07.08
「未経験の人材のせいにしてはダメ」。青山学院大の原晋監督がチームに欲しい人材は?企業の人事部に伝えたいこと【2023年上半期回顧】
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ハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:2023年1月4日)
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2023年1月2・3日に行われた第99回東京箱根間往復大学駅伝競走(通称:箱根駅伝)。青山学院大学は大会連覇こそ逃したものの、総合3位という結果だった。復路のレースでは一時8位まで順位を落とすも、9区で3位に浮上。前回大会王者としてのプライドをしっかりと見せた。
チームを率いる原晋監督は2004年に同校の駅伝チームの監督に就任。以来、2015年の初優勝から18年まで箱根駅伝4連覇を果たすなど、学生駅伝界における「フレッシュグリーン」の襷の価値を高めてきた。
原監督は学生の頃から陸上に打ち込み、大学卒業後は社会人チームで競技を続けたが、引退してからは企業の営業部で働く一人のビジネスパーソンとして忙しい日々を送っていた。駅伝の指導経験は「ゼロ」だった。そこから監督としての手腕を発揮し、実績を積み上げた。
だからこそ今、現在の日本の企業の人材育成やキャリア採用について伝えたい思いがある。2022年11月に『「挫折」というチカラ 人は折れたら折れただけ強くなる』 を上梓した原監督に考えを聞いた。
営業から監督になったからこそ、今の「未経験採用」に思うこと
いくら学生時代に選手だったとしても、全ての者が指導者になれるわけではない。そして、指導者として一定の成功をおさめる者は、もっと少ないと言えるだろう。ではなぜ、原監督にはそれができたのか。本人は次のように語る。
学生時代は陸上に打ち込んできましたけど、駅伝の指導実績はなかった。箱根駅伝に出たこともない。そもそも私は青学のOBでもないんですよ。そんな人が今、監督をやっているわけです。
でも、学生を指導した経験こそなかったものの、監督に就任した当時から高い志と組織を強くするための「ビジョン」は持っていたと振り返って思います。
最初はみんな未経験なんです。だからこそ、採用・起用する側はその人のやる気や情熱、そういったものをまずは見るべきだと思いますね。
そして、目先の結果を求めるのではなく、採用する側も「この人材をこう育てるのだ」という明確なビジョンを伝えるとともに、「そのビジョン以上に力を発揮してくれる人材か否か」を感じ取り、見極める力が必要でしょうね。
採用する側が「未経験の人材のせいにしない」ことが重要。しちゃダメなんですよ。
日本の転職市場では「未経験」よりも、その分野の仕事を経験してきた人が積極的に採用されるケースが多い。その利点は少なからずあるだろうが、「多種多様な人材」という観点で見れば、組織や会社に新たな風を吹き込んでいるかどうかは疑問符がつく。
また、業種・業界未経験の転職の場合は、給与が下がるというケースも少なくない。それが、新たな仕事に挑戦したいという人の選択肢を狭めているという現状もある。
今、企業が抱える課題とは?人事部に一言、物申したいこと
2004年の監督就任以来、徐々にチームを強くし、青山学院を学生駅伝界の「名門」にまで成長させた原監督。自身の言葉で選手を鼓舞することを忘れず、選手の自己肯定感を高め、その自主性を重んじてきた。
そんな経験から、未経験採用だけでなく日本の企業の人事部にも伝えたい考えがある。
個人的な考えですが、“やんちゃな人”を人事部長にすればいいと思います。例えば、会社の一番やんちゃな人を人事部(長)に配置するんです。いつの時代も、ちょっと“破天荒な人”が時代を切り開いてきたと思うので。
高度経済成長期の経済が右肩上がりの日本だったら、あるいは成長の見通しがある程度分かっていたような時代だったら、挑戦よりもリスクヘッジを優先するような「守りの人事」でよかった。組織全体が平均以上の力を発揮すれば、ある程度の状況であれば、乗り越えられましたから。
でも今はコロナ禍の影響もあって、世の中の答えが何か分からない状況です。「正解がない世の中」になった。何かを変革しなきゃいけない時には、やんちゃで、ちょっと破天荒な人が人事部長に適しているように思うのです。斬新な方法で新しい発見を組織にもたらしてくれるような人。そんな人が旗振り役となるべきだと考えます。
話が少し飛躍しますが、学生の段階では、日本の「推薦制度」もやめるべきだと思っています。提出される内申書は中学や高校などの成績が評価の軸になっている。「個性を大切にしなさい」と世の中では言ってるくせに、文科省が定めた内申書で先生が認めた生徒だけが評価されるという仕組みだったら、その先生に「気に入られるような子」しか育ちません。
「これをしたい・あれをしたい、私はこう思う」と先生側に主張する人は、基準から外れて評価が下がってしまう。これは非常にもったいないことだと思っています。
原監督が選手の練習に「付きっきり」にならない理由
青学の駅伝部は十数年で“常勝軍団”になった。チームが強くなり、箱根で優勝し連覇も成し遂げ、「原メソッド・青学メソッド」と言われるようになった選手の育成システムなど、土壌はすでにできあがっている。
チームの将来を決める選手のスカウティングでは、陸上の競技実績やタイムはもちろんのこと、「『僕はこうしたい、こう思う、こうなりたい』という主義・主張をきちっと自分の言葉で言える学生を歓迎したい」と原監督は言う。
これからは特に、そういう学生にチームに入ってきてほしい。言われたことだけ「はい」と聞いて素直にやる学生を「悪い子」とは言わない。けど、それではチームが新たなステージに上がっていかないと思っています。目指すのは「超自律」ですね。
「指導のスタンス」も近年は変わってきた。原監督は重要な期間を除いて、選手の練習に付きっきりで付き合うことはあまりないという。テレビ番組への出演や講演などがあり多忙な日々を過ごしているというのもあるが、理想を見据えているからでもある。
近年の指導スタンスは、「選手に付きっきり」になるのではなく、「ずっと側にはいなくても、ちゃんと見守っているよ」というものに変わってきています。
指導者の重要な役割として、まずはチームの「理念」を共有する。1から10まで練習に立ち合ってなくても、選手のことを見て、個性を意識した上で課題点をアドバイスをする。それに基づいて選手たちは個々の目標に向かって自主的に主体的に努力する。そんなチームが理想です。「超自律」というのは簡単ではないですが、学生たちのその姿勢こそが、チームをさらに強くしているのだと思います。
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大学陸上部の駅伝チームの監督は極めて“特殊な職業”だ。だが、原監督は2023年で就任20年目を迎える。毎年十数名の選手をチームに受け入れ、同じほどの数の選手を社会へと送り出してきた。その経験に基づいた言葉の中には「人材」に関するヒントがあるはずだ。
【書籍情報】
『「挫折」というチカラ 人は折れたら折れただけ強くなる(マガジンハウス新書)』
著書:原晋(青山学院大学陸上部監督)
発売日:2022年11月24日
価格:1,100円(税込)
出版社:株式会社マガジンハウス
Source: HuffPost