12.19
「150円のおにぎりを買うお金がない」“奇跡の9連休”を前に困窮する子どもや若者。止まらないSOS。いま必要とされる支援は
「ごはんを食べない日がある」「150円のおにぎりを買うお金がない」
これらはどこか遠くにある発展途上国の若者の声ではない。他でもない、日本の若者たちから日々、支援団体に寄せられる「SOS」のメッセージだ。
家庭の事情などで経済的困難や孤立に苦しむ子どもや若者たちが今、今日や明日の食事さえ確保できない状況に追い込まれている。
NPO法人「D×P」(ディーピー)では、全国各地から助けを求める若者たちに食糧物資を送るなどの支援を行なっている。
今、若者たちが置かれる現状は。大阪市中央区にあるD×Pの食糧倉庫を訪れ、困窮する若者に向けた支援活動の“今”を取材した。
困窮する若者たちからの止まらない「SOS」
大阪市内のビジネス街の一角に、D×Pの事務所はある。忙しく行き交う人々には、すぐ近くに困窮する若者たちに送られる緊急食糧支援の倉庫があることや、そのような若者が日本にいることは想像がつかないかもしれない。
支援物資の保管倉庫として使われ、D×Pのスタッフが箱詰め作業などを行う事務所の一室には、段ボールに入ったレトルト食品や缶詰などが所狭しと並べられていた。
D×Pでは、ひとり親家庭での生活や虐待・ネグレクトの経験など、さまざまなバックグラウンドを持つ13〜25歳の若者を支援している。
LINEで相談ができる「ユキサキチャット」では、全国各地の若者から助けを求める声が日々届き、これまで送った食糧支援は累計24万食を超える。現在も、毎週2000〜3000食を発送している状況だ。
食糧支援を必要とする若者の約4割が調理器具などがない状態にあるため、調理の必要がなくすぐに食べられ、保存がきくレトルト食品を主に送っている。
助けを求める若者に共通しているのは、困窮した時に頼れる保護者や大人が周囲にいないことだ。
虐待やネグレクトを理由に育った家庭にいられず家を出ていたり、親に奨学金を使い込まれてしまったりと、困窮する背景は様々だが、公的な支援からもこぼれ落ち「孤立」してしまった子どもや若者から痛切なSOSが日々届いている。
元々はユキサキチャットでは、不登校の生徒から進学や就職の相談を受けていたが、2020年のコロナ禍による緊急事態宣言あたりからその内容が変わってきたとD×P理事長の今井紀明さんは語る。
「一人暮らしをしている高校生やネグレクト、虐待の問題を抱える若者から『所持金が数百円しかない』『バイト代を親に取られた』といった相談が殺到し始めました。そこで相談だけではなく、食糧支援や現金給付を始めたという背景があります」
「食糧支援も現金給付も世帯支援ではなく若者に直接届けることを大切にしています。ネグレクトを受けている若者の場合は親が拒否することもあるので、郵便局留めや学校に直接送っています」
「頼れる場所がある」と知ってもらうために
物資を送る際には、アレルギーの有無を聞いたり、カスタマイズして生理用品も入れたりなど、それぞれのニーズにあった中身になるようにしている。ライフラインが止まっているなどの極限状態にある若者には、現金給付も行なっている。
コロナ禍では、体調を崩しても頼る人がいない若者たちからのSOSが相次ぎ、ゼリー飲料などを入れたコロナ療養セットも発送した。
2021年5月〜2024年10月にD×Pへのサポートを希望した若者を対象に実施したアンケート調査では、2092人の46%が「ごはんを食べない日がある」と答えていた。
サポートは「緊急支援」「短期支援」「長期支援」の3つあり、相談者が置かれている状況を丁寧にヒアリングし、必要とされる対応を取っていく。
D×Pが支援の対象とする13歳〜25歳の年齢層でも、相談者の約半数は滞納や借金などの問題を抱えており、まずはライフラインを復活させるために緊急支援として最大で一括8万円までの現金給付を行う。
最初の3ヶ月は短期支援として食糧の送付などを行い、国や自治体の社会保障制度に繋げたり、アルバイトなどへの就労をサポートしたりして長期支援へと繋げていく形だ。
初めて食糧支援を送る時には手書きの手紙も添える。今井さんは「助けを求める若者のほぼ全員が、親を頼ったり大切にされたりという経験がない」と話す。
「大切にされている」と感じてもらい、「頼れる場所がある」と知ってもらうため、丁寧なLINE相談のやり取りをして物資の内容もカスタマイズし、手紙を書いて一人一人の孤独に寄り添えるようにしている。
「人の温かさに触れて泣いてしまいました。生きるの頑張ろうって思いました」
支援を受け取った若者からは「体調も精神も元気になりました」「支援していただいたおかげで、なんとか前に進めそうです」とお礼のLINEが届く。
《ずっと孤独だったので人の温かさに触れて泣いてしまいました。生きるの頑張ろうって思いました》
《食事を摂るのも難しいことが続いていたのですが、そんな時にユキサキさんに送っていただいた缶詰やレトルトを食べて過ごしていました。とてもありがたかったです》
「奇跡の9連休」の年末年始。一方、困窮する若者たちは…
家族団欒の機会も増えるクリスマスやお正月が近づき、「奇跡の9連休」になると世の中は盛り上がる中で、年末年始は支援が必要な人々にとっては公的機関も閉まってしまう厳しい時期となる。
ユキサキチャットの登録者数は1万5000人を超えており、その数は増え続けている。
物価高も相まって先行きが厳しさを増す中、年末年始に向けて不安を感じる若者が溢れている状況だ。D×Pによると、この冬に必要な物資は5万食にも上るという。
食糧倉庫では今、年末年始に向けて全国の若者たちに届けるための物資の箱詰め作業が佳境を迎えている。
若者たちからは「何かあったときに相談できる友人や知人も年末年始は実家に帰省するので誰にも頼れない」「普段利用するWi-Fiや暖房がある商業施設も閉まるので、寒さを凌げない」との声が寄せられているという。
食糧支援などは、企業や個人など支援者らからの寄付によって成り立っている。
年末年始に向けて現在、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で寄付を募っている。
犯罪集団がSNSなどで呼びかける「闇バイト」から困窮した若者たちを守るためにも、どうにか支援を届けたいという思いだ。
理事長の今井さんは「政府ができていない支援を、民間だから作ることもできる」とし、こう呼びかけている。
「オンラインで相談した時に自分のことを気にかけてくれる人がいる、相談だけじゃなくて食糧や給付などの支援が得られる、それがあって良かったとよく言われます。
今年の年末年始も安心して暮らせるように、私たちもリーチできるようにしたいですし、ぜひ一緒に支援に参加していただけると嬉しいです」
(取材・文=冨田すみれ子)
Source: HuffPost