12.13
「結婚の平等」裁判、東京地裁では“違憲“判決だった。専門家が指摘する理由は?
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法律上の同性カップルに、結婚が認められていないのは「重大な脅威、障害」だ。
東京地裁(池原桃子裁判長)は11月30日、同性パートナーと家族になるための法制度が存在しないことについて、「脅威」や「障害」という強い言葉を使って、憲法24条2項に違反する状態という判断を示しました。
この判決は、全国5つの裁判所で行われている「結婚の自由をすべての人に」訴訟の1つで、30人を超えるLGBTQ+の原告が、結婚の平等(法律上同性のふたりの婚姻)を求めて国を相手に裁判を起こしています。
一連の裁判で「違憲」が示されるのは、札幌地裁に次いで2件目。ただ、東京地裁は今回、札幌とは異なる理由で「違憲」と判断しました。
その中で、次のような重要な指摘もありました。
・婚姻の本質は、(国が主張する)子を生み育てることではなく、真摯な意志を持って共同生活を営むこと
・同性パートナーと法的な家族になることは、社会全体の安定につながる
・地方自治体のパートナーシップでは不十分
どういった理由から、このような判断が示されたのでしょうか。ハフポスト日本版では原告団の弁護士と憲法学の専門家に取材して、判決を読み解きました。
ポイント① 結婚を認める法制度がないのは重大な脅威
憲法24条2項では「結婚や家族に関する法律は、個人の尊厳を守ることを踏まえて作られなければならない」と定めています。
しかし現状は、同性愛者同士が家族になるための法制度がありません。この点について東京地裁は「憲法24条2項に違反する状態にある」と判決で指摘しました。
憲法24条2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
この条文の「個人の尊厳」を東京地裁が重視したと、原告弁護団の共同代表を務める寺原真希子氏は分析しています。
現状の法制度が「憲法24条2項に違反する」と東京地裁が判断するに至った流れを4つのポイントで整理しました。
1. まず「憲法24条は、同性同士の婚姻を積極的に排除、もしくは禁止してはいない」と断定
2. そして、婚姻の本質は「真摯な意思を持って共同生活を営むこと」で、それは同性カップルにも等しく当てはまると認定
3. さらに、現在共同生活を送る同性カップルは、婚姻できないことでさまざまな不利益を被っている。それは遺言やパートナーシップ制度でも解消できていないと指摘
4. 結論:同性愛者等がパートナーと法的に家族になり、社会的公証を受けるための法律がないことは、同性愛者等の「人格的生存に対する重大な脅威、障害」だ。個人の尊厳に照らして考えると、それに合理的な理由があるとは言えない
寺原氏は「原告らは裁判を通して、婚姻制度から排除されていることで、法的な不利益を被っているだけではなく、個人の尊厳が傷つけられていると訴えてきました。判決にはそれが反映されたと言えます」と説明しています。
ポイント② 結婚の平等の法制化は「社会全体の安定につながる」
また寺原氏によると、この結論を導き出す中で、裁判所は次のような指摘もしています。
・婚姻によって、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる。これは個人の尊厳に関わる重要な人格的利益だ
・同性カップルはすでに、親密な関係を築いて共同生活を送っている。そして子どもを育てるなどして、社会の一員として生活している。この実態は法律婚した異性の夫婦と何も変わらない
・同性カップルの中には、婚姻が認められていないことで、病院で家族として認められないなど、不利益を受けた人もいる
・同性パートナーと法的な家族になることは、同性カップルの絆を強める。そして、その家庭で育てられる子どもも含めた共同生活の安定をもたらす。それは、社会全体の安定につながる
寺原氏は、この2つ目と3つ目について、「本人尋問などでの訴えが反映された」と話します。
原告の小野春さんと西川麻実さんは、3人の子どもを育ててきました。ふたりは、本人尋問や意見陳述などで「周りの家族となんら変わらないのに、結婚できないために法的な家族となれず、子どもの入院手続きができないなど多くの困難に直面してきた」と訴えてきました。
また、2021年に脳卒中で倒れて亡くなった佐藤郁夫さんについて、パートナーの「よし」さんは、病院で家族として認めてもらえなかった時の苦しみや悲しさを本人尋問で訴えています。
