07.27
ファーウェイ制裁の不透明な真実、グーグルはNGだがマイクロソフトはOK?
<日本市場での挽回を喫し、ファーウェイが新製品を発表。グーグルのアンドロイドOSを使えないことが重しとなっているが、一貫しない制裁の実態に取引先や消費者も振りまわされている> 「ファーウェイ、ここにあり。過去最大数の新製品発表でアピールしたいと考えています」 7月13日、中国通信機器・端末大手のファーウェイは日本市場向けコンシューマー製品の発表会を開催した。パソコン2機種、タブレット1機種、ディスプレイ3機種、さらにイヤホン2機種にスマートウォッチと、盛り沢山のラインナップをそろえてきた。 もともと電話会社向けの通信設備機器を作るメーカーだったファーウェイは一般消費者にとってはなじみの薄い存在だったが、携帯電話を突破口としてコンシューマー分野で成功。スマートフォン出荷台数で2019年に米アップルを抜き、世界2位の地位を築いた。 日本でもドコモやソフトバンクのキャリア携帯に採用されるなど、着々とシェアを高めていたが、2019年に米政府による輸出規制を受けた影響で、この2年あまりは日本市場での展開に苦しんできた。 そこで大量の新製品を投入し、注目を取り戻そうというわけだ。 新製品の「Matepad 11」を手にするファーウェイデバイス日本・韓国リージョンプレジデントの楊涛(ヤン・タオ) Huawei それらの新製品からは、ファーウェイの苦闘のみならず、「グーグル以外の制裁」をめぐる複雑で不透明な状況も透けて見える。日本の消費者やメーカーは、今も続くファーウェイ問題をどのように考えればいいのか。 ◇ ◇ ◇ ここでは発表された新製品すべてに言及はしないが、注目の製品を挙げるなら、タブレット「Matepad 11」だろう。日本で初めて発売されるハーモニーOS搭載機となる。 ハーモニーOSは、米国の制裁によりグーグル・モバイル・サービス(GMS)が利用できなくなったファーウェイが独自に開発したOSだ。オープンソース版のアンドロイド(AOSP)をもとに開発されたため、アンドロイドOSの既存機種と使用感はほとんど変わらない。言われなければハーモニーOSと気づかない人も多そうだ。 処理性能を決める半導体部品のSoC(システム・オン・チップ)には高性能な米クアルコムのスナップドラゴン865を採用していながら、5万4800円(メーカー希望価格)と価格を抑えた。ハードウェア単体で考えると、日本で販売されているタブレットの中では抜群のコストパフォーマンスだろう。 ただし、ファーウェイのスマホと同じく、GMSが使えないという問題は変わらない。どういうことかと言うと、YouTubeやGoogle Maps、Gmailなどグーグル社のアプリが使えないだけでなく、アプリをインストールするための「Google Playストア」はないし、他社のアプリでもGMSの機能を活用している場合には作動しないことが多い。 筆者は現在、「P40 Pro」を利用している。日本で発売された最後のファーウェイ製スマートフォンだ。オープンソース版のアンドロイド(AOSP)が搭載されており、ぱっと見では普通のスマホと変わりはない。YouTubeやGmailのアプリはインストールできないが、ブラウザ経由から使うことはできる。 これなら文句はないと言いたいところだが、実は細かなところで不便が残る。最近のスマホで便利なのはパソコンとの連携だ。パソコンのブラウザでパスワードを保存しておけばスマホのブラウザでもワンタッチで呼び出せる。ところが、この手の連携機能はほとんどGMSが活用されているのだ。 ===== 筆者のファーウェイ・スマホからでもGmailは読めるし、YouTubeは見られる。でも、パスワードを連携させたり、スマホで見ているサイトをパソコンの大画面に表示させたりといった、かゆいところに手が届くナイスな機能はことごとく使えない。 特に難儀したのはパスワードだ。電子版の新聞やショッピングサイトなど、ログインが必要なサイトはごまんとある。グーグル以外のサービスを使えば、パソコンとスマホの連動もできるかもしれないが、グーグルに依存しきった身としてはなかなかに難しい決断だ。 中国・上海のファーウェイ旗艦店 Robert Way-iStock. 米政府の制裁に一貫したロジックがない というわけで、「グーグルが使えない」という重しがどこまでものしかかっているのだが、一方で「グーグル以外の制裁」についてはかなりゆるみまくっている点も印象的だった。 そもそも、現在ファーウェイに科されている制裁は何かをおさらいをしておこう。原則的には「米国企業からの部品、サービスは購入ができない」「米国で開発された技術を一定以上含む部品、サービスは購入できない」というものである。 2019年にこの規制が科されると、ファーウェイは「売ってもらえないならば自社で作るまで」と、どんどん自社開発を進めた。意気高揚だったわけだが、2020年の新たな規制で局面が変わる。 というのも、ファーウェイの自社開発とは、ファーウェイで設計して半導体世界大手、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に量産してもらうというものだったのだが、新たな規制でTSMCの受託製造が禁止されたのだ。