2024
10.26

<衆院選とアスベスト>救済拡充に対する各党の立ち位置は? 意外な党が後ろ向き

国際ニュースまとめ

10月27日投開票の衆院選を目前に控え、裏金問題と旧統一教会との関連性が注目を集めるなか、まったく報じられていないアスベスト(石綿)被害の救済拡充について、各党のスタンスはどのようなものだろうか。被害者団体「アスベスト患者と家族の会連絡会」による公開質問が参考になる。(井部正之)

アスベスト患者と家族の会連絡会による発表の一部

◆自民党は回答せず

「すき間のない救済」をめざす同連絡会は10月7日、主要8党(公明党、国民民主党、自民党、社会民主党、日本維新の会、日本共産党、立憲民主党、れいわ新撰組 ※五十音順)に4項目の公開質問書を送付。10月21日までに回答のあった6党の見解を23日公表した。自民党とれいわ新撰組からは回答がなかったという(自民党は2021年総選挙時は回答)。

連絡会による公開質問の概要は、
(1)救済法における療養手当の増額や労災制度にあるような遺族年金の創設
(2)救済推進に向け省庁横断の協議会創設など
(3)救済法に国の責任に基づく中皮腫治療の研究促進や石綿ばく露がある住民などの健康管理を位置づけ
(4)若年時の石綿ばく露が原因で数十年後に罹患して労災認定された際に若年時の平均賃金を基準にされ補償が低額化する問題の改善
──の4つ。

各党とも基本的には前向きな反応だが、細かくみていくと違いがみられる。社会民主党、日本共産党、立憲民主党の3党は制度改正・改善に前向きだ。

たとえば(1)の救済法における療養手当の増額などについて、「療養手当が月10万円はあまりにも低額。安心して療養できるように増額すべき」(共産)、「実態に見合った救済法の給付水準引き上げが必要。また労災並みの補償を実現するためにも、遺族年金創設が必要」(社民)、「生活が困窮する場合の増額や労災の遺族補償年金のような仕組みなど、すき間のない救済の実現のため、当事者の生活実態などを考慮していくべき課題」(立憲)などと回答。3党とも療養手当の増額、遺族年金の創設に積極的である。

国民民主党と日本維新の会は各質問に個別には答えず、全体として「アスベスト被害者の属性により救済内容に格差が生じない隙間のない救済を実現するため、縦割り行政を排し、情報公開、情報開示の促進、患者・家族をはじめとする関係者の参加を確保しながら、アスベスト対策を総合的に推進します」(国民)、「認定基準の厳しさや治療のための研究開発費が不十分であるなど、現在も様々な課題が残っています。我が党は、このような問題の解決に向けた取り組みや、訴訟に依らない救済の枠組みの構築に向けて、国に対して誠実に向き合うことを強く求めていくとともに、引き続き全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てさられることなく、相互に人格、個性を尊重し合い、共生する社会の実現に向けて全力を尽くします」(維新)などと回答。

◆後ろ向きの回答をした党は?

若干わかりにくいが、たとえば国民民主党は「患者・家族をはじめとする関係者の参加を確保」と関係者の積極参加を位置づけつつ、石綿対策を「総合的に推進」するとしている。また日本維新の会は「問題の解決に向けた取り組みや、訴訟に依らない救済の枠組みの構築に向けて、国に対して誠実に向き合うことを強く求めていく」と国への強い姿勢をアピールしている。とくに建設労働者らの石綿被害をめぐる訴訟で、最高裁判決後も建材メーカーが徹底抗戦を続けている問題を念頭に救済の枠組み構築について直接言及している。ただし個別の案件でどのような対応なのかは回答からはわからない部分が多い。

