11.20
ゲイの「結婚相談所」ってどんなところ?隠さざるを得ない社会で「安心して楽しめる」お見合いの形【いいふうふの日】
11月22日は、パートナーに日頃の感謝を伝える「いい夫婦の日」。近年は多様な性のあり方を踏まえ、「いいふうふの日」と表記されることが増えてきた。
そんな多様な「いいふうふ」の縁を結んできたゲイ専用の結婚相談所がある。2018年に開設した『ブリッジラウンジ』だ。
法律上同性同士の結婚が認められない社会で、なぜ「結婚相談所」を名乗るのか。差別や偏見がある社会で、安心して楽しく婚活できるために、どんなお見合いの形をとっているのか。
店長の田岡智美さんは「異性愛も同性愛も、望む人が好きな人と支え合って生きていくことは尊く、好きになる性以外は何も変わらない」と感じてきた。一方で「社会が両者に様々な違いを生んでいる」と、胸が痛むこともあった。
取材を通し見えたのは、当事者が置かれる実情に誠実に向き合ったサービスの形。そして「(恋愛に限らず)ゲイの人に、楽しく幸せな人生を送ってほしい」という思いだった。
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*ハフポスト日本版は「いいふうふの日」に合わせ、ゲイの恋愛・お見合いを特集します。全3回。21日は同じ職場で働いたことがあるけれど「お見合いがなければ結ばれなかった」と語るカップルの思い、22日は田岡さんが「社会が生んでいる」と感じる異性愛と同性愛の違いについて掲載します。
◆前身はアプリ。シンプルなプロフィールは「社会の現在地点」
ブリッジラウンジを運営するのは、東京・渋谷区にあるベンチャー企業『xxx』(エイジィ)。「公平な機会がある社会」を目指し、空き家活用など4つの事業を展開している。
なぜゲイ専用の結婚相談所が生まれたのか。同社の髙田圭代表は「好きな人と恋愛したり、パートナーと人生を歩みたかったり。そんな望みを叶えてほしいから」と話す。
一見「普通のこと」に聞こえるかもしれない。だけれどLGBTQ当事者への差別や偏見、「異性愛が前提」の社会があり、「セクシュアリティを隠さざるを得ない人が多い」実情がある。
好きな人ができても、職場や学校での「自然恋愛」は難しい。マッチングアプリはゲイ用でも簡単に登録できるものが多く「身近な人にゲイだと知られるのでは」と怖くなる人もいる。トラブルがあってもアウティングを恐れ、泣き寝入りせざるを得ないケースもある。
そんな課題に向き合い始まったのが、前身となるアプリ『Bridge』(ブリッジ)だ。コンセプトは「真剣なパートナー探し」。身分証明書を求め、有料で登録した人のみが見ることができ、GPS情報は取得しないーー。そんな仕様で安全性を担保し、累計5万人から利用されてきた。
だがアプリは(セクシュアリティに関わらず)見た目が重要視される傾向にある。アプリ上に顔写真を出すことにハードルを感じる人もおり、性格を重視したいという声もあった。
そこで2018年に『ブリッジラウンジ』を開設。店長の田岡さんが、男女の結婚相談所に勤めた経験も踏まえつつ、会員と向き合い試行錯誤しながら、お見合いの仕組みを作り上げていった。
大切にするのは「安心して、楽しく活動できること」。それはどんな形なのか。分かりやすいのは、人生観などをヒアリングした上で会員に毎月送る、お見合い相手の「紹介状」だろう。
田岡さんによると、男女の結婚相談所は、本名や出身校、年収、勤務先、きょうだい構成、実家か一人暮らしか、親との同居の有無など、何十個にもわたる項目が用意されていることが多い。
それに対しブリッジラウンジの紹介状は、本名ではなくニックネーム。顔写真はなく、身長、体重、年齢、約300文字の自己紹介文、担当者からのコメントと、極めてシンプルだ。
「ゲイ」の中にも、新宿2丁目などのゲイコミュニティに行ったりSNSで友人を作ったりする人がいる一方で、そうした場に身バレのリスクを感じたり、苦手だったりする人もいる。
田岡さんはその前提を踏まえ、「ブリッジラウンジの会員様の中には『自分がゲイであることを、生まれて初めて話せた』と打ち明けてくださる方が多いんです」と話す。
「相手が同じゲイの人であったとしても、自分のことを明かすことは、ハードルがあると感じています。仕事や出身地などのお話は個人情報でもあり、(プロフィールの時点で書く、数回会ったタイミングで明かすなど)その人のペースで話せる形が、安心につながると感じています」
◆自分の中の「当たり前」って、本当にそうなの?
