2022
12.01

日本で#MeTooが広がらないのは法律の問題? 訴訟大国アメリカの弁護士に聞いた

国際ニュースまとめ

ジョン・B・クイン弁護士。クイン・エマニュエルは「#MeToo」ムーブメントの高まりを受け、ハラスメント関連の訴訟を取り扱う専門家グループを社内に立ち上げたことでも知られているジョン・B・クイン弁護士。クイン・エマニュエルは「#MeToo」ムーブメントの高まりを受け、ハラスメント関連の訴訟を取り扱う専門家グループを社内に立ち上げたことでも知られている

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アメリカ最大の弁護士事務所の1つであるクイン・エマニュエル・アークハート・ サリバン。現在、欧州人権裁判所においてウクライナの代理を無償で務めることでも知られるが、これまでも国際的に注目を集める訴訟を多数取り扱ってきた。  

共同設立者の一人、ジョン・B・クイン氏はアメリカを代表する著名なトライアル・ローヤー(法廷弁護士)の一人。アカデミー賞の運営団体である映画芸術科学アカデミーの顧問弁護士を長年務めていたことでも知られる。

特に知的財産の領域で数々の実績を持つクイン氏は、#MeTooや#OscarsSoWhiteのムーブメントを受け大きく変化するコンテンツ業界を見守ってきた。11月4日、来日した同氏に話を聞くと、日米の法律の違いから、日本で#MeTooが広がりにくい意外な理由が見えてきた。

「白人だらけ」と批判されたアカデミーはどう変わったか

ジョン・B・クイン弁護士ジョン・B・クイン弁護士

「『ドライブ・マイ・カー』(※)にはここ10年で一番感動しましたよ」

映画の話になると、まずクイン氏はそう言って顔を綻ばせた。

映画界で最高の栄誉とされるアカデミー賞、その運営団体である映画芸術科学アカデミーの顧問弁護士をクイン氏は1986年から2020年まで務めた。

近年のアカデミー賞は、作品の芸術性だけでなく、社会的な意義でも注目を集める存在となっている。2016年には、アカデミー賞演技部門の候補者20人が2年連続で全員白人だったことからSNS上で「#OscarsSoWhite(オスカーは真っ白だ) 」という非難のハッシュタグが拡散

また、2017年から続く「#MeToo」運動はハリウッドの女性たちが大物映画プロデューサーを性暴力で告発したことから始まった。受賞スピーチでもアカデミーのあり方に疑問が呈され、その後、改善の努力が続けられてきた。2023年には「#MeToo」運動につながったニューヨーク・タイムズ紙の調査報道を題材にした映画の公開も控えている。

そんな変わるアカデミーを長年見守ってきたのがクイン氏だ。

「そもそもアカデミーは約6000人の会員がいて、そこには俳優、監督他、映画の製作に携わる多くの人々が在籍しています。その多くは白人男性であり、本来の社会や映画業界にあるべきはずの多様性がなかった、という歴史がありました。より多様なアカデミーへ、という努力は実を結び始めていると思います。私が1986年に顧問弁護士になった当初とは比べようもないほどです。2022年現在、映画芸術科学アカデミーの会長はジャネット・ヤン──アジア人女性ですし、理事会の顔ぶれを見ても有色人種の割合は増えてきています」

※『ドライブ・マイ・カー』…濱口竜介監督による村上春樹の同名小説の映画化。日本映画として初めてカンヌ映画祭で脚本賞を受賞、アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞するなど、海外でも高い評価を得た。

告発を “口封じ” する「スラップ訴訟」とは?

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アメリカでの#MeToo関連では、被害者の告発について、メディアが次々と報道し、この問題を多くの人に知らせることになった。

一方の日本。いくつかの勇気ある告発も行われ、映画界で同様の構図があることは示唆されてきたが、アメリカでの#MeToo運動ほどの広がりには未だ至っていない。

理由として、告発後の二次被害、誹謗中傷など、被害者の心理的なハードルが著しく高いことや、そのニュースを取り扱うメディアが男性優位社会であることなどが理由として挙げられてきた。

しかし、クイン氏に話を聞いてみると、アメリカと日本の「法律の違い」も原因の一つに挙げられそうだ。わかりやすいのが、告発と「名誉毀損」の問題だ。

例えば、日本では、メディアが著名人による性暴力について報道した場合、名指しされた著名人側が、逆に「名誉毀損」としてメディアを訴えるといった事例がよく見られる。それが、報道の萎縮に繋がっているとの指摘がある。

「アメリカで、政治家などの “公的な人物(Public Figure)”が『名誉毀損だ』としてメディアを訴えたい場合、『虚偽の報道をした』と証明するだけでは不十分で、『自分を陥れようとする現実的悪意があった(から虚偽の報道をした)』ということまで立証しなければなりません」

社会的影響力や経済的に余裕のある著名な人物、企業などが、個人やジャーナリスト、市民団体などを “口封じ” するために訴訟に持ち込むのは「スラップ訴訟」とも呼ばれる。

言論の自由を権力で封じ込めるとして、アメリカには「反スラップ訴訟法」が設置されている州もあるが、日本にはまだ法規制が存在しない。

クイン氏は「だからおそらく『#MeToo』などの告発に対するハードルが、日本よりもアメリカの方が低いのでしょう」と語る。

「アメリカでは、政策や思想に関して、誰からも訴えられることなく自由に発言し議論できるような環境が保障されなければならない、という考え方が強く浸透しているのです」

日米の言論環境の違いについて、そこには大きな違いがある。クイン氏はそう強調した。

アメリカを指して訴訟大国と言う時、そこにはネガティブな意味が含まれることが多い。しかし訴訟を中心に発展してきたからこそ、弱い者の告発が聞き届けられるよう法律が進化し、被害者が連帯しやすい文化を生んでいるとも言えそうだ。

虐げられた人々が声を上げた後で、社会がそのサポートのために何ができるのか、その制度作りも重要だ。旧態依然とした業界の体質や価値観を解体するだけでなく、被害者側の口を封じるような提訴を規制する法整備も必要なのではないだろうか。

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【プロフィール】ジョン・B・クイン

アメリカ最大の弁護士事務所の1つ、クイン・エマニュエル・アークハート・ サリバン外国法事務弁護士事務所の創設者の一人。映画芸術科学アカデミーの顧問弁護士(1986〜2020)。アメリカで最も影響力のあるトライアル・ローヤー(法廷弁護士)の一人として知られる。「ウルトラマン訴訟」として知られる円谷プロダクションのライセンス所有権をめぐる訴訟では、主任公判弁護士として2018年の全面勝訴に貢献。  

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Source: HuffPost