公明党はそれぞれの質問にもっとも細かく回答しているが、「石綿健康被害救済法の第1条では、その目的について、『石綿による健康被害の特殊性にかんがみ、石綿による健康被害を受けた者及びその遺族に対し、医療費等を支給するための措置を講ずることにより、石綿による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする』とされています。本制度に基づく療養手当の給付水準については、同制度の性格や類似する制度との均衡を考慮しながら設定されているものと承知しています。引き続き、均衡の取れた制度とすることが必要と考えます」「今後とも制度を取り巻く事情の変化を注視しつつ、アスベストの被害を受けられた方やご遺族の方に、引き続き適切に救済給付を行っていくことが重要であると考えています」など、ほぼ政府見解そのもの。そこから半歩でも踏み出した箇所もなく、自ら積極的に改善に動くというより政府や省庁側の動きに合わせるだけといった印象である。

なお、各党の総選挙公約に石綿対策の記載は見当たらなかった。ただし立憲民主党の「政策集2024」に以下の3項目があることは特筆に値する。

〇アスベスト被害者の属性により救済内容に格差が生じない隙間のない救済を実現するため、縦割り行政を排し、情報公開・情報開示の促進や、患者・家族をはじめとする関係者の参加を確保しながら基金を創設するなどのアスベスト対策を総合的に推進します。

〇2021年に成立した建設アスベスト給付金法によって、裁判によらずに被害者に給付金が支給されることになりましたが、石綿建材メーカーは基金への拠出に応じていません。石綿建材メーカーも参加した救済基金の創設を目指します。

〇解体作業でのアスベスト飛散防止を徹底するため、特定粉じん排出等作業での大気濃度測定の義務化や、専門的知見を持つ第三者による事前調査・作業完了段階での調査の義務化、特定粉じん排出等作業を行う事業に関する許可制度の導入を検討します。

質問事項と各党の回答の詳細は以下のとおり。

◆質問1 石綿救済法(環境省関係)の救済給付の改善

救済給付の療養手当は、月額103,870円です。石綿疾病のため労働能力が喪失し生活に困窮する場合に上記月額では不足するので、療養手当を増額するなどの対策を講じられないでしょうか。
また、労災では遺族補償年金などがありますが、救済給付にも遺族年金などを創設できないでしょうか。

[公明党]

石綿健康被害救済法の第1条では、その目的について、「石綿による健康被害の特殊性にかんがみ、石綿による健康被害を受けた者及びその遺族に対し、医療費等を支給するための措置を講ずることにより、石綿による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする」とされています。
本制度に基づく療養手当の給付水準については、同制度の性格や類似する制度との均衡を考慮しながら設定されているものと承知しています。引き続き、均衡の取れた制度とすることが必要と考えます。
国会で同法が制定された際、アスベストによる健康被害には長い潜伏期間があるという特殊性があり、労災補償対象者以外の被害者の方々について個別的な因果関係を特定することは極めて困難であることから、因果関係に基づく補償制度を構築することはできないことが議論されています。
また、仮に補償制度とすると、因果関係の特定が困難な中で、様々な方々の暴露形態を特定し、その原因者を追及して賠償責任を確定する必要性が生じ、結果として迅速な救済も図れないため、個別の因果関係は問わず、アスベストによる健康被害者をすべからく救済するという構造とする等の議論がなされています。
今後とも制度を取り巻く事情の変化を注視しつつ、アスベストの被害を受けられた方やご遺族の方に、引き続き適切に救済給付を行っていくことが重要であると考えています。

[国民民主党]

(質問全体への回答)
アスベスト被害者の属性により救済内容に格差が生じない隙間のない救済を実現するため、縦割り行政を排し、情報公開、情報開示の促進、患者・家族をはじめとする関係者の参加を確保しながら、アスベスト対策を総合的に推進します。

[社会民主党]

アスベスト被害者の実態に見合った救済法の給付水準引き上げが必要だと考えます。また、労災並みの補償を実現するためにも、遺族年金創設が必要だと考えます。

[日本維新の会]

