2021
06.15

「接種すれば現金給付」それでもロシア国民が、自国産ワクチンを信じない訳

国際ニュースまとめ

<世界最速でスプートニクVワクチンを承認するも接種は遅れ気味。供給不足や国民の根強い政府不信が遅延の原因に> ロシアは昨年8月、世界に先駆けて新型コロナの国産ワクチン「スプートニクV」を承認したが、国民はいまだに接種に及び腰だ。AP通信の報道によれば、接種促進のため首都モスクワでは当局が60歳以上の高齢者を対象に、ワクチン接種と引き換えに1000ルーブル(約1500円)のクーポンを支給しているという。ロシアの60歳以上の高齢者の年金受給額は1カ月わずか2万ルーブル(約3万円)だから、これは大きいが、接種率はなかなか伸びない。 2回接種を完了した人は5月19日時点で国民の約7%。政府は6月中旬までに国民1億4600万人のうち3000万人以上に接種することを目指しているが、目標達成のためには接種ペースを「明日にでも1日37万人に」倍増させる必要があるとロシアのデータアナリスト、アレクサンドル・ドラガンは語った。 モスクワ市民のウラジーミル・マカロフは4月、市北部のショッピングセンターでワクチン接種が行われているのを見掛けた。10分で接種できると分かったが、彼も多くの市民同様しばらく様子を見ることにした。モスクワでは18歳以上なら200カ所以上ですぐにワクチンが接種できる。国や民間の診療所、商業施設、病院、劇場でも可能だ。それでも市民は接種に二の足を踏んでいる。 昨年12月から大規模接種が始まったが、今年4月半ばまでに1回は接種した人は市民1270万人のうち100万人余りと、約8%だった。ロシア全体でも同様で、5月19日時点で1回接種した人は1477万人、2回接種を完了した人は約1000万人と総人口の約7%。5月上旬に44%が1回目の接種を終えたアメリカに大きく遅れている。 進まない要因の1つは供給 モスクワ以外の地域も奨励策を講じている。極東のチュクチは高齢者を対象にワクチン接種と引き換えに2000ルーブル、隣のマガダン州は1000ルーブルの支給を約束。サンクトペテルブルクのある劇場は接種証明書を提示すればチケット代を割引すると申し出た。 ロシアでワクチン接種が進まない要因の1つは供給だ。ロシアの製薬企業は量産体制の強化が遅れ、3月には多くの地域で供給不足が生じた。 今のところ、ロシアで入手可能な3種類のワクチン(2回セット)は2800万セットが生産された。そのほとんどがスプートニクVで、品質検査を経て市場に流通しているのは1740万セットにすぎない。 各地で接種待ちは解消されないままだ。ロシアで5番目に人口の多いスベルドルフスク州では、州保健当局によれば4月半ば時点で17万8000人が接種待ちだったという。 ===== ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は4月末、ワクチンは十分あり、需要が接種促進のカギだと語った。 ロシア人がスプートニクVを嫌がるもう1つの要因は、安全性と有効性を確認する大規模な治験の完了を待たずに市場に投入されたことだ。今年2月、英医学誌ランセットにロシアで約2万人を対象に行われた治験の中間報告が掲載され、安全で新型コロナに対する有効性も高そうだとされた。それでも掲載直後の2月下旬にモスクワの独立系世論調査機関レバダセンターが行った調査では、スプートニクVの接種に前向きな人は約30%止まりだった。 アウトブレイク(爆発的拡大)を抑え込んでいると当局が宣伝しているのも接種が進まない一因ではないかと、ドラガンは言う。新型コロナ関連のほとんどの規制が撤廃され、政府高官は政府のパンデミック(世界的大流行)対策は大成功だとたたえる。市民は当然、「アウトブレイクが終わったのなら、なんで今更ワクチンを接種する必要があるの?」という気持ちになる。 公衆衛生専門家ワシリー・ウラソフによれば、政府は外国製ワクチンは危険だが自国製は大丈夫だと説明している。国営テレビは欧米のワクチンの副反応を報じる一方、スプートニクVの国際的な成功をたたえた。 プーチン大統領が接種も、その様子は非公開 国営テレビが本格的な接種促進キャンペーンに乗り出したのは3月下旬。ウラジーミル・プーチン大統領も3月23日に接種したことを発表したが、接種の様子は非公開だった。 一方、ロシアのアウトブレイクは終わるどころか拡大の兆候があるとウラソフは指摘する。「現在ロシアの1日の新規感染者数はアウトブレイクがピークに達した昨年5月並み」で、しかも1日の死者数は1年前の2倍に達しているという。 4月23日、タチアナ・ゴリコワ副首相は7地域(地域は特定せず)で感染が拡大しているとし、一部の「接種率の低さ」を非難した。 それでもモスクワの豊富なワクチンは自国で接種できない外国人を引き付けている。4月にはドイツからのグループがホテルで1回目の接種を受けた。シュツットガルトから来た46歳のソフトウエア開発者は言う。「ここには地元の人々の需要を上回る量のワクチンがある」

Source:Newsweek
「接種すれば現金給付」それでもロシア国民が、自国産ワクチンを信じない訳