12.04
<ミャンマー現地報告3>内戦続くカレンニー州、戦時下で支え合う国内避難民(写真9枚+地図)
カレンニー州では人口の約8割が避難。その数は30万人超といわれる。メーセ周辺には、約1万人の国内避難民が9つのキャンプで暮らす。空爆や地雷に直面するなか、ほとんどの避難民が帰還していない。キャンプでは、子どもたちの教育のため、同じ避難民の大人や若者たちが支援活動にあたっている。(赤津陽治)
◆カレンニー州人口8割が避難民に
国軍の空爆が激しかった昨年6月には、多くの住民が国境を越え、タイ側に避難した。タイ当局は一時的に滞在を認めたものの、約3カ月後、ミャンマー側に送還した。
空爆や地雷の恐怖から、大多数の住民は依然として国境沿いに設けられた国内避難民キャンプに留まっている。メーセ周辺には、9カ所の国内避難民キャンプがあり、カレンニー州の各地域から避難してきた約1万人が暮らす。
カレンニー州暫定行政評議会(IEC)は今年初め、カレンニー州の人口約42万人のうち、8割にあたる約35万人が避難を余儀なくされていると発表している。
第3-Bキャンプを案内してくれたアンジェラさん(19歳)は、州西部のメーセナンから避難してきた。
「砲弾が飛んできたり、空爆されたりする危険がありました。どこに着弾するか分からない爆弾が怖くて、逃げてきたのです」
このキャンプには、99世帯455人が暮らす。竹で組まれた高床式の家が立ち並び、軒下には、薪が積まれていた。
キャンプでは、米(1カ月大人約16キロ、子ども8キロ)や豆、塩、油の食糧のほか、服、毛布、屋根用シートが配給される。高菜や唐辛子などの野菜は、自家栽培している。
「清潔な飲用水を一番必要としています。次に、爪切りなどのような衛生用品です」とアンジェラさんは話す。
井戸はなく、小川の水を飲料用にするしかない。衛生状態が悪いため、下痢症状が出ることも少なくない。
◆戦時下に生きる子どもたち
キャンプ内に設けられた学校では、避難民の子どもたちの元気な声が響いていた。若い女性教員が3つの教室を移動しながら、同時に3学年を教えていた。
授業に使われていたのは、日本の国際協力機構(JICA)の援助で2017年からミャンマー全国の学校に導入された教科書だった。教科書は足りておらず、持っていない子どもたちもいる。
しかし、子どもたちは、本当に楽しそうに授業を受けていた。
「戦闘で子どもたちの心は傷ついています。学校に来て勉強することで、子どもたちは辛い現実を一時でも忘れることができます。教育は子どもたちの将来のためにも大切です」
教員のジョスフィンさん(19歳)は、そう話す。
彼女自身も避難民だ。カレンニー州北部のディモーソー郡区から避難してきて3年になる。並行政権である国民統一政府(NUG)が実施した高校卒業認定試験に昨年合格したばかりだ。短期の教員養成の研修を受けて、ボランティア教員になった。月曜から金曜まで終日、教鞭をとる。3-Bキャンプでは、幼年生から8年生までの生徒185人を教員9人で教えている。
「生徒たちを一カ所に集めて教えることはできません。空爆の標的にされるおそれがあるからです」
キャンプの教育担当責任者ユスタートゥーさん(36歳)によると、国軍の戦闘機が飛んでくると、授業を中断し、生徒を帰宅させることもあるという。
2月にも州北部ディモーソー郡区で学校が空爆され、学校に通う子どもを含む5人が犠牲となった。カレンニー州では、これまで学校が8回空爆を受けている。
「子どもたちに絵を描かせると、戦争に関することばかり描きます。どんな夢があるかと訊くと、『大きくなったら、戦闘機の操縦士になりたい』などと答えます。私たちは、軍事に関することを忘れさせたい。本来の人生の夢を持てるようにしていきたいです」。
◆新しい将来の夢「教師になりたい」
カレンニー州暫定行政評議会(IEC)によると、実効支配地域内には、学校が456校あり、小学生から高校生までの生徒約4万6000人が学んでいる。教科書や校舎用のシートが不足しているという。
キャンプを案内してくれたアンジェラさんも、ボランティアの教師として教えている。
彼女は、クーデターのため、高校生にあたる9年生しか修了していない。元々、医科大学に進み、外科医になりたいという夢を持っていた。経済的な事情で治療を受けられず、障害を抱える者が親族に多くいたからだ。しかし、今の状況でその夢を叶えることは難しい。
今、彼女は、キャンプの子どもたちを教えるようになって、教師こそが自分の使命だと思うようになっている。
「子どもたちのために教える仕事をもっと向上させるため、やるべきことが多くあります。今は、これこそが自分の進むべき道だと思っています」。
カレンニー州解放区の自治は、こうした「人びとを助けたい」という一人ひとりの強い思いに支えられている。
いつか平和が戻り、安心して社会再建に取り組める日が訪れたとき、中核を担うのは、きっと彼らのような人たちにちがいない。
<了>
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Source: アジアプレス・ネットワーク