2021
07.31

密林で虐殺された遺体少なくとも10数体発見 軍と武装市民の戦闘激化するミャンマー

国際ニュースまとめ

<突然のクーデターから半年、この国の状況はさらに混迷の度を深めている> クーデターで民主政権を崩壊させアウン・サン・スー・チー氏やウィン・ミン大統領ら民主政府要人を逮捕、訴追。その一方で反軍政を唱える市民への弾圧を強めているミャンマー軍事政権は8月1日にクーデターから半年を迎える。 実弾発砲を含めたあらゆる人権侵害が反軍政の市民に対して行われているなか、各地で「国民防衛隊(PDF)」という武装した市民による軍との衝突、戦闘が激化しており、サガイン地方では軍とPDFによる激しい戦闘が起きた。 この戦闘で戦禍を逃れるためジャングルに逃れた市民が、掃討作戦を続ける軍に殺害されるケースもあり、同地方カニ郡区付近のジャングルで住民5人の虐殺遺体が発見され、付近には少なくとも10人の遺体が埋まっている可能性があるという。 発見された遺体の中には樹木から吊り下げられた様な明らかに「虐殺」された遺体もあり、軍による「蛮行」「人権侵害」の証拠として国際的な人権団体が厳しく非難する事態となっている。 密林に逃れた市民を軍が虐殺か 米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が7月28日に伝えたところによると、サガイン地方カニ郡区ジーピントゥイン村近くのジャングルで首をロープで縛られて木に吊り下げられた遺体1体とその近くで遺体4体を住民が発見した。 さらにその付近には遺体を埋めた集団埋葬の形跡が3か所あり、少なくとも10人の遺体があるとみられているものの、周囲に地雷が埋められている可能性があるため、発掘作業は行えない状況が続いているという。 遺体の身元は依然不明だが、うち1人は60代の男性とみられている。この男性は武装市民の組織「国民防衛隊(PDF)」とは無関係のジャングルに避難した一般住民とみられている。 カニ郡区では軍が侵攻してきた7月11日以来、軍兵士と武装市民による戦闘が激化し、多数の犠牲者、行方不明者が出ているといわれており、その安否が気遣われている。 戦闘への巻添えを恐れた一般の住民が付近のジャングルに逃げたが、そこへ武装市民を追跡、掃討する目的の兵士らが追跡し、避難民を発見しては無残な方法で殺害したのが発見された5人の遺体とみられている。 現地のPDF関係者によると、軍が侵攻して一般市民に対して武力行使を始めたことから住民らが周辺地区のPDFに支援を求め、多くの武装市民がカニ郡区に駆けつけて軍と戦闘になったという。しかし駆けつけたPDFも多くが軍による包囲網のトラップにはまり、多くが命を落としたとされている。 ===== 7月26日には軍が、潜伏していたPDFのメンバー10人を逮捕したが、その後消息不明となっているという。さらに今回の5人の遺体発見とは別に軍との戦闘で少なくともPDF側に15人の犠牲者が出ているという。 こうしたカニ郡区での戦闘激化、犠牲者の増加をRFAが軍政のゾー・ミン・トゥン報道官に問い合わせているが、回答は一切ないとしている。 各地で武装市民が蜂起、軍と衝突 民主政権のスー・チー氏率いる最大与党「国民民主連盟(NLD)」がクーデターで事実上解体に追い込まれたことを受けて、NLDなどが軍政に対抗する民主組織「国民統一政府(NUG)」と軍の武力弾圧に抵抗するための武装市民組織「PDF」を組織した。 このPDFは軍の武力行使に「目には目を」と対抗するための組織で、学生や若者が国境地帯で同じく軍政と長年武装闘争を続けてきた少数民族武装組織と合流、戦闘訓練や戦場での救急措置などを学び、武器を供与されて都市部に戻り、軍と戦闘に従事している。 地方都市ではこうしたPDFメンバーが軍から人権侵害を受ける市民の保護のために軍に武力抵抗を続けている。 さらに西部チン州、北部カチン州、東部シャン州やカヤー州、カレン州などでも地元の少数民族武装組織と軍との戦闘が激しくなっており、クーデターから半年となる8月1日を前にミャンマーは実質的には既に「内戦状態」にあるといえる状況だ。 住民1500人以上が密林に避難 こうした状況を受けて国際的な人権団体やミャンマー国内で地下活動を続ける人権団体などは軍政の「蛮行、虐殺」を厳しく非難している。2月1日のクーデター以降、これまでに殺害された反軍政の市民らはすでの930人を超えているとされるが、実数はさらにこれを上回るとの指摘もある。 戦闘があったサガイン地方カニ郡区では4月2日以降の戦闘でこれまでに住民約1500人がジャングルに逃れて避難生活を余儀なくされているという。 住民によると軍が住宅に押し入り、現金や生活用品、食料を奪取したり、暴力、脅迫、家の破壊などが続いたりしたために避難したとしている。避難先のジャングルでは軍に発見されるとRPGと呼ばれるロケット弾まで撃ち込まれとこともあり、住民たちは軍に発見されないように移動を続けているという。 住民の1人はRFAに対して「ジャングルで発見されれば軍に殺されるし、自宅に留まっていても殺される」と行き場のない苦悩を明かした。 ミャンマーの民主政権復活を求める国民は軍による弾圧強化で犠牲者や避難民が増加の一途を辿っている。こうした厳しい苦しい状況のなかこの国は、クーデターから半年を迎えようとしている。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など ===== 国軍と武装勢力の激しい戦闘 RFA Burmese / YouTube

Source:Newsweek
密林で虐殺された遺体少なくとも10数体発見 軍と武装市民の戦闘激化するミャンマー