寺原氏は「国は裁判の中で『同性カップルも共同生活できるのだから、婚姻が認められなくても問題ない』と主張してきました。しかし裁判所は、本人尋問の結果を受けて、この主張は誤りであると明確に認定しています」と指摘します。
また、4つ目の「社会全体の安定につながる」という指摘も、とても重要な判断だといいます。
「同性間の婚姻を認めると社会に悪影響があるのではと心配する人もいますが、判決からすれば、それは全く逆だということになります」 「同性カップルが法的な家族になるのを認めることは社会全体にとってプラスになると述べたのです」
さらに、寺原氏は「我々はこの訴訟が、性的マイノリティのためだけのものではないと言い続けてきました。東京地裁判決は、まさにこのことを強調しました。これは札幌・大阪地裁判決にはなかった、踏み込んだ視点です」とも強調します。
ポイント③ パートナーシップ制度では不十分
法律上同性同士の結婚を認めることに反対する意見の中には、自治体のパートナーシップ制度や遺言、養子縁組など、本来は結婚と同様の法的効力を持たない「代替手段」を使えばいいとする声もあります。
実際に大阪地裁では、同性愛者が結婚できないことで被っている不利益として認めつつ、「同性愛者と異性愛者との『差異』は、パートナーシップ制度などで緩和されつつある」との見解を示しました。
一方で今回の東京地裁判決は、パートナーシップ制度の広がりにふれた上で、これは地方自治体の取組みであって、国においては、同性愛者がパートナーとの関係を公に証明する制度はなく、「パートナーとの共同生活について、家族として法的保護を受け、社会的に公証を受けることが法律上できない状態にある」と指摘。
さらに、パートナーシップ制度が広がりを見せていることからすれば、同性間の婚姻やそれに類する制度を作ることに大きな障害はないとしました。
その上で、同性パートナーと家族になるための法制度が存在しないことは違憲の状態であるとし、立法府で制定に向けた議論が必要だと判断しています。
寺原氏は「東京地裁判決は、パートナーシップ制度があっても、同性愛者は、家族としての法的保護や社会的公証を得られていないと明示しました。大阪地裁判決がパートナーシップ制度によって不利益が緩和されているとしたことと対照的です」と話します。
ポイント④ 判決が「違憲」である理由。「分離すれど平等」という判断も
今回の判決をめぐり、「違憲」か「違憲状態」か、もしくは「合憲」かという議論が起きました。
それは、判決に「同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは……憲法24条2項に違反する状態にある」と書かれている一方で、「必ずしも本件諸規定(民法・戸籍法の婚姻関係規定)が憲法24条2項に違反すると断ずることはできない」とも述べているからです。
この点は、どう考えたらいいのでしょうか?
寺原氏は「今回の判決は、現在の状況すなわち現在の法律が憲法24条2項違反であると明言しており、違憲判決と言えます」と話します。
「その一方で、判決は、同性カップルが家族として認められる方法としては色々なものがあるとして、同性間の婚姻を認めていないこと自体が憲法24条2項に違反しているとは断定できないとしました」
<裁判所が同性間の婚姻を認めていないこと自体が憲法24条2項に違反しているとは言えないとした理由>
・パートナーと家族として認められるためには、現在の婚姻以外にも、類似の制度など、いろいろな方法が考えられる
・どういった方法で違憲状態を解消するかは、立法裁量に委ねられている(=国会で決めることだ)
東京都立大教授で憲法学者の木村草太氏も、今回の判決は、現行法が同性カップルの家族形成のための制度がないことを違憲だと明確に認めていることから「違憲判決」にあたると説明します。
ただし、木村氏によるとこの違憲状態は、民法・戸籍法の「婚姻」制度とは別制度を設けることでも解消できるため、民法・戸籍法の規定が違憲というわけではないとしました。
「違憲状態を解消しなければいけないものの、そのための立法上の選択肢が複数ある場合は、特定のこの条文が違憲ですとは言えないということになります」
「判決は、同性愛者がパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは24条に違反すると言っています。現在の法律全体のどこかに違憲状態があるということを明確に認めつつも、どこかは特定できない、ということになります」
その一方で、木村氏は判決が「別制度でも、違憲状態を解消できる」としたことは、法律上の性別が同じカップルの結婚を二級の婚姻と位置付ける蔑視感情に基づく差別的行為にあたると指摘します。
