02.18
月に1度やってくる悩み『PMS』は生理のない男性も知りたがっている。PMS対策アプリが有料でも利用者数を伸ばしているわけ
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PMS(月経前症候群)に苦しむ人やそのパートナーの悩みを解決する相談サービス「ケアミー」が利用者数を伸ばしている。
ケアミーはPMS対策に目的を絞ったアプリで、ヘルスアンドライツという2018年に設立されたベンチャー企業が運営している。
日本ではPMSの悩みを抱える人が約1000万人に上るとされる。同社が2024年1月中旬、月経随伴症状が生活に支障をきたしている女性400人(15〜49歳)に婦人科を受診したことがあるか尋ねたところ、「受診したことがない」と答えた人は53.3%だった。2人に1人が婦人科とは距離がある実態が見えてきた。
理由として最も多く聞かれたのが「受診すべきかどうか分からない」だった。
受診したことがあると答えた46.7%も、医師に診てもらったからといって不安が消えるわけではないことがわかった。このうちの半数近くが、医師に聞きたいことを聞けなかったという経験をしていた。
ケアミーだからこその機能とは?
ケアミーは、ヘルスアンドライツが独自に開発した予測モデルによって利用者のPMSを分析したり、予測したりするサービス。2020年5月にサービスを開始してから約3年間に受けた1万件超の相談データと生成AIを活用した相談チャット機能も備えている。
特徴の一つが、PMSの症状を細かく記録できることだ。アプリを開くと、「腹痛」「乳房の張り」「食欲旺盛」「便秘」「性欲高め」などPMSによる身体的な症状が41種類、「イライラ」「孤独感」「集中力低下」「やる気がでない」「情緒不安定」など精神的な症状は19種類は表示され、その中から自分に当てはまるものを選ぶ。
毎月さまざまな症状が現れるが、それがPMSによるものなのか判断がつかない人は多い。ケアミーは利用者の記録を分析し、生理予定日の表示とともに、例えば「生理6日前にあなたに現れる不調」として「頭痛80%、イライラ80%、やる気が出ない40%、眠気33%、乳房の張り33%、集中力低下13%、腰痛7%、肌荒れ7%」というふうに日によっての不調の種類や確率を知らせてくれる。
相談チャット機能は、調べればいろんな情報を知ることができるインターネット検索とどう違うのか。「検索してまず出てくるのは産婦人科やヘルスケア系大手による情報が多く、万人が見て大丈夫な一般論なことが多い」と同社。一方で、実際の悩みは「おりものの色が最近変わってきた」などその人ならではなことが多い。生理不順と一言で言っても、人それぞれにいろんなパターンがある。
ケアミーの相談チャット機能は、産婦人科医の監修のもとで月経トラブルやPMS、妊活、不妊、婦人科系疾患など幅広く対応している。質問を投げかけられてから返答するまでにかかる時間は30秒ほどだ。
このチャット機能を開発する前は、午前9時から午後5時まで同社に所属する産婦人科医や医学情報に詳しいスタッフが「人力」で相談に対応していたという。この時の相談データが現在のチャット機能に活かされている。
PMSは本人が悩むだけではなく、周りの人に影響を及ぼすこともある。パートナーなどに体調不良を伝えられれば、どうすることもできないイライラや体の不調を相手に理解してもらいやすくなる。その手助けを目的として、利用者が自分の体や心の変化をパートナーなどと共有できるペアリング機能もついている。
「もっと早く…」の後悔をなくすため起業
ケアミーを運営するヘルスアンドライツの代表を務める吉川雄司さんは、日用品大手のP&Gジャパンや就職支援サイトで知られるワンキャリアでの勤務経験が持つ。
男尊女卑の社会への嫌悪感を感じていた母親と父親のもとで、妹2人とともに育った。進学した大阪大学の外国語学部では、同級生の7割が女性という環境で学んだ。就職活動をする同級生たちの話を聞くたびに、なんとなく日本の会社は男性の方が有利な扱いを受けていると感じるようになった。
吉川さんは外資系のP&Gを就職先に選んだ。日本企業に勤めれば、ジェンダー間の扱いの違いなどに居心地の悪さを感じるのではないかと危惧したからだ。その後に転職したキャリア支援のスタートアップで、働く女性の悩みに強い関心を持つようになっていった。
ちょうど吉川さん自身が結婚するタイミングだったこともあり、子どもが生まれることや教育に関わるようなビジネスを立ち上げたいと考えるようになった。
2017年、市場調査に乗り出した。アメリカやイギリスでは不妊治療関連を中心にフェムテック分野の資金調達が活発だとわかった。
日本はどうかと調べてみると、年間の体外受精の治療件数が約45万件(当時)で、人口規模が2.6倍のアメリカに比べても相当多かった。
そこで、100組超のカップルに不妊治療についてのインタビューを行った。
99%の人たちがインタビューの中で口にした共通のもどかしさが「もっと早く知りたかった」だった。治療の大変さを知らない人が多いことも発見だった。
インタビューに応じた1人は中学生のころから生理痛が重かった。母親から「子どもを産んだら軽くなるよ」と言われてきたが、その後、症状は悪化して不妊症の原因にもなる子宮内膜症を発症したという。
このように「もっと早く適切な治療をできていたら」と後悔するケースをなくすために、早い段階で適切な情報を届けることに事業の目的を据え、2018年1月に会社を立ち上げた。
ケアミーは2020年5月、生理管理アプリとして誕生した。しかし、すでに他にも複数の企業が同じようなサービスを展開していた。1年ほど経ったところで、多くの人が深い悩みを抱えているPMSに狙いを定めることにした。
男性側からパートナーの女性にケアミーを勧めるパターンも出てきているという。 吉川さんは「男性もPMSで悩んでいる。パートナーの不調について『これは俺のせいじゃない』というところまでわかっている人もいる。男性側からの知りたい意欲は高い」とし、SNS上でケアミーを知ってもらうきっかけづくりにも取り組んでいる。
ケアミーを運営するうえで、吉川さんにはこだわっていることがある。それは、収益源を広告収入に頼らないこと。不安を煽って商品を買わせたり、課金させりするような広告が表示されると、利用者が嫌な思いをしてしまう。それは避けたいと、アプリ利用のサブスクリプションのみで収益を立てている。
利用者数は2020年5月のサービス開始から、4万人(2021年)、30万人(2022年)、60万人(2023年)と右肩上がりで増えている。有料会員は1カ月プラン(480円)、半年プラン(1800円)、年間プラン(2880円)のいずれかを選ぶ。有料会員の割合は非公表だが、吉川さんは「一般的に(サブスクビジネスにおいて)優秀とされる割合より高い」と話す。
吉川さんは「日本では月経がある人の3割にあたる約1000万人がPMSに悩んでいる。ケアミーを使っているのはまだ60万人で、成長の余地がある。今後は更年期にも領域を広げていきたい」とさらなるビジネス展開を見据えている。
Source: HuffPost