2024
02.19

<北朝鮮内部>金正恩氏肝いりの「地方発展20/10政策」が動き始めた 建設地を選定し動員作業始まる 「うまくいくはずない」「1年中動員に駆り立てられる」と不満の声

国際ニュースまとめ

ボロボロの廃墟になり長く放置されていた「青水化学工場」の姿。現在は若干建物の改修が施されている。2017年7月に平安北道を中国側から石丸次郎撮影

北朝鮮の金正恩氏は1月15日の最高人民会議での演説で、首都と地方、都市と農村の格差が甚だしいと指摘し、地方発展のために工場を建設することを命じ「地方発展20×10政策」と命名した。それから1カ月、各地で工場建設に向けた具体的な動きが始まっていることが分かった。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆鏡城郡と漁郎郡を選定 早くも動員のために「突撃隊」を組織

「近代的な地方産業工場の建設を毎年20の郡ずつ、10年内に全国の全ての市、郡、全人民の初歩的な物質的・文化的生活水準を一段と飛躍させる」。1月15日に金正恩氏は演説で、「地方発展20×10政策」の青写真をこのように述べた。

2月中旬、両江道(リャンガンド)と咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者は、新工場の建設地が告知され、建設のための具体的な労働動員作業が始まっていると報告してきた。

咸鏡北道の今年の新工場建設地は、鏡城(キョンソン)郡と漁郎(オラン)郡だという。茂山(ムサン)郡に住む協力者は、始まった労働動員について次のように伝えてきた。

「『地方発展20×10政策』の建設に、茂山鉱山の労働者が集団的に動員されることになった。人員数は500~600人になるだろう。鏡城か漁郎に3カ月交代で動員されるそうだ。既に人員の選抜が始まっている。職場では、現場で働く『党員突撃隊』と『青年同盟突撃隊』を作ることになり、入隊を嘆願させる集まりを開いて騒いでいる」

※「突撃隊」とは、国家的な建設プロジェクトに動員される建設土木専門の労働部隊のことをいう。主に青年組織から選抜され服務期間が3年程度の常設「突撃隊」と、職場や党員などからプロジェクトごとに選抜される臨時の「突撃隊」がある。

「今年は地方工場の建設で1年が終わりそうだ。茂山郡の労働党委員会に、工事に必要な物資の支援を組織する専門部署が作られた。あらゆるものを総動員するためのお手本を作るのだと幹部らは言っている」

鴨緑江の堤防工事に動員された都市住民。無報酬労働が住民の暮らしをさらに圧迫する。平安北道を2021年7月中旬に中国側から撮影アジアプレス

◆当局「工場建設にすべての人材を動員する」

咸鏡北道のA市に住む取材協力者にも、「地方発展20/10政策」の進行状況について話を聞いた。国営企業に勤める労働党員である。

 

――早くも2月上旬から動員する人たちを選抜している地域があるようですね?
はい。A市でも多くの人を動員することになり、「党員突撃隊」「青年同盟突撃隊」「企業所突撃隊」を組織して人員を集めている。2月末から現地に行かされるそうだ。

 

――新たに作る工場では何を作るのでしょうか?
漁郎郡に建てるのは水産物加工工場で、鏡城郡には地方特産物と基礎食品の工場を建てるそうだ。まったく新たに現代的に建てるか、あるいは既存の工場の改建(リニューアル)を進めるということだ。

今年はすべての人材を2つの郡の工場建設に総動員すると上では言っている。国が、道ごとに競争させることにしたので、道の党組織は火が付いたように慌ただしくなって、動員する人員を満たせと、下の組織や職場に厳しく督促している。

◆今ある工場が動いていないのに何のための新工場建設か

――「地方発展20/10」は都市と地方の格差を解消するのが目的だと言うがうまくいくだうか?
「地方発展20/10」で、人民生活を画期的に変えるなどと言っているが、早くも不満がたくさん出ている。工場がないから物資がないのではなく、今ある工場には原材料もないし機械設備が老朽化しているからまともに動いていないであって、新しく工場を建てたからといって、いったい何が変わるのかという意見が多い。政府は、工場建設に必要な資材や設備は自ら生産した物(国産品)を使えと強調しているのだが、輸入なしに(調達が)不可能なものが多いのに。これらをどうするつもりなのだろうか。

 

――漁業が盛んな漁郎郡はうまくいくのではないか?
漁郎郡に作る水産物加工工場では、生産した水産物を人民に販売すると宣伝しているけれど、問題は、いったい誰がお金を払って買ってそれを食べられるのかということ。今、市場では商売もできなくしていて稼ぐこともできないし、(職場に出勤しても)労賃でまず食糧を買わないといけない。水産物をたくさん生産したとしても、金が無くて買える人はあまりいないはずだ。

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