2023
08.16

中絶の権利や性的マイノリティの権利を覆し、時代に逆行する米最高裁。法廷と社会が信頼関係を築くには

国際ニュースまとめ

アメリカ合衆国最高裁判所アメリカ合衆国最高裁判所

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言論の自由か、差別か

米国最高裁判所は、6月末、ウェブデザイナーが同性カップルへのサービス提供を拒否できるとの判決を下した

この訴訟で争われたのは、LGBTQI+の人々が差別なく企業から商品やサービスを受ける権利と、サービスを提供する側(デザイナーやフォトグラファー、作家など創作活動をするアーティストに限る)の言論の自由の権利である。

裁判は一般的にzero-sum(ゼロサムゲーム:勝つ側がいれば、負ける側がいる)と言われている。双方の権利の主張がいずれも認められるべきものである本件のように、どちらが勝っても間違いとは言い難い、判断の難しいケースが最高裁まで持ち込まれる。

このように最高裁には妊娠中絶の権利をはじめ、人種差別問題、性的マイノリティの権利、死刑囚の再審請求など、アメリカ国民の未来を決める重大な判決が委ねられている。

前述の判決について、メディアは「性的マイノリティの権利における敗北」と報じ、バイデン大統領は「この判決がLGBTQI+のアメリカ人に対するさらなる差別を助長するのではないかと深く懸念している」とコメントした。 

言論の自由を守ることも非常に重要だと再度伝えたうえで、私は、マスメディアの報じ方や大統領が示した見解は、最高裁の判断によって当事者らが命の危機にさらされる可能性が高くなり、安心できない社会になってしまうという懸念を表していると受け止めた。

世論調査やジャーナリズムに基づいた情報を提供するKFFによると、アメリカに住むトランスジェンダー、またはトランスジェンダーを自認する人は 約200 万人で、全成人の 1% に満たないという。 

彼/彼女らは教育、住宅、医療へのアクセスなど、生活のさまざまな側面で偏見や不平等を経験している。2023年3月の調査では4人に1人が身体的な攻撃を受けたと回答。43%が過去1年間に自殺を考え、その割合は他の成人(16%)に比べて3倍近いことがわかっている。

彼/彼女らは身体的にも精神的にも「命に関わる問題」と向き合う日々を過ごしているのだ。

自分ではどうにもならないことへの誹謗中傷

先日、モデルやタレントとして活躍していたryuchellさんが亡くなった。ryuchellさんは自ら抱えていた生きづらさを社会に伝え、多くの人を励ましてきた。しかし、その笑顔の裏には国は違えど、この数字が表すような経験があったのかもしれない。

私はユダヤ人に生まれ、差別される側の苦痛や屈辱を実感している。そのことから言えるのは、誹謗中傷される原因について「自分の力ではどうにもできない」ことの存在である。

例えば、「ユダヤ人に生まれよう」と、人種を選択できるわけではない。出自を選択できる人間はどこかに存在するのだろうか。

生まれたときに与えられた性別や人種を「納得できない」からと、自分の力で変えることはできない。そして、それらにまつわる差別や誹謗中傷を受けたとき、「それは受け止め方次第だ」とは言い切れない。

多くの人がこのような差別される側が抱える問題の大きさを知り、「生きづらさ」を解消するために世論を動かしてほしい。

最高裁は世論をどこまで反映しているのか

2015年に同性婚は合憲であると認めたアメリカは、2022年、49年ぶりに中絶の権利を覆した。そして、2023年は前述の判断に加えて、人種を重視したハーバード大学とノースカロライナ大学のアファーマティブ・アクション入学政策は違憲であると判示した。 

時代に逆行するかのような判断を次々に下す最高裁の信頼は揺らいでいる。ピューリサーチセンターによると、アメリカの成人の約半数が裁判所の権限が強すぎると回答し、さらに保守的であると回答。2020年に約7割が最高裁の判断を好意的と回答していた数字から大幅な減少がみられるのだ。

また、アメリカの成人の約6割は中絶を合法にすべきであると考えているし、同性婚を支持している。ただし、「6割」という数字をみれば、ほぼ半数は別の見解を示しているのだから、アメリカ社会は分断しているとも言えるだろう。

ちなみに、最高裁は9人の判事で構成されているが、現在は保守派が6人で過半数を占め、すべて共和党の任命者で、3人のリベラル派は民主党が任命した判事である。

最高裁判事の9人のバランスがいかに重要であるかは、2018年のアンソニー・ケネディ判事の引退、そして、2020年のルース・ギンズバーグの死去に伴うコラムで懸念を伝えてきたとおりである。

保守6、リベラル3という現状は、最高裁の今後の決定も保守に傾かせる可能性を大いにはらんでいる。

彼/彼女らに肯定的な意見が、最高裁というアメリカの未来を方向づける機関の決定に反映されることを願う。

法廷と社会が信頼関係を築くために

日本では6月に性的マイノリティへの理解を増進し、差別を解消することを目的としたLGBT理解増進法案が可決した。何が差別に当たるのか明確ではない等、法整備もこれからといったところで賛否両論あるという。

こうした中、7月には最高裁がトランスジェンダー女性のトイレ使用制限について、5人の判事が全員一致で「違法」とした。ハフポストでは小法廷で開かれた裁判において5人の判事の意見が肖像とともに掲載された。これは非常に有意義である。意見に判事の顔が添えられることで、血の通った「人間」の判断であるとリアルに伝わってきたからだ。

アメリカでも日本でも裁判は公開されているものの、その度合いは違う。例えば、アメリカの一部の法廷では法廷内の様子を撮影、録音することが許可されているため、審理の様子をライブ中継することもある。しかし、私の知りうる限り、日本では地裁のみならず最高裁においても傍聴はできるものの、開廷を待つ判事らの様子を流す程度であった。

私は、こうした報道を機に、判決に至るまでの経緯をより身近に感じることができるようになればと感じた。身近になれば、日常の話題にも上りやすくなり、その波が世論を作り上げる。

判事も人間なので、世論がどのような方向に向かっているのかを知れば、自らの判断に反映する可能性もある。法律の制定や裁判所の決定といった未来の方向性に影響することを裁判所のみに委ねるのではなく、自らの将来を自らが決めるというスタンスで、声を上げていきたい。

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Source: HuffPost