2024
02.18

私たちが知らない、彼女たちがここに来た理由と人生。「すっぽり歴史から抜けていた」。戦争と貧困、差別の中を生き抜いた姿が伝えること

国際ニュースまとめ

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女性たちは、なぜ海を渡って日本へ来て、川崎の地で生きているのかーー。

戦争と日本の植民地支配に翻弄された、在日コリアンの女性たちの人生を追ったドキュメンタリーが公開された。

神奈川県川崎市川崎区に生きる在日コリアンの女性たちを記録したドキュメンタリー映画「アリランラプソディ 〜海を越えたハルモニたち〜」の上映が、2月17日から東京で始まった。 

K’s cinema(新宿区)での初回上映の後には、金聖雄監督と映画に出演した在日コリアンの女性たちが映画公開に対する思いを語り、朝鮮民謡を披露した。

映画「アリランラプソディ」より映画「アリランラプソディ」より

戦争に翻弄され、生きる場所を探し海を渡った

「アリランラプソディ」は、川崎市川崎区の桜本地区などで暮らす「ハルモニ」(おばあさんの意)の人生を記録した映画だ。

映画の中で、金監督は取材をした在日コリアンの女性たちを、親しみを込めて「ハルモニ」と呼んでいる。 

太平洋戦争に朝鮮戦争。戦争に翻弄された在日コリアン一世の一人一人の人生には、それぞれの物語があり、日本へ渡ってきた理由がある。

しかし、日本に住む人々の多くは、彼女たちの「人生」について知らない。 

初回映画上映後のアフタートークで、監督の金さんは「ハルモニたちがこの日本になぜきたのか、なぜここで生きているのかということが、すっぽり歴史から抜けているような気がしています」と語った。

「ハルモニたちが自分の言葉で語れる時に、今、記録しないといけないという気持ちがあって映画にしました」

アフタートークで話す「アリランラプソディ」の金星雄監督アフタートークで話す「アリランラプソディ」の金星雄監督

金さんは、大阪・鶴橋生まれの在日二世。自身の両親世代にあたる在日一世の女性たちを長年にわたって取材してきた。

在日コリアン女性の日常と“遅れてきた青春”を記録した、金さんのデビュー作「花はんめ」(2004年)の撮影を開始してから、20年以上にわたって女性たちの側でカメラを回し続けた。

そこには、1998年に77歳で他界した母親への思いがあるという。

「ここにいるハルモニたちと同じような思いを持って、日本に渡ってきた母がいて、私が今ここにいます。母は幸せだったろうかと思います」

「言い尽くせない苦労をハルモニたちもしてきました。ハルモニたちが生きてきた人生を、目一杯に肯定したいという思いでいっぱいです」

アフタートークでマイクを握る、「アリランラプソディ」の出演者、石日分さん。アフタートークでマイクを握る、「アリランラプソディ」の出演者、石日分さん。

映画に出演した、在日二世の石日分さん(93)は、「私たちの映画を観にきてくれてありがとうございました」と会場一杯に集まった人たちに笑顔で感謝の思いを述べた。

ハフポスト日本版の取材には、「晴れがましい思いです。今日は若い人たちがたくさん来てくれていたようで、皆さんの雰囲気や賛同してくれる様子を見て、うれしくなって元気がでました」と話した。

アフタートークには、石さんを含む映画に出演していた女性5人が駆けつけ、朝鮮民謡「アリラン」などを披露した。

「戦争反対」や「差別は許さない」という言葉の重さ

金さんは、ハルモニたちが日本語を学ぶ教室や休日の団らんなど、様々な「日常」を撮る中で、差別や戦争に反対の声をあげる女性たちの姿も取材した。

自らが太平洋戦争や植民地支配を経験したからこそ、「戦争は嫌だ」「戦争だけはダメだ」と、女性たちが2015年に安保法案関連法反対のデモ行進を川崎区で行った様子。その後、川崎でのヘイトスピーチに対して「差別は許さない」と声をあげた女性の姿も、カメラに収めている。

映画より。「さべつはゆるしません」と横断幕に書く女性たち映画より。「さべつはゆるしません」と横断幕に書く女性たち

金さんは当時を振り返り、アフタートークでこう語った。

「戦争反対の素敵なデモがあった後、当てつけのように、ハルモニたちが住んでいる川崎にヘイトスピーチがやってきました」

「顔が一人一人思い浮かぶハルモニたちが住む場所にヘイトスピーチが来た。ヘイトスピーチは撮りたくなかったけど、カメラを持って駆けつけました」

朝鮮半島にルーツを持つ人たちに向けたヘイトスピーチをぶつける人々に、「帰れ」「差別はやめろ」と叫ぶカウンター。そこに一人のハルモニが一人で駆けつけ、カウンターに加わった。

「ぼくたちが発する『戦争反対』や『差別反対』『平和』という言葉とは、少し違うと感じました」(金さん)

戦争や差別を嫌というほど経験し、その中を強く生きてきたハルモニたちだからこそ、発せられる言葉に、「重み」があった。

映画より映画より

映画では、戦争や差別、貧困など、思い出すのもつらい過去を女性たちは語っている。

映画「花はんめ」のための撮影をしている時には、つらい過去を聞くことをためらったり、意図的に避けたりしていたという金さん。

しかし、「アリランラプソディ」では、女性たちが川崎に生きている理由を伝えるため、一人一人の人生に向き合い、記録した。

映画が完成した後、一人の出演者から、感謝の言葉を伝えられたという。

「歴史を語ってくれたハルモニから、『インタビューで語るのはつらかったけど、みんなで共有してくれるのは本当に嬉しいこと』という言葉をいただきました」

映画を通して、観客は「ハルモニ」たちの言葉を受け取る。

私たちは、その言葉に込められた思いを、どんな未来に繋げていけるだろうか。

【「アリランラプソディ」予告編動画】

K’s cinemaでの上映は3月1日まで。上映後には毎回、アフタートークが予定されている。

その後は、神奈川、京都、大阪、兵庫などで上映される。詳細は映画公式サイトから。

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Source: HuffPost