2021
05.27

バイデン政権が新型コロナ発生源究明へ調査強化、武漢研究所も対象

国際ニュースまとめ

<中国が協力しない限り真相は不明のまま終わる可能性が高いが、少なくとも1つの米情報機関は研究所由来説を疑っているという。発生源が特定できなければ、再発防止もできない> 米バイデン政権が、新型コロナウイルスの発生源である疑いが消えない中国の武漢ウイルス研究所の再調査圧力を強めている。議会も、情報開示に応じない中国政府に対する制裁に動いている。 今週初め、パンデミックが始まる直前の2019年11月に同研究所の研究員3人が体調を崩して入院するほどだったという新情報が明らかになったこともあり、ジョー・バイデン大統領は米情報機関にコロナ発生源の再調査を命じ、WHOによる武漢再調査も後押しするという。 米上院は5月25日、中国武漢のウイルス研究所への助成金支給を禁止する修正条項を審議中の法案に盛り込むことを全会一致で承認した。上院はまた、共和党のランド・ポール議員が提出した別の修正案も承認した。こちらは、中国が進める「機能獲得型」の研究(遺伝子操作でウイルスの機能を増強させるもの)に連邦政府の資金を投じることを禁止するものだ。 「中国国営の研究所、特に武漢ウイルス研究所に、連邦政府の資金を引き続き提供することは、中国との競争で優位になるため、国内の研究への支援を強化するという包括的法案の主旨に反する」と、最初の修正条項を提出した共和党のジョニ・アーンスト上院議員は述べた。「納税者のカネは1セント足りとも、共産主義中国のこの研究所の支援に使ってはならない」 またジョー・バイデン米大統領は翌26日、新型コロナウイルスの発生源に関し、武漢の研究所から流出した説も含めて徹底した追加調査を行うよう情報機関に命じた。 流出説の情報機関も 以下はAP通信が伝えた詳細だ。 バイデン政権はこれまで、新型コロナは武漢の研究所から漏れ出したという説を非科学的な見解として軽視し続けてきた。ここに来て中国に情報公開を迫る国際社会の大合唱に加わり始めた背景には、共和党の批判をかわす狙いもありそうだ。中国は国際調査を妨害した疑いがもたれているが、バイデンはこの隠蔽疑惑を厳しく追及せず、中国政府に圧力をかける機会を逸したと、共和党は不満を募らせてきた。 バイデンは情報機関に90日以内に調査報告を行うよう命じた。また国立の研究機関に情報機関の調査に協力するよう要請。情報機関には、専門家の助言を基に中国政府に提出する具体的な質問のリストを作成するよう指示した。バイデンは中国政府にも、パンデミックの発生源に関する国際調査に協力するよう改めて呼びかけた。 新型コロナは感染した動物にヒトが接触したために自然に発生したのではなく、武漢の研究所から人為的ミスで流出したものだ──ドナルド・トランプ米前大統領と共和党のトランプ派は一貫してそう主張してきた。 バイデンの声明によれば、米情報機関の大多数はこれまで自然発生説と研究所からの流出説の2つの説を中心に調査を行なってきたが、現状では「どちらの確率が高いか判定するに足る十分な情報は得られていないと見ている」という。 2つの情報機関は動物由来説に傾いているが、人為的流出説に「より傾斜している機関が1つある」こともバイデンは明らかにした。ただし「いずれも確信は持てないか、まずまず持てる程度」だとも付け加える。 ===== 「アメリカは引き続き志を同じくする世界中のパートナー国と共に、全面的で透明性の高い、科学的証拠に基づく国際調査に参加し、あらゆる関連データと証拠へのアクセスを提供するよう中国政府に求めていく」バイデンは声明でそう誓った。 バイデン政権はこれまで、人為的流出説が世論の主流にならないよう火消しに努め、政権スタッフらは個人的見解として「あり得ない」とも述べてきた。バイデンが流出説も含めた調査を指示したのはこれが初めてだ。 ホワイトハウスの新型コロナ対策顧問を務めるファウチは26日の公聴会で、パンデミックの発生源については、自分も大半の専門家と同様、「自然に生じたというシナリオが最も蓋然性が高いと考えているが、誰も100%の確信は持っていない」と述べた。 常習的な隠蔽体質 「多くの懸念があり、多くの憶測が飛び交っていて、誰も確かなことを知らない以上、完全な情報開示により、あらゆる情報が入手でき、精査できる状況で、徹底的に調査を行う必要があると私は考えている」と、ファウチは上院で語った。 ホワイトハウスのジェニファー・サキ報道官は26日、米政府は世界保健機関(WHO)が中国で新たな調査を行うことを支持すると述べた。ただし、「中国が重い腰を上げ、発生源特定に必要な情報へのアクセスを許可」しない限り、有効な調査はできないとも釘を刺した。 バイデンも、中国政府が国際調査への全面的な協力を拒否し続ける限り、確実な結論は出ない可能性が高いことはわかっている。「コロナ発生初期の数カ月の間に、われわれの調査官を現場に派遣できなかったことが、今後も発生源調査の足を引っ張り続けるだろう」と、声明でも述べている。 政権スタッフは依然として人為的流出説には懐疑的だ。中国がこれまでに国際社会で見せてきた数々の無責任な行動に照らせば、国際調査、特に今回のような大規模な調査への協力を拒否するのは、何かを隠すためというより、中国の常習的な対応と見るほうが妥当だ、というのである。 ===== 政権スタッフは個人的な見解として、追加調査を行なっても真相は藪の中だろうが、この1件で中国の隠蔽体質をはっきりと世界に印象づけることはできた、と語った。 米国務省は今春、トランプ前政権が始めた流出説に関する調査を打ち切ったが、引き続き情報機関などと連携し、調査に協力するよう中国に働きかける方針を明らかにしている。 「中国が調査には全面的に協力していると言い張ることは遺憾であり、このパンデミックを収束させ、グローバルな健康安全保障を強化しようと国境を越えて協力している世界中の国々の努力に仇なす態度だ」と、国務省のネッド・プライス報道官は述べた。 ウイルスの発生源調査は極めて重要だと、カナダ・サスカチュワン大学のワクチン・感染症研究機関のウイルス学者、アリンジェイ・バナジーは言う。「どこから発生したかが分からなければ、再び広がるのを防ぎようがない」 新型コロナと100%同じウイルスはまだ見つかっていない 「このウイルスは野生動物由来と見るのが、今でも妥当な見方だ」と、バナジーは指摘する。自然界ではウイルスが動物からヒトへと飛び移る「スピルオーバー」現象は珍しくない。コウモリが保有するベータコロナウイルスはこれまでにもヒトに飛び移り、重症急性呼吸器症候群(SARS)、さらにはラクダを介して中東呼吸器症候群(MERS)を起こしてきた。新型コロナもその1種だ。 「これまでに得られた証拠から、新型コロナは野生動物由来と考えられる」と、バナジーは言う。 しかし、それは決定的な結論ではない、とも付け加える。「さまざまな可能性があり、断定はできない。新型コロナと100%同じ動物のウイルスはまだ特定されておらず、その他の可能性を探る余地はある」 新型コロナ対策でバイデンの上級顧問を務めるアンディ・スラビットは25日、「答えが何であれ」、世界は「真相を究明する」必要があると語った。 「中国は完全に情報を開示する必要があり、そのためにはWHOの後押しも必要だ」と、スラビットは述べた。「今はそれが得られていない」

Source:Newsweek
バイデン政権が新型コロナ発生源究明へ調査強化、武漢研究所も対象