2024
11.22

小学校体育館でアスベスト飛散の行橋市、説明会の要望無視して除去工事強行 準備作業で法違反の指摘も

国際ニュースまとめ

小学校の体育館天井「吸音材」から発がん性の高いアスベスト(石綿)を検出しただけでなく、館内空気からも飛散が確認された福岡県行橋市で混乱が続いている。この間の市の対応を不安に思った保護者が説明会の開催を求めたが、市教育委員会は拒否し11月21日から除去を強行したのである。(井部正之)

天井の吹き付け材からアモサイト(茶石綿)とクリソタイル(白石綿)を検出した行橋市の仲津小学校体育館。11月20日に訪れると翌21日からの除去工事に向けて、排気ダクトを外に出すための準備がされていた(筆者撮影)

◆保護者に工事期間すら説明なし

問題になっているのは同市の仲津小学校(同市大字道場寺)。1970年竣工の体育館で、7月下旬に天井の「吸音材」からクリソタイル(白石綿)だけでなく、発がん性のより高いアモサイト(茶石綿)を検出した。もっとも危険性の高い吹き付け石綿と見られ、「劣化が著しい」ことから市は体育館を使用禁止。館内の空気からも走査電子顕微鏡(SEM)による分析で微量ではあるが、空気1リットルあたり最大0.26本の石綿が確認された。

市教委は学校側から卒業式に体育館を使いたいとの要望があったとして、児童らの在校中に吹き付け石綿の除去を計画。10月から2月末までの工期で約2700万円(税込み)で発注した。

しかし児童が居る環境での除去工事について、1年生の娘を通わせている保護者(40代・女性)はこう心配する。

「市教委からは説明らしい説明はありません。体育館の天井から石綿を検出したので空気の測定をします。測定したけど、目安となる数値を大幅に下回っているから大丈夫。いつから除去しますとPDF文書やメールでいうだけ。工事も冬休みになるからと聞いて安心していたら、突然あと数日で除去を開始するというので驚いています。心配なのですが、どうなっているかわからない。1番危ない吹き付け石綿の除去工事の期間すら説明されず、どういう対策をするのかも知らされていません」

保護者から相談を受け、市教委と話し合っていた福岡県建設労働組合(福建労)の平安将隆書記次長は「除去対応をしっかりやってくれと市に要望したのですが、(市教委)学校管理課の課長から冬休みの期間にやると説明されて安心していたんです。何日かして出張から帰ってきて改めて課長と話したら、業者側の手続きが早めにできたので11月21日から開始すると突然いわれました」と困惑気味に話す。

除去工事が開始された前日の同20日午後、同じく工事のことを心配する別の保護者らが市役所を訪問するのに同行させてもらった。

1年生と3年生の息子を通わせている保護者(50代・男性)は「(吹き付け材に)石綿があるのは事故みたいなものかもしれないが、子どもたちがこれまでも吸っていた可能性があるわけで、そこの説明がどうなのか。たとえば卒業生の方も『私も吸ってたよね、それって(危険は)どうなの?』という方もいる。あるいは『ほかの学校はどうなのか?』と思っている方もいる。そういったこととこれからの対策も含めて説明会を開いていただけないでしょうか」と要望した。

体育館となりに実家のある女性(50代)も「体育館の天井から石綿が見つかったのは聞いてますが、どういう状況なのかとか、工事の説明もちゃんとされていないわけで、とても心配です」と訴えた。じつはこの女性も仲津小学校の卒業生で、「私も石綿を吸ってたってことですよね」と話していた。

市教委は「検討します」と回答した。

突然の予定変更について筆者が尋ねたところ、市教委学校管理課の課長は「私どもの説明の仕方が悪かったのかもしれませんが、冬休みに除去工事を実施すると説明したことはありません。冬休みに本当にできたらいいですねとはいったかもしれませんが、冬休みにやるとは一度もいった覚えはありません」などと否定。同席した建築政策課の課長も「学校側の要望で3月の卒業式に間に合わせなくてはならないので、当初から冬休みの施工は考えていない」と同意した。

◆準備作業で早くも法違反か

市教委との面会時、新たな疑惑が明らかにされた。説明会を求めた保護者が不適正作業を目撃したとして、こう証言したのである。

「1カ月ほど前、子どもを迎えに(小学校敷地内にある)学童保育に行ったとき、体育館で3~4人がおそらく(石綿除去で必要になる)足場の搬入のためにスロープや階段の壁の設置作業をしているのに気づきました。びっくりしたんですが、館内の空気に石綿が含まれていることがわかっているのに、なにも(飛散防止を)せずに学童保育の建物側の扉を開け放ってやっていた。(もっとも厳しい対策が必要な)レベル1の吹き付け石綿の除去にかかわる作業ですから、自分たちの感覚では専用の防じんマスクや防護服が必要ですが、館内を出入りしていた作業者は誰もやって(使って)いませんでした」

写真などの証拠は示されなかったものの、この保護者は建設業の仕事をしており、福建労の組合員。「勉強中」というが、石綿を扱う作業で責任者になる「石綿作業主任者」に加えて、建物調査を担う「建築物石綿含有建材調査者」の講習を修了した有資格者であり、規制の認識は確かだった。

建物などに吹き付け石綿があり、劣化などで飛散し、労働者がばく露するおそれがある場合、石綿の除去などの措置を講じる義務が労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)第10条で規定。臨時でそうした場所で働かせる場合、「労働者に呼吸用保護具及び作業衣又は保護衣を使用させなければならない」と事業者に義務づけられている(同第2項)。

