2021
08.11

文化財の保存と公開、そのジレンマをデジタルで解決した『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』展の凄さ

国際ニュースまとめ

<いままでにない迫力満点の絵画鑑賞体験を提供するデジタルアート展が開催中。そのダイナミズムに注目が集まりがちだが、美術館や博物館が長らく抱えていた「矛盾」を解消しうる技術を採用している> 日本画の代表ともいえる浮世絵や金屏風、そして金襖絵の数々を、巨大スクリーンに映し出すデジタルアート展『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』が、東京・大手町三井ホールにて、7月16日から開催されている。 解説シアターで作品の見るべきポイントをナレーションとともに紹介された後、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』や歌川広重の『東海道五拾三次』、俵屋宗達と尾形光琳が描いたふたつの『風神雷神図屏風』、伊藤若冲の『仙人掌群鶏図』といった江戸期を代表する美術作品が、縦7m×横45mの3面ワイドスクリーンに映し出され、いままでにない迫力満点の絵画鑑賞体験となるだろう。 その作品ラインナップは国宝や重要文化財を含め計42点で、隔日でプログラムが入れ替わる。 また、巨大映像とはべつに、『冨嶽三十六景』と『東海道五拾三次』のうち58作品を12台の大型4Kモニターで次々と映し出す『Digital北斎×広重コーナー』も見どころのひとつだ。 音楽とのコラボレーションやCG演出もあって、そのダイナミズムに注目が集まりがちだが、それだけが本展の主旨ではない。 絵師の緻密な技術をダイレクトに伝えるためでもある。そして、その肝となった技術が、アルステクネ社が開発した独自のDTIP(超高品位3次元質感記録処理技術)だ。 浮世絵の摺りによる微細な凹凸や和紙の繊維の質感を立体的に復元 DTIPによって、さまざまな角度から数種の光を当てて得た内側の構造や反射の情報から成る3次元データを2次元に再構築。浮世絵の摺りによる微細な凹凸や和紙の繊維の質感、金屏風と金襖絵の金箔・切箔・金砂子などの素材の違いまでも立体的に復元した。 加えて、20億画素という超高解像度によって、一見しただけではわかりにくい、狩野邦信による『源氏物語図屏風』内で女性が着る振袖の細かな紋様や、作者不詳の作品『平家物語図屏風』に出てくる多数の人物の表情ひとつひとつを、巨大化することで明らかにしている。 絵師たちやそれに関わる摺師や彫師も、自分たちの技がここまで詳らかにされるとは想像しなかっただろう。しかし、拡大されたことで、よりいっそう光る彼らの超絶技巧と、粗の一切ない作品へのこだわりに圧倒されるはずだ。 葛飾北斎の『冨嶽三十六景』より『凱風快晴』。北斎がこだわった凹凸による表現や、和紙の地合いが見て取れる また、このデジタルアート展は、新たな美術展の姿をも提示する。 ===== 期間に縛られず、開催場所も問わないデジタルリマスターの技術 美術館や博物館は相反する二つのミッションをもつ。ひとつは文化財の保存。そしてもうひとつが文化財を市民に公開することによる教育的な面だ。 しかし、公開するということは、文化財がある程度光にさらされ、人の動きによって温湿度調節が一定でない場所に持ち込まれることを意味する。 これを避けるために、アクリル板を隔てて間近で見られないなど、これまでは鑑賞の制約を余儀なくされていた。 とくに館外へ持ち出して巡回するような特別展は、運搬に損傷のリスクを伴うだけでなく、昨年からの新型コロナウイルス感染症蔓延の状況下では、客の密集回避のため、開催自体が減少する可能性もあるだろう。 この公開と保管のジレンマの解決策となりうるのがデジタルリマスターだ。 現物は暗室で保管しつつも、作品をモニターで展示。データと設備さえあれば期間に縛られず、それもミュージアムに限らない複数箇所で同時に展開することができるため、自然と市民は文化財に触れる機会が増す。もちろんそれも作品の質感までわかるような高度なデジタルリマスター技術があってこそだ。 監修を務めた日本美術史家で岡田美術館の小林忠館長は、「巨大映像での感動的な体験が、美術館や収蔵先に足を運ぶきっかけになってほしい」と語っている。 歌川広重の『東海道五拾三次』より『日本橋 朝之景』。巨大映像で映し出されると、賑やかな江戸の市井にタイムトリップしたよう 巨大映像展は9月9日まで東京で上映後、大阪でも12月3日より堂島リバーフォーラムでも開催。また、第2弾、第3弾も企画中だという。 読者諸兄も絵画鑑賞の経験の有無にかかわらず、ぜひ新しいアート体験をしつつ、江戸時代の絵師の匠の技を目撃してほしい。 巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界-会期:2021年7月16日(金) ~ 9月9日(木) 開館時間:10:30~19:30(最終入館は閉館の60分前まで)会場:大手町三井ホール (東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 3F)観覧料:一般2,000円/大学生・専門学校生1,500円/中学生・高校生1,000円(全て税込み)※満70歳以上、小学生以下、障がい者の方(付添者は原則1名まで)は入場無料公式サイト:https://www.faaj.art/

Source:Newsweek
文化財の保存と公開、そのジレンマをデジタルで解決した『巨大映像で迫る五大絵師 -北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界- 』展の凄さ