2025
01.16

ロシア派遣北朝鮮兵は何者か? 「暴風軍団」出身の記者が分析(1)「捕虜は極度の混乱状態のはず。本人と家族の人権に配慮を」

国際ニュースまとめ

下級将校と推定される兵士A。顎を負傷し、話せない状態だ。ウクライナ当局が公開した映像をキャプチャー(写真の一部を加工しています)

ロシアに派兵された北朝鮮兵士2名が、ウクライナ軍に捕虜として捕まった。ウクライナ当局が公開した映像によると、捕虜は「戦争だと知らなかった」と話している。いったいこの若い北朝鮮兵たちは何者なのか。はるばるロシアに派遣されてウクライナ軍と戦うことをどう認識していたのだろうか。朝鮮人民軍の精鋭部隊「暴風軍団」に所属していた記者と共に考察する。(洪麻里)

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◆捕虜は25歳の新米将校と19歳の一般兵士か

ウクライナ当局によると、捕虜2人は1999年生まれと、2005年生まれ。満年齢で現在25歳と19歳である可能性が高いため、アジアプレスではそのように年齢を表記する。

25歳の兵士A2016年入隊の狙撃兵、19歳の兵士B2021年入隊のライフル兵だとウクライナ当局の尋問に供述している。とすると、服務期間はA8年程度、B3年程度ということになる。

アジアプレスのカン・ジウォン記者は1990年代後半に朝鮮人民軍に入隊し、「暴風軍団」に所属していた。カン記者によると、25歳の兵士Aは新米の下級将校とみられるという。入隊後、2年間の新兵生活を経て、下士官を養成する軍官学校で2年間学ぶことが一般的だからだ。また、北朝鮮では男子は一般的に満17歳で入隊することから、19歳の兵士Bは、世情に疎く経験が非常に浅い一般兵士であることが分かる。

◆「ウクライナと戦うことも知らなかった」

服務経験が3年程とみられる兵士B。ベッドに横たわって尋問に応じた。ウクライナ当局が公開した映像をキャプチャー(写真の一部を加工しています)


ウクライナ保安局(SBU)の尋問に捕虜2人が答える映像から、彼らが戦闘について何ひとつ知らされていなかったことがわかる。

兵士Bは、「今どこにいるか知っているか?」との問いに、首を横に振った。「ウクライナを相手に戦うことを知っていたか?」という質問に対しても首を横に振り、「訓練を実戦のようにすると言われていた」と小さな声で答えた。目を見開きながらか細い声で話す様子からは、極度の混乱と恐怖が読み取れる。

兵士Aは、顎を負傷し、言葉を発することができない状態だ。「両親はあなたがどこにいるのか知っているか?」と聞かれると、首を横に振った。

◆2人の捕虜は混乱状態のはず

映像では、「北朝鮮に帰りたいか?」という質問も投げかけられた。兵士Aは首を縦に振り、帰国の意思を示した。

他方、兵士Bは、「ウクライナの人はいい人ですか?」と尋ね、「ここ(ウクライナ)に住みたい」と答えた。「(北朝鮮に)帰れと言われたら帰るけれど…」とも話した。

この意思表示にについてカン記者は、「言葉通りに受け取るのではなく、彼らの置かれた状況と心理状態を考慮しなければならない」とし、次の2点を強調する。

まずは、17歳で入隊し、外部との接触を遮断された軍生活を送り、世の中を全く知らない若い兵士だということだ。もう一点は、戦地に行くことさえも知らされず送り込まれ、初めての実戦を経験し、仲間が次々に死亡するのを目の当たりにした直後だということ。自分の置かれた状況も、尋問で目の前にいる人間が敵か味方かも分からない非常に混乱した精神状態での回答である。

◆公開映像は北朝鮮当局も見ている

また、カン記者は「彼らと彼らの家族に被害が及ばないように、映像公開は慎重でなければならない」と指摘する。

ウクライナ当局は、映像で彼らの顔を隠すこともせず、SNSで世界に公開した。それを兵士ABに対し通知しただろうか? 参戦した北朝鮮軍の実体を明らかにすることは重要だが、公開が及ぼす影響についての配慮が欠けている。北朝鮮当局者が見ているのは間違いないからだ。

カン記者は、「もし体制を批判するような発言が公になれば、今後本人にも家族にも不利益が及ぶ可能性が非常に高い」と話す。

◆人権に配慮し、本人の意思に基づいた選択を

ゼレンスキー大統領はSNSで、「ロシアの捕虜となったウクライナ軍人と金正恩の兵士を交換する用意がある」と表明している。また、「もし北朝鮮兵士が帰還を望まない場合、他の選択肢がある」とも述べている。

捕虜となった北朝鮮の若者2人には、ウクライナに残る、韓国へ行く、ロシアに引き渡されて北朝鮮へ戻るなどの選択肢がある。いずれにせよ、大前提として本人の意思に基づいた選択でなくてはならない。

高校を卒業してすぐに、兵営で隔離されてさらなる思想注入を受けてきた彼らは、国際的な常識や情勢に極端に疎いはずだ。捕虜となった現在、人権に配慮しつつ、どんな選択肢があるのかを十分に説明することはもちろん、北朝鮮に帰還することも想定した対応が必要だ。

 

Source: アジアプレス・ネットワーク