仲津小学校の体育館内には劣化した吹き付け石綿があり、空気中に石綿の飛散が確認されている。その場合、吹き付け石綿の除去作業だけでなく、準備の作業においても上記のばく露防止措置を講じなければならない。念の為、行橋労働基準監督署(安全衛生課)に確認したが、同じ見解であった。

保護者の指摘が事実であれば、除去作業そのものでなく、その準備段階で石綿則違反の可能性がある不適正な作業だったということになる。

市教委の課長は扉を開け放ったままの作業や防護措置の不備は否定せず、「細心の注意を払ってやっています」とあいまいに答えた。

具体的な飛散・ばく露防止対策や測定による実証の状況を聞くと、両課長はなにも答えなかった。

筆者が見たかぎりでも、小学校の周囲に吹き付け石綿の除去工事についての掲示が見当たらなかった。市教委は「きちんと掲示されています」というが、場所を確認すると、校庭内の現場近くで、掲示も非常に小さなものだった。

大気汚染防止法(大防法)では「公衆に見やすいように掲示しなければならない」と定める。校庭は学校敷地内であり、外部の人は勝手に立ち入ることはできないことから、「公衆」が見ることができる掲示になっておらず、大防法(第18条の15第5項)違反の可能性がある。

20日に元請け業者に連絡し不適正作業について聞くと、「ぜんぶ(市と)話し合って規定どおりやってますんで。これで失礼します」と電話を切られた。

翌日に市教委に確認しようと連絡したが、「個別の取材はお断りさせていただきます」と拒否された。

市の発注仕様書を確認したが記載が見当たらなかったことから、準備作業における石綿飛散・ばく露防止措置は指示していない可能性がある。その場合、発注者が元請け業者に対して「施工方法、工期、工事費」などについて、法などの規定の「遵守を妨げるおそれのある条件を付さないように配慮しなければならない」と大防法(第18条の16)や石綿則(第9条)で規定が履行できていないことになる。配慮義務のため罰則はないものの、不適正作業をさせた道義的責任はあろう。

◆市は説明会の開催拒否

石綿の除去作業どころか、その前の準備作業でさえ適切に実施できないとすれば、本当に除去が大丈夫なのかと心配するのは当然だ。だからこそ前出の保護者は、除去作業を開始する前に説明会を開催するよう求めたのである。

ところが20日夕方、市教委から「説明会は実施しない」と福建労の平安氏に連絡があった。理由は「福建労の関係者以外からは心配する声がない」ことから、「個別に丁寧に説明する」という。

平安氏は市教委による冬休みに除去すると説明した覚えがないとの主張に対し、「はっきり冬休みにやるといってました。数日早まるかもしれないが、冬休みの期間を利用して除去しますと間違いなく聞いています」と断言。市側の主張を改めて否定した。

市の“二枚舌”なのか、聞き間違いなのかはにわかに判断できないが、市のいう「丁寧に説明」がされていないからこそ、施工時期でさえ食い違うのではないか。その説明自体がすでに破たんしていよう。

そもそも吹き付け石綿の管理義務は、2005年7月施行の石綿則で位置付けられている。ところが市は一目でわかる吹き付け材を見落とし、結果として、20年近くその義務を守らず、管理をおこたってきた。あげく法令に義務づけがあることを認識した後で発注した除去工事の準備作業でさえ、不適正というのでは話にならない。

モルタルに石綿が含まれる可能性も知らず、筆者が国の資料を示して初めて分析。市教委は取材拒否のため確認できないが、石綿を検出したと聞く。

館内の石綿飛散については実際には存在しない“ねつ造”目安を根拠に安全宣言した。本来ならきちんと現状や健康リスクを説明しなければならないはずだが、それをおこたり、工期すらろくに知らせず工事を強行。保護者が求める説明会の実施すら無視するありさまだ。

保護者と市教委との面会時に聞いたのだが、結局、除去作業時の漏えい監視の測定も1回しか予定していない。工期は7日間で、東京都などの条例や国土交通省の標準仕様書では作業初日のほか6日ごとに「1回以上」とされ、最低でも2回の測定が必要だが、「最低レベル」すら満たしていない。ほかにもいくつもの問題があるが、市教委側に時間がなく十分確認できなかった。

児童らに石綿を吸わせていた可能性がある現場における除去工事では、徹底した対策と丁寧な説明が不可欠だが、現状ではそのいずれも行橋市の対応には見られない。逆に石綿の健康リスクを無視した安全軽視の説明や対策ばかりが目に付くのが現状である。

保護者から相談を受けている前出・平安氏は「体育館で戸を開け放って足場を組んでいるという情報もあり、空気中に微量だが石綿が舞っている状況でも、労働者がばく露防止すらできていないので、非常に不安を覚えている。市教委に安全な対策を求めているが、不安が払拭されない状況です。少なからず、保護者や近隣住民から声が上がっているにもかかわらず、説明会をやらないという回答には驚きました。市は説明会を開催してきちんと説明したうえで、対策についても万全を期すべきです」と指摘する。

市教委との面会に来ることのできなかった保護者(40代・女性)は市の姿勢にこう呆れていた。

「市は説明会を開いてきちんと説明してほしい。でも市教委はとにかく早く目の前から石綿がなくなればいいとしか思っていないですよ」

 

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Source: アジアプレス・ネットワーク