「法的な家族関係には、親子関係と婚姻関係の二つがあるとされています。今回、問題とされているのは、親子関係でないことは明らかで、婚姻関係でしょう」
「とすれば、判決は、同性カップルについては、『婚姻関係のために婚姻とは別の制度』を設けてもよいと述べているわけです。しかし、わざわざ制度を分ける理由の説明がない。理由もないのに制度を分ければ、黒人専用列車を作るとか、黒人専用学校をつくるのと同じように悪名高い『分離すれど平等』の一種と認定されるだろう。わざわざ、別の制度を設けるのは、同性同士の結婚への蔑視感情以外に説明がつかない」
ポイント⑤ 憲法24条1項、違反認められずも「社会状況が、大きく変化している」と事実認定
「結婚の自由」を定めた24条1項と、「法の下の平等」を定めた憲法14条1項についても、法律上の性別が同じ人同士の結婚を認めない現行の法制度は違反していると原告側は訴えていました。
しかし、東京地裁の判決は、これらの条文については「違反するとはいえない」と判断しました。
憲法24条1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
このうち、憲法24条1項については、条文に「両性」「夫婦」という言葉が使われていることから、憲法24条1項の「婚姻」は異性間の婚姻を指している、などとの理由で合憲としました。
ただし、寺原氏によると判決は「同性愛者等を取り巻く社会状況が、大きく変化している」ということも事実認定しています。そのため寺原氏は「判決は、今後、社会的承認がさらに高まれば、24条1項の『婚姻』に同性間の婚姻も含まれると解釈されることになる余地を示しています」と話します。
ポイント⑥ 憲法14条1項、弁護団は「厳格に審査されていない」
さらに14条1項について、東京地裁は「婚姻ができないことは、性的指向による区別取扱いであり、そのために同性カップルはさまざまな法的な不利益を受けている」と認定しました。
第14条1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
憲法14条は合理的な理由のない区別を禁止しています。寺原氏によると、14条1項で区別が存在すると認められた時には、その区別には合理的根拠があるかどうかを厳格に審査しなければなりません。
ところが、今回、東京地裁が審査の判断基準にしたのは「社会通念(社会一般で受け入れられている考え方)」。
裁判所は婚姻の社会通念について「男女が子を産み育てるという古くからの人間の営みがあったため、異性カップルがするものと一般的に考えられている」と判断。
そして「この社会通念を踏まえれば、同性カップルに婚姻が認められないことには合理的な根拠がある」としました。
寺原氏は、この判断について「自らコントロールできない事由により区別されている場合、その区別に合理的根拠があるかは厳格に審査されなければならない。にもかかわらず、今回は厳格に審査されておらず、大きな問題がある」と話します。
木村氏も、「生殖関係の保護のための制度という社会通念があるので、同性カップルは婚姻制度が利用できなくてもよいと認定したことは問題だ」と指摘します。
「判決は、生殖関係のないカップルの婚姻は社会通念に反すると言っています。しかし、結婚した時、普通は親密関係が成立したことをお祝いします。結婚式をする時に『生殖関係の成立おめでとう』とは言わず、『早く子どもを産みなさい』と言えば重大なハラスメントだというのが社会通念でしょう。判決は、『婚姻は、生殖関係の有無に関わらず、二人の親密関係の保護の為の制度だというのが社会通念』ということから書くべきかと思います」
ポイント⑦高裁でも違憲判決を出してもらうための「ステップ」
寺原氏は東京地裁の判決は次へ繋げるステップだと捉えており、控訴する方針だと話します。
「今回も『違憲判決』ではありますが、東京高裁には、明確に「婚姻が認められていないことが違憲だ」という判決を出してもらう必要があります」
さらに、今回実質的な違憲判決が言い渡されたことから、国会には同性カップルの結婚が認められない状態を速やかに解消させる責任があると釘を刺します。
「裁判所が現在の状況は違憲であると判断したのですから、 国会は速やかに法改正のために動く義務があります。個人の尊厳を守るため、そして『分離すれど平等』『二級市民扱い』という新たな差別が生じないよう、現在の婚姻制度の中に同性カップルを含める方向で、法改正を進めていただくことを強く要望します」
Source: HuffPost