2022
07.15

転勤制度が廃止・抑制の動き。「コロナ禍のリモートワークが議論を後押し」と専門家

国際ニュースまとめ

一部の企業で転勤を廃止・抑制したり、社員が選択したりできるようにする動きが注目を集めています。

こうした動きには肯定的な声が上がる一方で、「必要な転勤」も残ります。

転勤を経験し、出会いや成長の機会になったという人もいれば、「人生を狂わせる」と苦い思いを抱える人も…。

令和の時代の「転勤のあり方」とはーー。

通勤風景のイメージ写真通勤風景のイメージ写真

「転勤は人生を狂わせる」「出会いや成長の機会」…

NTTグループは7月1日から、転勤や単身赴任を伴わない働き方を拡大している。

リモートワークを基本とし、勤務場所は「社員の自宅」とする。発表によると、制度開始当初は主要会社本体の社員の5割程度が対象になると想定しているという。

東京海上日動火災保険は、本人の同意がない転勤を2026年度をめどに廃止する方針。

同社によると、働きがいのさらなる向上につなげていくことや優秀な人材の確保と定着を図る狙いがあるという。

AIG損害保険では2019年から段階的に社員の「望まない転勤」を廃止。

給与や処遇には差をつけず、転勤しても良いか、したくないかを社員が選べるようにした。転勤OKでも希望しないエリアに転勤する場合には、手厚い手当を出すのが特徴だ。

ハフポスト日本版がこうした動きを記事化すると、SNSなどで「現代の働き方にフィットさせるのは良いこと」などといった意見が寄せられた。

転勤によって得難い出会いや成長もあったという人の中にも「どうするかを本人が選べるのが良い」と働き手の納得感を高める仕組みを支持する声が目立った。

転勤を経験したという人たちから「転勤は人生を狂わせる」という辛い体験談も…。社命であちこち行ったり来たりという転勤のあり方に、限界を感じている人が一定数いることがうかがえた。

専門家「これまでの転勤のあり方が破綻しつつある」

「転勤」が根強く残る日本で、転勤の廃止・抑制の動きはさらに進むのだろうか。

転勤制度に詳しい法政大学キャリアデザイン学部の武石恵美子教授は「組織のダイバーシティを進める上で、これまでのような転勤のあり方が破綻しつつある。見直しが進むことは重要だと思う」と語る。

具体的にどのようなあり方が良いか、武石さんに聞いた。

ーー転勤を抑制したり廃止したりする動きが一部の企業で出ています。どのように見ていますか?

会社の命令で勤務場所が大きく変わる…というやり方が相当難しくなってきたというのが、ここ数年で顕著になってきたかなと思います。

特に、子育てや介護の負担が女性たちに重くかかる現状があり、その中で女性たちが転勤を前提とした職種やキャリアを選びにくくなっていました。

もちろんさまざまな事情で転勤したくない、転勤できないという人は性別に関わらずいます。ダイバーシティを進めていく観点から、これまでのような転勤のあり方が破綻しつつあるんじゃないかなと思います。

さらに、コロナ禍でリモートワークが広がって、「社員が同じ場所で働かなくても仕事ができる」ということがある意味、実験的に検証されました。そのことも議論を後押ししています。

ーー海外では社命の転勤はあまりないとも聞きます。なぜ日本企業では転勤が根付いてきたのでしょうか?

制度が根付いてきたというよりも、「定年まで同じ会社で勤め続ける」という長期継続雇用を維持する仕組みの一つです。

例えば、ある事業所をたたむから「あなたの職場はなくなります」ということではなく、他の事業所に異動させることで、多くの企業が雇用を維持してきました。

雇用の安定と引き換えに「社員は仕事や勤務地を選べない」ということがあったわけですね。

これまで企業には、長期的・安定的な雇用機会を提供し続ける責任が重くありました。そのかわりに転勤を含めた配置・異動は、原則として会社に決める権利があるとされてきました。

ですが、ここにきて働き方が大きく変化し、柔軟な転勤制度の企業が出てきた。そうすると、転勤をどんどんさせる企業では働きたくない、と考える人が増えてきたのだと思います(*1)。

〈*1就職情報サービスの「学情」が実施した調査(有効回答393人)によると、「転勤のある企業とない企業のどちらを希望しますか?」という質問に対し、「転勤のない企業」「どちらかと言えば転勤のない企業」と回答した20代が7割を越えた。転職活動で「転勤を意識する」と回答した20代は8割を越えた〉

ーー転勤には、人材育成の目的(*2)や不正防止の効果があると言われます。転勤の抑制や廃止が進むと、これまで企業が転勤の目的や効果としてあげてきたものはどうなりますか。

転勤の目的は、国内・国外を問わず広域に事業の拠点があって、誰かが行って仕事をしなければならないという経営上の理由が一番だと思います。

それ以外では、転勤でしか果たせない役割はそれほどないのではないかと私は思います。

転勤を通じて人材育成ができる、社員が成長できるという部分をすべて否定するわけではないのですが、転勤しない人が成長していないのかと言われたら違うと思うんですね。

金融業界では確かに、勤務地を変えることで取引先や顧客との癒着や不正を防止するという狙いもあると言われてきました。

例えばヨーロッパでは長いバカンスを取ることが不正防止につながっています。同じ人がずっと同じ仕事をするということが問題なので、チェックの仕組みを変えるなど、不正防止にも色々なやり方がある。

そうやって「本当に必要な転勤」を見極めていくと、総量は減らせるのではないかと思います。

100ある転勤を70、50にしていけば、いままでよりも、社員個々の事情に配慮したり、納得する形にできないか対応したりしやすくなります。

本当に必要な転勤は必ず残ると思うので、その上で転勤をしてくれる人には、手当など何らかのインセンティブをつけて報いる形が納得性が高いと私は思います。

〈*2 労働政策研究・研修機構の調査(2017年)によると、企業が考える転勤の目的は「社員の人材育成」が66.4%で最も多く、次いで「社員の処遇・適材適所」「組織運営上の人事ローテーションの結果」「組織の活性化・社員への刺激」などとなっている〉

ーー転勤しても良いか、したくないかを選択できるAIG損保では、新卒の場合、入社後3年間は仕事の経験をつむため「転勤有り」にしているそうです。キャリアの段階によって運用を変えるのも良いと思いました。

企業側が持つ人事権を強めるステージ、緩めるステージがあって良いと思います。

まずは自分の「本拠地」を社員に決めてもらうのが基本だと思っています。やはり自分の責任でどこに住みたいかを決める。そこをベースにしながら、もし必要があって転勤をするなら、手当をつける。

あとは、本人の納得感がとても重要だと思います。

十分な説明がないままにあちこちに転勤させるというこれまでのやり方は限界がきていると思います。

かといって、欧米のようにあらかじめ仕事や勤務地を決めるやり方へすぐに移すことは難しい。

企業がグリップしてきた人事権を状況に合わせて緩めていく、日本型と欧米型の折衷案のようなものを考えて良いのではないかと思います。

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Source: HuffPost