2021
06.02

中国シノバックのワクチンで死者が95%減、あのブラジルで起こった「奇跡」

国際ニュースまとめ

<シノバックの実験に手を挙げた人口5万人足らずの小都市が、ものの数カ月で新型コロナを制圧。それも全人口ではなく4分の3でいいことがわかった。貧しい国にとっては二重の朗報だという> ブラジル南東部にある人口4万6000人の小都市セハナで、成人した住民全員に中国の製薬会社シノバック・バイオテック社の新型コロナウイルスワクチンを接種する実験が行われた。その結果、市内の死亡者数が95%減少した。 死亡率の低下に加えて、市内の病院の入院率が86%減少し、新型コロナウイウルス感染症の発症が80%減少した、とAP通信は伝えた。市の外では感染が拡大し、将来の見通しも立たないなかで、セハナだけがウイルス感染の恐怖を免れる安全地帯になった。 安い軽食やスナックを提供する店で働くロジェリオ・シルバは「店は、以前と同じくらいたくさんのお客さんがきている」と語った。「数週間前には、店の前に列を作る客も、店内で食べる客もいなかった。私は客にトイレをつかわせなかった。今はすべてが元通りだ」 セハナで現在、新型コロナウイルス感染症による重篤な状態にあるのは、ジェラルド・セザール・レイス博士の診療所に入院している63歳の女性だけだ。この女性はファイザー社製ワクチンの接種を望んで、シノバックのワクチン接種を拒否したのだ。成人市民の大半は実験に参加することを選んだ。 WHO(世界保健機関)は6月1日、18歳以上の人々のための緊急時使用リストにシノバック社製ワクチンを登録した。中国製ワクチンとしてはシノファーム社製ワクチンに続く2例目となる。 以下は、APによるリポートだ。 ワクチンの有効性は確実 セハナ市での集団接種実験は「プロジェクトS」と呼ばれ、4カ月にわたって現地の住民にシノバック製ワクチンを接種した。5月31日に発表された予備的研究結果は、人口の4分の3がシノバックのワクチン接種を完了すれば、全体の感染を制御できることを示した。 「最も重要な成果は、住民全員にワクチンを接種しなくても感染を制御できることがわかったことだ」と、この研究のコーディネーターを務めたサンパウロ州立ブタンタン研究所のリカルド・パラシオス博士は語った。 この実験結果は、何億もの人々、特に発展途上国の人々に希望をもたらすものだ。エジプト、パキスタン、インドネシア、ジンバブエなども、ファイザーやモデルナのワクチンより安価な中国製ワクチンに依存している。 セハナ市の住民は年齢と性別に関係なく地理的に4つのブロックに分けられ、成人の大半が4月末までに2回の接種を受けた。31日に発表された結果は、3つのブロックがワクチン接種を完了した後、新規感染が減少したことを示していた。各地域のワクチンの接種率が同じかどうかは明らかにされていない。 このプロジェクトは「ウイルスから身を守る方法があること、ワクチンが有効であることを示している。間違いない」と、ブラジルの保健規制当局の創設者の一人で医学部教授のゴンサロ・ベチーナはAP通信に語った。 ===== 同様に、世界的なワクチンの利用可能性の拡大を推進するサビンワクチン研究所のデニース・ギャレット副所長は、この結果を「いい結果だし、とても励みになる」と評価した。 ただし、ベチーナもギャレットも、研究結果に関してまだ疑問はあり、結果を適切に分析するためにもっとデータが必要で、接種を受けたが免疫ができなかった人に関する情報もほしいと言う。 セハナ市での感染は減速したが、わずか20キロ西にある大都市リベイランプレトのような近隣の地域では、新型コロナウイルス感染が急拡大している。その主な原因は伝染性の強い変異株の増加だと言われている。 リベイランプレトの病院はコロナ患者で満床となっており、同市の市長は、公共交通機関の停止や市の住民70万人に対し食料品を購入する時間を制限するなど、厳格な隔離措置を課した。何カ月も前からワクチン接種を待っている人もいる。ほぼすべての店舗が閉鎖され、集中治療室の病床の95%がコロナ感染者で占められている。 コロナ病棟は空きだらけ ほんの数カ月前、コロナ対策に苦慮していたのは、セハナも同じだった、とジョアン・アントニオ・マダロッソ・ジュニア博士は言う。2021年の最初の3カ月間は、患者1人が回復すると、重症者が2人入院するという状態だった。 「1月末に、このプロジェクトがセハナで行われると聞いた。そして少しずつ落ち着きを取り戻した」と、マダロッソは空き部屋だらけになっているコロナ患者専用病棟を指差した。「これを見れば、ここがリベイランプレトや、周辺の地域よりもはるかに落ち着いた状態にあることがわかる。ワクチンは治療法ではないが、コロナを軽いインフルエンザに変える解決策だ。そして人々は以前と同じく生活ができるようになる」 だからいって、セハナから完全にコロナウイルスを完全に追い出すことができたわけではない。一部の住民は、ワクチン接種を拒否した。2回目の接種をしなかったり、ワクチンの効果が完全なものになる前にウイルスに感染したケースもある。既往症のせいでワクチン接種ができない人もいた。 ブラジルのジャイル・ボルソナーロ大統領は、ワクチンの有効性に繰り返し疑問を投げかけてきた。昨年は、自分の政権は中国製ワクチンを買わないし、ブラジル人を「モルモット」にさせないと言った。ブラジルの保健省は今年1月、同国の保健規制当局がワクチンを承認した後に、5400万回分のワクチンを追加購入する契約に調印した。 ===== 政府がもっと早く行動していたら、今ごろは1億回分のシノバック・ワクチンを入手できていた、とブタンタン研究所のディマス・コバス所長は先日、議会の質問に答えて語った。 ブラジルの新型コロナによる死亡者は世界で2番目に多く、46万3000人にのぼる。ワクチンを早く接種していれば、一部の人は助かっていたかもしれない。 セハナ市のレオ・キャピタネリ市長は実験の結果に満足している。市に通じる道の途中にある健康診断ステーションの横に立ち、市長はここ数週間、市内のコロナ感染者は、軽症か中等症患者しかいない、と語った。そして、観客約5000人を集めて音楽祭を開催する計画を誇らしげに語った。このイベントにはシノバックのワクチン接種を完了した人しか入場できない。 「このプロジェクトは、われわれの誇りを取り戻してくれた」と、キャピタネリは言う。「そして、来年の新たなスタートへの希望をもたらすだろう」 <参考記事>WHO、シノバック製コロナワクチンを緊急使用登録 中国製はシノファームに続き2例目 <参考記事>中国ワクチン、有効率わずか50% 南米に動揺と失望が広がる

Source:Newsweek
中国シノバックのワクチンで死者が95%減、あのブラジルで起こった「奇跡」