お見合いは10分間で、お互いが望めば、お茶やご飯に行く。共通の趣味で盛り上がったり、仕事の価値観を聞いて素敵だなと思ったりーー。そんな「よくある」光景が広がっている。
「人を好きになるって異性愛者も同性愛者も変わらず、とても素敵なことだと思うんです」とほほ笑む田岡さん。「これまで見なかった表情を(相手が)引き出してくれる時もあるなって」
ただ自身は異性愛者であり、時折「本来ないはずの違いを、社会が生んでいる」と胸が痛むこともある。日々、「自分の中の『当たり前』が、そうではない」と気づく経験の連続だ。
例えば、よく「近くに良いお店ないですか?」と尋ねられること。当初は少し不思議に思っていた。店舗は今は渋谷にあり、お店は「選び放題」だと思っていたから。でも「ゲイだと気付かれたくないから」席同士が近くないお店を望む人が多いと知った。だから候補の店舗を、ブログで紹介したことがある。
ゲイであることを隠さざるを得ず、恋愛をしたくても経験できずにきた人も少なくない。それに友人や家族への恋愛相談も、カミングアウトが前提となるから難しい。
だからブリッジラウンジの婚活は自然と、3人のコンサルタントとの「二人三脚」になっていった。
漫画やドラマなど、身近な話題で談笑しながら「楽しく」が基本。最近は特に、日本初のゲイの恋愛リアリティーショー『ボーイフレンド』(Netflix配信)の話が盛り上がった。それと同時に、毎回のお見合いでは相手の良いなと思った点や気になった部分を丁寧に聞き、「どんな人となら幸せになれるか」一緒に考えていく。
恋愛だけでなく、仕事や人間関係の悩みにも向き合いたいと話す田岡さん。それは「男女でも同性同士でも、ある程度自分自身が幸せじゃないと、お相手を幸せにするのは難しいと思うから」。
社会はまだまだ「異性愛が前提」で、何気ない会話でも痛みを感じる人も多い。「1人で生きるその空間も幸せに過ごせるように、何かしらの役に立ちたいなと思っているんです」。
自分の至らなさを思い知る経験が何度もあった。中でも同性愛者に対して差別的な環境で働く会員の悩みを聞いた時のこと。自分なりに「社会は少しずつ変わっていますよ」と励ました。
「それでも僕の職場、見ている景色は絶対に変わらない。田岡さんに分かりますか」と返ってきた。「会員様が見ている社会と私が見ている社会は異なり、ひとりひとり置かれている環境、社会を知ることから始めなければいけないと襟を正しました」
「僕のことを知ろうとしてくれた」「嘘がない対応をしてくれた」といった評判が広がり、登録者数が毎年増えているブリッジラウンジ。それはきっと、当事者が置かれる実情に、誠実に向き合ってきたからだ。
田岡さんにとって一番嬉しいのは、カップルが誕生し、幸せいっぱいな笑顔を見せてくれること。特に胸に残っている言葉がある。それは「ブリッジラウンジに入会しなかったら、僕の人生は窮屈なものになっていたと思います」というもの。この仕事をして良かったと胸がキュッとなった。
「卒業」後も、連絡してくれる会員も多い。「彼と休みの日に公園やスーパーに行くみたいな、たわいない日常がすごく楽しくて」「ちょっと幸せ太りしちゃった(笑)」といった惚気話を聞き、「羨ましいなあって、ニヤニヤしちゃうんです(笑)」とはにかむ。
成婚カップルにインタビューし、幸せな様子を公式ブログで発信するのも、祝福の証だ。「私自身も、元気がもらえるんです!」
◆結婚相談所を名乗るのは「本気で目指しているから」
ブリッジラウンジが目指すのは成婚だけでなく、「ゲイの人ももっと幸せになれる未来」。だから当事者の置かれる実情の発信にも力を入れる。
コンサルタントの石垣桃さんは「セクシュアリティによる転職・移住」などをテーマに、会員らにアンケートを実施している。
