2024
05.12

今の若者は「打たれ弱いから辞める」は間違い。若手離職の本当のメカニズムとは?坂井風太さんに学ぶ「組織の変わり方」

国際ニュースまとめ

「今の若い人はすぐ会社を辞める…」「最近の若手社員は辛抱が足りない」

近年、多くの企業で課題となっている、若手社員の早期離職。

2023年10月に厚生労働省が発表した調査結果によると、2020年3月に大学を卒業した就職者の入社3年以内の離職率は32.3%。つまり、大卒就職者のうち約3人に1人は入社3年以内に退職していることになります。

若い世代に見切られてしまう職場は、どのような問題を抱えているのでしょう。

DeNAの元人材育成責任者であり、人材育成と組織強化を支援するMomentor代表取締役の坂井風太さんに、若手離職のメカニズムや組織が抱える課題について聞きました。

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打たれ弱さと早期離職は関係ない?

ーーここ数年、さまざまな場面で若い世代の早期離職率の高さが話題になっています。

若者の早期離職は近年のトレンドのように語られていますが、実はいつの時代も新規大卒者の3年以内離職率は、30%前後で推移しています。

「最近の若者は辛抱強さがないから辞める」とも言われがちですが、そもそも打たれ弱さと早期離職は無関係であることが、過去の研究でも実証されています。若手離職のメカニズムとしては、まず経済要因、構造要因の変化があり、それに伴って価値観も変わるという流れです。

今の世代で言うなら、不景気(経済要因)による不透明な経済の見通しのなかで、終身雇用の維持は困難(構造要因)になっている。会社は「終のすみか」ではなく「止まり木」へと変わり、早期にキャリア資産を築かなければーーという価値観に変化しているのです。

一方、人材育成やマネジメントの現場は、価値観の変化に伴った手法へとアップデートされていない状況で、「自分たちの時代はこうだった」「背中を見て育て」という生存者バイアスに基づく育成が横行しています。

そんな状況下で、若い世代は「何を言っても聞いてもらえない」という不満を募らせて、「言っても無駄」だと会社に見切りをつけるのではないでしょうか。

若手離職のメカニズムとは…?若手離職のメカニズムとは…?

若手の離職を促す「生存者バイアス」とは?

ーー生存者バイアスがかかった職場の問題点について詳しく教えてもらえますか。

一言で言うなら、「ダブル・ループ学習」ができておらず、組織が硬直化していることです。ダブル・ループ学習とは、自分たちの前提や当たり前が変わっているのでは?との疑問を持つことで、常に変化やアップデートを目指す学習プロセスを指します。

一方、生存者バイアスがかかった職場では、過去の成功体験や価値観に則って問題解決を図る「シングル・ループ学習」が繰り返されているのです。例えば、若手が退職した際に「あいつがメンタル弱いから辞めたんだろう」と一蹴するのはシングル・ループ学習です。一方、ダブル・ループ学習というのは「自分のやり方が間違っていたのでは?」と考えられることです。

このダブル・ループが回っていないと、「言っても無駄」という状況が続き、次第に組織は「学習性無気力」に陥っていきます。

若手が会社に不信感を抱く「いても無駄」と「言っても無駄」若手が会社に不信感を抱く「いても無駄」と「言っても無駄」

ーー学習性無気力とはどのような状態なのでしょうか。

学習性無気力とは、人は元々無気力なのではなく、さまざまなことを学習した結果として、無気力になっているということです。

例えば、上層部に対して「こういう風に変えたらどうですか?」と提案しても、「これまでのやり方が正しいに決まっている」とシングル・ループで否定されてしまう。それが続いていくことで、社員は主体的に判断・行動できなくなっていきます。

私が最近感じているのは「聞いてくれるけれど、変えてくれない」リーダーの増殖問題です。例えば若手の意見に耳を傾けてくれるけれど、だからといって上に掛け合って変えてくれるわけではない。上司・部下の信頼関係を破綻させる大きな要因は「言行不一致」です。

若手はそんな上司に対して「何も変えられないじゃん」と失望感を抱き、「自分もこういうリーダーになってしまうのだろうか」と将来への不安を覚えてしまう。

でもこれは上司自身が悪いわけではなく、その人自身も硬直化した組織の「被害者」なのかもしれません。トップが下から上がってくる意見を潰し、全ての階層で学習性無気力が起きてしまう状態が一番まずいと思っています。

課題を放置しておくと、どうなるのか?課題を放置しておくと、どうなるのか?

自分たちの「当たり前」を常にアップデートしていく

ーー硬直化した組織を変えていくには、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。

組織は、小宇宙の集合体です。例え会社がビジョンを打ち出したとしても、直属の上司に不満を抱いていたら、会社自体も信頼できなくなります。ただ逆も然りで、いくら会社が外から評価されていなくても、自分の上司が素晴らしい人ならばあまり関係ないと感じる人も一定数いるでしょう。

活性化は細胞単位で起こるものであり、組織カルチャーを変えるには、経営理念や行動指針より先に、現場の上司やマネージャーの意識を変えていく必要があります。

多くの企業は先にミッション・ビジョン・バリューを打ち出しがちですが、本当に変えなければならないのは、その下の層にある「組織内の信念」と「行動ルーティン」です。

ーー組織内の信念と行動ルーティンはどのように変えていけばよいのでしょう?

例を挙げるとするなら、「若手には量を積ませておけば大丈夫」という考え方が浸透している職場に対しては、まず「経験学習理論」に乗っ取れば、闇雲に量を積ませることより、経験したことをもとに具体的な振り返りを行い、なぜ成功したのか・失敗したのかを分析できるようなアプローチが必要なのだと、旧来の信念を変えていきます。

組織内の信念を変えた上で、次に取り組むのが行動ルーティンの変容です。例えば、ただ量を積ませるだけで、上司がフィードバックをしなければ、若手社員は自分自身が成長しているという実感を得ることはできません。若手に成長実感を積ませるためにも「なんでできるようになったの?」「今回の対応はファインプレーだったね!どうして気づいたの?」など、振り返るタイミングを作ってあげることが大切です。

逆に、仕事で失敗した時も「相変わらずできていないな」と単に突き放すのではなく、「なんで上手く行かなかったと思う?」と話法を変えていくことで、少しずつ職場環境が変わっていく。この土台ができた上で、初めてミッションやバリューを掲げられるのです。

とはいえ、組織文化の変化とは時間がかかるもので、トップだけが変わっても意味がなく、各ユニットリーダーの変革が求められます。そして、一部のリーダーだけでなく、一定規模のリーダー陣の間で新たな価値観を「共通言語化」しない限り、本当の組織改革には繋がりません。

まずは自分から変わる意識を持ち、人材育成やマネジメントについて体系的な理論を知り、「自分たちの当たり前」をアップデートしていくことが重要です。

【PROFILE】坂井風太さん

1991年生まれ。早稲田大学法学部卒。新卒でDeNAに入社後、複数の事業部を経て2020年に子会社の代表取締役に就任し、経営改革やM&Aを推進。同時にDeNAの人材育成責任者として、独自の人材育成プログラムを開発。2022年にDeNAとデライト・ベンチャーズから出資を受けMomentorを設立。日系大企業から新進気鋭のベンチャーまで大小90社を超えるクライアントに対して、人材育成と組織強化を支援している。

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Source: HuffPost