08.13
タリバンがアフガニスタンを奪い返す勢い──バイデンは何を読み違えたのか
<米軍撤退の方針に変化はなく、タリバンが首都カブールも制圧する事態になれば、アフガン侵攻から20年間の進歩は全て無に帰す> アフガニスタンの反政府勢力タリバンは8月12日、同国南東部ガズニ州の州都ガズニを制圧した。この1週間でタリバンの手に落ちた州都は、これで10カ所目だ。(注:報道によると、タリバンはその後一夜にして、人口で第2、第3の都市であるカンダハルとヘラートも制圧した)。 同盟諸国の軍がアフガニスタンからの撤退を進めるなか、タリバンは急速に国内の幅広い地域を掌握しつつある。この事態に当局者たちは、タリバンがいずれアフガニスタン全土を掌握する可能性を懸念。その場合、タリバンが最後の「仕上げ」として狙うのが、おそらく首都のカブールだろうと専門家たちは考えている。 シンクタンク「国際危機グループ」のアフガニスタン担当上級分析官であるアンドリュー・ワトキンスは、12日に本誌の取材に電話で応じ、「過去1週間か10日だけを見ても、事態は急速に変化している」と指摘。さらに次のように続けた。 「私を含め多くの人が、軍事情勢やタリバンとアフガニスタン政府の軍事力のバランスを検証した上で、アフガニスタン政府には――武器やテクノロジーがあるとか、空で有利に戦えるなどの理由から――タリバンとの長引く戦いに、あと数年は持ちこたえる能力があると考えていた」 政府軍が意欲を失いつつある ワトキンスは、アフガニスタンは大きな分かれ目に直面していると指摘。政府軍が、各州の州都を守るために戦う意欲を失いつつあると分析した。タリバンはこれまでに全34州都のうち10の州都を掌握。広さで言えば、アフガニスタン全土の約3分の2を支配下に入れている。 だがワトキンスは、タリバンによるアフガニスタン全土の制圧は、必ずしも「避けられない事態」ではないと言う。より小規模な地域を制圧したのと同じやり方で、カブールを制圧しようとするのは難しいと指摘した。 「大規模な要塞であるカブールがすぐに陥落するとは限らない」と彼は述べ、こう続けた。「カブールで(そのほかの地域と同じような)市街戦を展開するのは難しい。都市部は迷路のように入り組んでいるところや、住宅街が無秩序に広がっているところがある。通りから通りへと移動しながら戦い、最終的に市全体を制圧しようとするのは、ひどく骨の折れる作業になる」 アメリカは2001年の9・11同時テロの後、アフガニスタンに侵攻した。以降、現地で米軍主導の軍事作戦を展開してきたが、既にほぼ全ての米部隊がアフガニスタンから撤退。8月末には最後の部隊が引き揚げ、撤退を完了させる見通しだ。 ===== 米国防当局者は11日、ロイター通信に対して、米情報機関の分析を基に、カブールが30日以内にもタリバンに包囲され、90日以内に陥落するおそれがあるとの認識を示した。 こうしたなか、アフガニスタンから全ての米軍部隊を撤退させるというジョー・バイデン米大統領の決断に批判の声があがっているが、バイデンは10日、米軍の撤退について「後悔はない」と述べ、方針の見直しを否定した。アフガニスタン政府に対し、自分たちの国を守るために自分たちで戦うよう呼びかけた。 ワトキンスによれば、真の問題は、タリバンがいかにアフガニスタン政府を降伏させるかだという。カブールが意外に早く陥落する可能性はあるが、アシュラフ・ガニ大統領が戦わずしてカブールの支配権を放棄する可能性は低いとワトキンスは指摘する。 豪ディーキン大学の名誉准教授でアフガニスタンの専門家であるクロード・ラキシッツは、アフガニスタンの治安部隊に、ガニの政府のために命を懸けて戦う意思や意欲がないことが明らかになりつつあると語った。 「タリバンに追い風が吹いており、彼らがカブールを目指す道のりは、さほど困難なものではなくなるだろう」と彼は12日に本誌宛てのメールの中で述べた。「タリバン発祥の地であるカンダハルの大部分も、既にタリバンによって制圧されている。治安部隊は、これ以上抵抗しても無駄だという思いを強めるだろう」 連合軍の協力者たちに待ち受ける悪夢 ラキシッツは、タリバンが今後権力を掌握する可能性が高く、彼らは連立政府の樹立には関心がないだろうと言う。「タリバンは自分たちの勝利の匂いを嗅ぎ取っており、権力を共有する気などまったくない。彼らはガニを大統領の座から追い出したいと考えている。アメリカがガニを見捨てたことも知っている。バイデンも、決定を覆すつもりがないことをはっきりと示している」 タリバンが率いる政府はどのようなものになるか、という質問に対して、ラシキッツはこう答えた。「タリバンの勝利は何よりも、女性と子どもにとって悪いニュースとなるだろう。彼女たちが過去20年の間に苦労して手に入れた権利が、すべて無効になる。このことは、既にタリバンが制圧した複数の地域からの報告で分かっている。恐ろしいことになる」 またラシキッツは、タリバンがカブールに侵攻するまでには、政府や軍の高官たちはおそらく安全な場所に避難していると予想。だが後に残されたそれ以外の公務員や軍関係者は、手荒な扱いを受けるだろうと述べる。 「通訳や料理人、運転手など、連合軍に協力したことが分かっている者たちは、おそらく射殺されることになるだろう。既にこうしたことが起きているという複数の報告がある。ターゲットを定めた暗殺行為は、既に起きているのだ」 米軍撤退後のカブールに、地獄が迫っている。
Source:Newsweek
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