根底には、寡黙で自己開示をせず、お見合いでも「お断り」が続いていた会員の存在があった。向き合う中で、「偽らない自分」を見せたことでいじめを受けたという過去を話してくれた。
石垣さんは「身を守ってきたその経験は、絶対に否定しません。ただ、偽ったまま関係を築くことは難しいと思うので、固まったカチコチの心を少しずつ溶かす準備を私としませんか」と伝えた。
「LGBTQについて社会は変わってきたと言われます。それに共感しつつも、会員様のお話とのギャップも感じていて。もっと実情を知ってもらうことが、生きやすい社会の一歩だと思うんです」
ブリッジラウンジを運営する中で、会員や周囲から、ほぼ必ず聞かれることがある。それは、「同性婚ができないのに、なぜ結婚相談所を名乗るのか」という問いだ。
田岡さんは「誰もが結婚できる社会を、本気で目指しているからです」と、まっすぐ答える。
これまで多くのカップルの笑顔を見てきた田岡さんには、何度も頭をかすめる言葉がある。それは「結婚できるようになったら、結婚式に呼ぶからね」という声だ。
「どうしてこんなに真面目に生きて、幸せを掴んだ人が結婚できないんだろうって、苦しくなるんです」。一歩ずつ、変えていこうと決めた。
だから企業として、結婚の平等の法制化を推進する「Business for Marriage Equality」に賛同。いずれはレズビアンに向けた婚活サービスも提供する予定だ。
コンサルタントの宮田実奈さんは、結婚の平等訴訟の判決(東京高裁1次、東京地裁2次)を傍聴し、Podcast『ゲイ婚活おしごと記。』で発信。仲の良い親に「パートナーができても、紹介しなくて良いよ」と言われた会員の話を交えて、「同性婚を認めてほしい」と語る回には大きな反響があった。
世の中には「『同性婚には興味がない』ゲイの人もいる」として、法整備に反対する意見もある。
宮田さんは「この仕事を通し、多くのゲイの方は結婚だけでなく、例えば自分のことを話すなど、きっと異性愛者にとっては当たり前のことも、『できないことが前提』で生きていると感じてきました。(現状も変わるのではと)期待することはしんどいことでもあるからです」と話す。
「成婚して初めてパートナーシップ制度を考えるカップル様もいらっしゃって。『興味がない』の背景にある、諦めた方が楽だと思わせる社会の存在を、忘れてはいけないと思うんです」
田岡さんには、夢がある。それは「同性同士で手を繋いで歩いていても、誰も好奇の目で見ない世の中を見届けること」だ。
これまで結婚式をした成婚カップルが、1組だけいた。普段は同性パートナーがいることを隠しているが、式に参列した後、多くの人目がある中で、タキシード姿の2人が式場の外まで田岡さんを送ってくれた。「気にしなくて良いよ。僕らはもう、大丈夫だから」と声をかけてくれた。こんな光景を増やしたいと思った。
そのために、法制化を求めて声を上げ続ける。ただ50歳の田岡さんは、男女雇用機会均等法があってもまだまだ「男性優位」だと感じる社会を生きてきた。「残念ながら法律だけでは変わらない部分もあると感じているんです」と話す。
だから「これからも、幸せいっぱいなカップルを誕生させたいなって」と笑みを浮かべる。
この仕事を始めたのは2016年。この8年で同棲したり、仲の良い人にパートナーの存在を伝えたりする人が増えてきた。そういった姿を見たり聞いたりすることで、身近な人の認識も変わっていくかもしれない。
そんな「種まき」の積み重ねがいつか、「セクシュアリティに関わらず、誰もが大切な人と幸せに暮らせて、周りにも祝福される」、そんな未来につながると、信じている。
〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉
Source: HuffPost