TSMCと同レベルの仕事ができるのは韓国サムスン電子だけだが、アメリカの目が光る中、こちらもファーウェイの仕事は受けられない。 外から買ってこられない、自社開発もダメとなると、もうどうしようもないように思える。ところがどっこい、ファーウェイはまだ生きていて、記事冒頭で紹介したように、日本市場で新製品を一挙リリースまでやっている。 いったい何が起きているのか? 実は規制には米政府の承認が得られれば輸出は許可されるという抜け道があり、一周回って普通に米国企業、日本企業から普通に部品が買えるようになっているのだ。 そこには米企業などファーウェイのサプライヤーが強く輸出許可を求めたことが背景にある。ファーウェイへの販売が禁止されれば、中長期的には代替部品を作る中国メーカーが成長し、米企業のシェア低下に繋がるとの危機感が広がったためだ。 現在では「モデムなど5G関連の部品」「グーグルのサービス」「ファーウェイが設計した半導体部品の受託製造」など、ピンポイントな部品以外は普通に購入できているようだ。 ===== Huawei 不思議なのは、マイクロソフトのWindows。ファーウェイへのライセンスが認められているのだが、だとすればなぜグーグルのアンドロイドは認められないのだろう? パソコンはいいが、スマートフォンはダメ。ここに一貫したロジックはあるのだろうか。 ファーウェイ創業者娘の裁判もいまだ決着していない そもそも論を言い出すと、ファーウェイ問題が最初に表面化した孟晩舟(モン・ワンジョウ)裁判も混迷を極めている。 ファーウェイの創業者である任正非(レン・ジェンフェイ)の娘にして、ファーウェイ最高財務責任者(CFO)の孟晩舟が、2018年12月に米国当局の要請に基づき、カナダで逮捕された事件である。以来2年半にわたり、米国への引き渡しをめぐる裁判が続いてきた。 孟の容疑はなんだったのか、もはや誰も覚えていないだろう。2011年、ファーウェイは関連企業のスカイコムを通じ、米ヒューレットパッカード製のサーバーなどの機器、そしてWindowsなどのソフトウエアをイランに輸出した。米国のイラン制裁に抵触することは明らかだが、話を面倒にしているのはここからだ。 というのは、孟を逮捕した容疑は制裁違反そのものではないためだ。ファーウェイと取引があったHSBC(香港上海銀行)について、スカイコムとファーウェイの関係、イランとの取引について隠蔽していたことが詐欺にあたるという容疑なのだ。 カナダで逮捕された孟の身柄を米国に引き渡すには、米国とカナダの双方で犯罪となる双方可罰性のルールを満たさなければならない。そこでHSBCを騙した詐欺罪でとなったわけだが、「HSBCは何も知らず、騙されていました」という筋書きはどこまで信じられるのか。 英BBCによると、今年6月末にHSBC従業員がスカイコムとファーウェイの関係を認識していたことを示すメールなどの新資料が提出された。となると、容疑自体が成り立たなくなるように思えるが、カナダの裁判所はこの新資料の証拠採用を拒否。さらによく分からない状況が続いている。 と、こんな形でファーウェイ問題は不思議な問題が多く、説明もかなりやっかいだ。制裁の詳細や孟晩舟裁判の展開についてはアバウトな記述でお茶を濁すことが多いのは、日本メディアのみならず海外メディアにも共通している。 この複雑かつ不透明な状況をどう理解するべきか。当局の動きを最大限に擁護するならば、「安全保障の最前線なのだから、理屈で説明できない話が飛び交うのは仕方がない」となるのだろうが、ビジネスにとって大きなマイナスであることは間違いない。 ===== 前述の通り、振りまわされているのはファーウェイだけではない。取引をしている米国企業、日本企業も巻き込まれている。 また、今年第2四半期の世界スマートフォン出荷台数では中国のシャオミがアップルを抜き、世界2位となった。かつてのファーウェイのポジションにつけたわけだが、安全保障の面からするとこれは問題なのだろうか。 シャオミは今年1月、米国防総省作成の「人民解放軍に実質的に支配されているリスト」に入れられた。その後、裁判によってリスト入りは撤回されたものの、また何かあるのではという人々の連想は止められない。 米国と中国の対立は今後、長期にわたり継続する。経済よりも安全保障を優先する局面も多々出現するはずだ。とはいえ、そのたびごとに企業や人が振りまわされないように、不透明性はなるべく減らすべきではないか。 米中対立が続くことを前提としつつも、その経済的ダメージをどう極小化させたらいいのか、日本政府や企業には知恵が問われる局面だ。 [筆者] 高口康太 ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版新書)、『プロトタイプシティ』(共著、KADOKAWA、2021年大平正芳記念賞特別賞受賞)、『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国』(編著、さくら舎)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。
Source:Newsweek
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