目的とした候補機の実証事業にかかる費用として、2023年度予算に「小型攻撃用UAV(無人航空機、ドローン)」30億円、「多用途/攻撃用UAV」69億円をそれぞれ計上している。
これらのドローンについて、防衛省は「空中から目標を捜索・識別して迅速に目標に対処することを想定」と説明しており、自然災害時の活用は想定されていない。
同省によると、2023年度に運用実証が決定した7機のうち、イスラエル製は5機。この5機の製造元は「イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ」、「Uvision」、「エルビット・システムズ」の3社で、同国の軍需産業の代表格が名を連ねる。
小型攻撃用UAVについて、同省は3月にスペインとオーストラリアの企業から新たに1機種ずつ実証試験の契約を結んだことを、6月21日の市民団体との交渉で明らかにした。
防衛省はハフポスト日本版の取材に、「契約を締結した機種の実証試験を全て完了させた上で、導入する機種の検討を行う」と説明した。
受けた教育を「社会に還元する」
平山さんは2015年、自衛隊の幹部自衛官の養成を目的に教育訓練を行う防衛大学校に入学した。在学中は国際政治学や安全保障学、軍事学などを学んだという。
「自由と民主主義に基づく社会を守り、国際社会に貢献するのが自衛隊であり防衛省である、という教育を受けてきました。防大では軍事力というハードパワーだけでなく、民主主義国家として法と秩序を守るという姿勢そのものが持つ『ナラティブ』の力、つまりソフトパワーの重要性も学びます」
イスラエル製ドローンの導入は、「私たちが受けた安全保障の専門教育に照らしても、絶対に正当化できません」と、平山さんは言い切る。なぜか。
「イスラエルによるジェノサイドは、国際秩序を破壊する行為です。防衛省がイスラエル製のドローンを購入することは、『日本政府はジェノサイドを容認する』という国際社会へのメッセージになり、民主主義国家としての日本のナラティブを傷つけてしまう。日本の安全保障を不安定にする行為であり、メリットに比べてデメリットが大きすぎると考えます」
防大の学生は「特別職国家公務員」として扱われるため、授業料の学生負担はなく、学生手当が毎月支給される。
平山さんは、自衛官の道を選ばなかった卒業生の一人として、自身には「外」から声を上げる役割があると語る。
「指導教官からは学生時代、『卒業後に任官しなかったとしても、君たちが民間企業などに就職して安全保障に関する国民のリテラシーを高めることは、自衛官になることとは別の形での国への貢献になる。だから自衛官以外の道を選んでも、負い目を感じる必要はない』と教わりました。
税金で安全保障を専門として学んだ一人として、自分が受けた教育を日本社会に還元する責任が自分にはあると思っています」
実名で活動したことで、平山さんのもとには卒業生などからもダイレクトメッセージが届くようになった。
「よりによって今、防衛省がイスラエルから武器を購入する必要はない」「表立っては活動できないが、陰ながらサポートしたい」といった、活動への共感や支持を示す声が、防大卒業生や在学生、現役の自衛官からも寄せられているという。
自衛隊法は、隊員の政治的行為を制限している。
「前に出て声を上げられる人は多くなく、そこは『外』にいる私の役割です。自衛隊内で、この件について周知することから始めるのでも良い。組織の内側から、ドローン輸入に疑問を持ち、動いてくれる人が今後出てくることに期待しています」
取引見直す動きに逆行
イスラエルとの関係を見直す動きは、国内外で相次いでいる。
国際司法裁判所(ICJ)は2月、イスラエルに対し、ジェノサイド行為を防ぐあらゆる手段を講じることなどを求める暫定措置命令を出した。5月にはイスラエルに対し、ガザ地区南部ラファでの攻撃を直ちに停止するよう命じている。
伊藤忠商事は同月、子会社を通じてイスラエルの軍事大手「エルビット・システムズ」と結んでいた協力覚書を終了した。コロンビアのペトロ大統領は同月末、イスラエルからの武器購入の停止を表明している。
さらに国連は6月、イスラエルを子どもの人権を侵害した国として初めて認定した。
防衛省がイスラエル製ドローンの輸入を検討して実証試験を進めたり、実際に購入したりすることは、イスラエルとの武器取引を見直す国際的な動向に逆行するものだ。
防衛省「輸入を決定した事実ない」
だが市民団体「武器取引反対ネットワーク」(NAJAT)が主催した6月21日の防衛省交渉でも、同省は候補機からイスラエル製を排除しない姿勢を維持した。
団体側は「イスラエルはガザ各地で、子どもを含む多くの民間人の虐殺をエスカレートさせている。防衛省は、イスラエルによる虐殺への加担となる攻撃型ドローンの輸入をただちに中止すべきだ」として、見解を求めた。
防衛省は「現時点で、特定の国の無人機の取得を予断するものではなく、輸入を決定したという事実はない」と述べ、あくまで検討段階であるから指摘には当たらないという趣旨の主張を繰り返した。