(質問全体への回答)
政府はアスベスト(石綿)による健康被害に対して、各種の救済制度を設けて対応してきました。しかし、認定基準の厳しさや治療のための研究開発費が不十分であるなど、現在も様々な課題が残っています。
我が党は、このような問題の解決に向けた取り組みや、訴訟に依らない救済の枠組みの構築に向けて、国に対して誠実に向き合うことを強く求めていくとともに、引き続き全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てさられることなく、相互に人格、個性を尊重し合い、共生する社会の実現に向けて全力を尽くします。

[日本共産党]

療養手当が月10万円はあまりにも低額です。安心して療養できるように増額すべきです。

[立憲民主党]

救済給付の療養手当について、生活が困窮する場合の増額や労災の遺族補償年金のような仕組み等、すき間のない救済の実現のため、当事者の皆さまの生活実態などを考慮していくべき課題であると考えます。

◆質問2 「石綿健康被害救済対策推進協議会」(仮称)の創設

改正石綿救済法の附則には、2027年までの救済法の見直しが規定されます。上記1の救済給付の検討を含め、省庁横断の石綿健康被害救済推進協議会を創設して、「すき間がない救済」を進めていただけないでしょうか。
過労死等防止対策推進協議会は当事者及び公益・労働者代表・使用者代表(ILOの三者原則。ILOの意義について、国会決議あり)の四者から構成されており、厚生労働省関係と環境省関係からなる石綿救済法に係る石綿健康被害救済推進協議会も、そのような四者構成を取っていただけないでしょうか。

[公明党]

公明党は、政務調査会のもとに「アスベスト対策本部」を設置しており、患者・ご家族・ご遺族の皆様をはじめ原告団、弁護団の方々からお話をうかがいながら、アスベスト被害の救済に一貫して取り組んできました。
2021年には、自民党と公明党で「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム」を設置し、原告団・弁護団の方々からお話をうかがいながら議論を重ね、建設資材のアスベストによる健康被害を救済する「石綿被害建設労働者給付金支給法」を成立させることができました。
また、同与党プロジェクトチームは、2023年に、石綿関連疾患の治療研究の推進に向けて、労災疾病臨床研究事業費補助金における石綿関連疾患の治療研究に係る予算の拡充を政府に求めてきました。
引き続き、患者・ご家族・ご遺族の皆様の思いを受け止めながら、真摯に取り組んで参ります。
その上で、公明党は、政府に対し、関係省庁と緊密に連携を図りつつ、関係者の皆様お一人お一人と寄り添いながら、隙間のない救済を進めることを求めてまいります。

[国民民主党]

※質問1に対する回答の欄に記載

[社会民主党]

国の責任で被害者を一人残さず救済できるように制度の見直しを図ってまいります。

[日本維新の会]

※質問1に対する回答の欄に記載

[日本共産党]

創設に賛成です。とりわけ患者と家族、遺族代表が機構に参加することは当事者でしかわからない健康被害の苦しみを機構に反映するうえで欠かせないと考えます。

[立憲民主党]

アスベスト被害者の属性により救済内容に格差が生じない隙間のない救済を実現するため、縦割り行政を排し、情報公開・情報開示の促進や、患者・家族をはじめとする関係者の参加を確保しながら基金を創設するなどのアスベスト対策を総合的に推進します。

◆質問3 国の責任・費用による中皮腫治療研究の推進、早期発見などの健康管理

がん対策基本法第19条第2項に「罹患している者の少ないがん及び治癒が特に困難であるがんに係る研究の促進について必要な配慮がなされるものとする」とあります。また、建設アスベスト給付金法では、アスベスト被害に関する国の責任が認められています。さらに、石綿疾病の早期発見など健康管理の充実が求められます(2006年1月、2月の衆参環境委員会の附帯決議)。
そこで、石綿救済法に、国の責任に基づく中皮腫に係る研究の促進や、周辺住民等のアスベスト暴露者に対する健康管理の規定を追加していただけないでしょうか。

