08.01
大阪市・中央卸売市場でアスベスト飛散“隠ぺい”か 報じられない問題の本質
◆報じられぬ石綿ばく露リスク
今回の発表にはさまざまな問題があるが、本稿では2つだけ指摘する。まず1つ目だが、石綿のリスク認識が明らかに間違っていることがある。
そもそもWHO環境保健クライテリアにあるという「空気中のアスベストが1~10本/リットルであれば健康リスクは検出できないほど低い」との記載は、報告書の原文には存在しない。日本の行政が2つの文章を意図的とも思える誤訳とともに都合良くつなぎ合わせた“ねつ造”といってよい代物だ。
じつはよく似た文面は環境省の発表資料でも以前記載されていたが、筆者が指摘した結果、2015年7月以降、削除されている。市に裏付けも示し、事実と明らかに異なるとして発表資料から削除するよう求めた。7月27日、市は「環境省が削除しているのを知らなかった。削除しようと思っている」と答えた。
WHO報告書には「都市における大気中の石綿濃度は、一般に1本以下~10本/Lであり、それを上回る場合もある」との記述はある。ただしWHOのデータは市が使った光学顕微鏡より細い石綿繊維も調べることができる電子顕微鏡による。単純比較はできないものの、光学顕微鏡では(細い繊維を計数していないため)もっと少なくなるはずだ。しかもWHOは一般環境についてリスク評価できておらず、そのため上記の濃度なら安全とは記載されていない。
若干補足しておくと、この空気1リットルあたり10本という濃度なら安全かのような言説がいまだに流布されているがとんでもない間違いだ。この濃度は「10のマイナス3乗ぐらい」の健康リスクと2012年の同省石綿飛散専門委員会で説明されている。これは労働者が仕事で1日8時間、50年間吸い続けた場合、1000人に1人が中皮腫や肺がんで死亡するリスクという。
日本では発がん物質の環境基準は10万人に1人が生涯で死亡するリスクで定めるとされ、WHOやアメリカ環境保護庁(EPA)などのリスク評価から「大体0.1f/リットル程度の濃度で10のマイナス5乗(10万人に1人)ぐらいの生涯リスク」というのが専門家の見解だ。しかもこれはクリソタイル(白石綿)だけにばく露した場合であり、発がん性の高いクロシドライト(青石綿)など角閃石系の石綿があればさらに厳しい基準になる。この説明に対し、国も含め異論は出ていない。
今回の市の測定データは石綿を含む可能性のある「総繊維数濃度」は同0.056本の「定量下限未満」から0.45本と低い数値ではある。しかしこれらがすべて石綿なら、仮に最大値の0.45本を吸い続けた場合でも10万人に4人超が中皮腫などで死亡する可能性がある。ところが市は実際に石綿が含まれていたかどうかすら調べていない。これでは安全とはいえないだろう。