これに対し、NAJAT代表の杉原浩司さんは「全くの詭弁で、ごまかしの答弁。導入するための実証試験にイスラエル製の武器を入れていること自体が問題なのです。イスラエルの軍需企業に私たちの税金が流れる、このような取引が続くことはあってはならない」と批判した。
「特殊な人たち」ではなかった
これまでの人生で、一度もデモや社会運動に参加したことがなかったという平山さん。
2023年末に、アイドルグループ「欅坂46」(櫻坂46の前身)のドキュメンタリー映画を視聴し、2周年記念ライブで披露された楽曲「不協和音」に突き動かされたと振り返る。
「反骨的でものすごい熱量のパフォーマンスを見た時、虐殺に対してモヤモヤした思いを抱えたままで自分は何をやっているんだろう、これはデモに行かないといけない、と踏ん切りがつきました」
同じ頃、鈴木忠志さんが演出を務める劇の公演を吉祥寺シアター(東京)で見たことも、デモ参加を後押ししたという。ジェノサイド下に置かれた被征服者を主題とする、エウリピデス原作の舞台「トロイアの女」だった。
2024年1月、伊藤忠商事の本社前で、エルビット社との協力覚書の破棄を呼びかけるデモに初めて足を運んだ。
「行く前は正直、デモは『特殊な人たち』がやるものだと思っていました。ですが参加者と話したら、当たり前だけれど、日常のある人たちが日常の時間の一部を使ってやっていることなんだと分かりました」
そこで耳にした詩人や芸術家たちのスピーチに、はっとした。
「『我々表現者は表現するプロフェッショナル。だからこそ、虐殺に対して率先して声を上げる責任があるはずだ』と話していました。アーティストたちが、それだけの責任感を持って前に出ていたんです。
その発言を聞いた時、『まず先に行動しなければいけないのは、軍事と安全保障の専門教育を受けた自分のような人間じゃないのか』と自問しました。名前と顔を出し、マイクを握ってスピーチするようになったのは、それからです」
2月には、米空軍の現役隊員がガザ攻撃に抗議し、同国のイスラエル大使館前で焼身自殺した。隊員は、自殺を図る前にSNSでライブ配信を始め、「もう大量虐殺には加担しない」と語り、「パレスチナに自由を」と叫びながら火をつけたと報じられている。
その後、この隊員に連帯し、米退役軍人らが制服を燃やしてイスラエルへの抗議とパレスチナ解放を求める運動を展開した。
平山さんは、海外の軍人関係者たちのこうしたプロテストの動きも、他人事に思えなかったという。
「人権の尊重」謳う企業
ドローン輸入は防衛省だけでなく、輸入代理店の4社(川崎重工業、日本エヤークラフトサプライ、海外物産、住商エアロシステム)も当事者だ。「ジェノサイドに抗する防衛大学校卒業生の会」の署名では、各社に対しても購入中止を要求している。
「川崎重工グループ行動規範」は「事業活動においてすべての人々の人権を尊重します」と謳っている。
住商エアロスペースが所属する住友商事グループも、人権指針で「人権の尊重」を掲げ、「事業活動および社会貢献活動を通じて子どもの権利が侵害されることがないよう取り組んでいきます」と明記している。
ハフポスト日本版は、以下の3点について各社にコメントを求めた。
①イスラエル製ドローンの輸入に反対する声への受け止め
②防衛省との契約見直しを検討しているか
③イスラエル製ドローンの輸入は、自社の人権方針などに反しないと考えているか
4社のうち、海外物産は取材を拒否。 日本エヤークラフトサプライも、「取材の申し込みは受け付けていない」として答えなかった。その他2社の回答は以下の通り。
▽川崎重工業
①「ガザの状況を憂慮している。輸入の目的は、災害時に無人機を活用できる仕組みを検討することであり、ガザ侵攻が始まる前から計画していた。今後は引き続き国際情勢を注視しながら、適切に対処していきたい」
②「個別の契約内容については回答できない」
③ ①と同じ回答
▽住商エアロシステム
「防衛省の本入札案件は、日本の安全保障に寄与し得る防衛装備品の実証を支援することを目的としております。当社は、様々な要素を考慮して総合的に判断し、適切に対処しております」
平山さんは、「各社とも立派な企業理念を謳っている以上、意思決定の主体として、国際社会にどのようにコミットしていくかを判断する責任があるのではないでしょうか」と問いかける。
6月21日の防衛省交渉で、過去に輸入代理店など企業側が契約を途中で解消したケースがあったかを市民団体側が問うたところ、防衛省は「契約した内容を履行できないと会社側から申し出があった場合に、企業に違約金を請求した例はある」と説明した。
平山さんはこれについて、「企業側から契約を解除した前例があることが、交渉の結果判明しました。企業も主体的に中止を判断できるはずです。『防衛省に頼まれたから』という受け身の言い訳は成立しません」と指摘する。
署名は6月30日に一次集約し、7月に防衛省と4社に提出する予定だ。
【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)】
Source: HuffPost