[公明党]

アスベスト関連疾病の治療研究については、広島大学などの研究チームが、悪性胸膜中皮腫に対して顕著な治療効果のある可能性がある抗がん剤(核酸医薬)の開発に成功し、治験が行われているものと認識しています。同研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)や、国立がん研究センター等により支援が行われています。
環境省では「石綿読影の精度確保等調査」を実施し、石綿関連疾患の罹患者の早期発見・救済に繋げるために、石綿関連疾患の読影精度向上に向けた知見の収集を図っていると認識しております。また、アスベスト被害の防止については、2020年に改正大気汚染防止法を成立させ、建築物等の解体等工事におけるアスベストの飛散を防止するため、全てのアスベスト含有建材への規制対象の拡大、都道府県等への事前調査結果報告の義務付け、作業基準遵守の徹底のための直接罰の創設など、対策を強化しています。
引き続き、アスベスト関連疾病の治療・研究の促進及び、医療体制の確保や、アスベスト被害の防止等に向けて取り組んで参ります。

[国民民主党]

※質問1に対する回答の欄に記載

[社会民主党]

単に救済給付だけにとどまらず、アスベストによる健康被害者の治癒などの治療法の研究・開発促進などを国の責任で行われるよう見直しが必要だと考えます。

[日本維新の会]

※質問1に対する回答の欄に記載

[日本共産党]

石綿疾病の治療研究や石綿被害の予防については極めて不十分であり、研究、予防は充実すべきです。また、定期的な健診など、国民を守るために国は責任持って必要な措置を講ずることができるよう、制度を改正すべきです。

[立憲民主党]

法改正するかどうかについては、今後の検討課題であると考えますが、治療研究や健康管理への支援は必要であると考えます。

◆質問4 労災給付基礎日額の公正な是正

若年時にアスベストに暴露し、若年時に離職して、潜伏期間を経て壮年時に石綿疾病に罹患した場合、労災認定されても、若年時の平均賃金を基準とする給付基礎日額になってしまいます。
長期の潜伏期間を経て発症するという石綿健康被害の特殊性や、労働能力の損失補償という原則を踏まえ、アスベスト低日額問題の前向きな見直しをお願いできないでしょうか。

[公明党]

石綿関連疾患については、長期の潜伏期間をへて疾患が発症する特殊性があります。労災保険制度は、事業主に責任を負わせる制度となっていますが、発症までの間に石綿アスベストを発生させた会社がなくなっている場合や、被害者が既に転職や定年退職をしている場合もあります。
そのため、平均賃金の算定については、その疾病の発生の恐れのある作業に従事した最後の事業所を離職した日以前3か月間に支払われた賃金を基準にすることとなっており、その際、疾病発生が確定した日までの賃金水準の上昇を考慮する措置が取られています。
ご指摘の労災給付基礎日額の見直しにあっては、以上の点も踏まえ、様々な観点からの検討が必要と考えます。今後とも制度を取り巻く事情の変化を注視しつつ、安定的かつ着実な制度運営が図られることにより、石綿健康被害の迅速な救済がなされることが重要と考えています。

[国民民主党]

※質問1に対する回答の欄に記載

[社会民主党]

アスベスト被害者の生活を守るためにも、アスベストによる健康被害の特殊性など実態に沿った制度の見直しが必要だと考えます。

[日本維新の会]

※質問1に対する回答の欄に記載

[日本共産党]

アスベスト被害は、ばく露してから発病するまで潜伏期間が長いという特殊性と、労働能力の損失補償という原則を考慮した制度にすべきです。

[立憲民主党]

労災保険はすべての労働者の保護を目的とする制度であるため、労災給付基礎日額の見直しありきでなく、あらゆる手段を含めて、すき間のない救済の実現に向けて検討していくべき課題であると考えます。

 

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Source: アジアプレス・ネットワーク