2024
10.07

鎌倉市の小学校2校で室内にアスベスト飛散 児童らばく露か 約20年見落とし

国際ニュースまとめ

鎌倉市は10月1日、市内の小中学校4校で廊下や天井から新たに吹き付け材に発がん物質であるアスベスト(石綿)が検出されたと発表した。重大なのは、吹き付け材が露出していた2校で実際に室内空気から石綿が検出され、児童らが吸っていた可能性があるにもかかわらず、きちんと説明されていないことだ。(井部正之)

自ら測定でアスベスト飛散を裏付けているのに、「劣化等によりアスベストが飛散をしている状況ではありませんでした」と事実を無視した鎌倉市の発表

◆2校7カ所で石綿含有吹き付け材露出

吹き付け材から石綿が検出されたのは、第一小学校(同市由比ガ浜2丁目)、腰越小学校(市腰越2丁目)、今泉小学校(市今泉2丁目)、岩瀬中学校(市岩瀬)の4校。石綿含有の吹き付け材があったのは、第一小学校で3カ所(西棟1階の星の子プレイルーム・教材室、西棟2階の第一図書室、第二図書室)、腰越小学校で13カ所(北棟1階の雪花プレイルーム、相談室、備蓄庫、準備室、第一図工室、第二図工室、廊下、階段下物入れ、北棟2階の特活室、第二理科室、第一図書室、第二図書室、廊下)、今泉小学校で3カ所(北棟1階の図工室、渡り廊下、南棟1階の渡り廊下)、岩瀬中学校で1カ所(体育館と校舎の渡り廊下)。じつに4校の計20カ所でこれまで見落とされてきた吹き付け材から石綿が検出された。

石綿はきわめて強力な発がん物質で、吸ってから数十年後に中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがん)などを発症させる。この濃度までは影響がないとの“しきい値”が見つかっておらず少量のばく露でも健康被害を引き起こす可能性がある。

市教育文化財部学校施設課によれば、使用面積などは算出されていないというが、いずれも天井や天井裏に石綿を含む吹き付けロックウールやバーミキュライト(ひる石)を使用。学校によって異なるが、8月上旬から9月上旬にかけて実施された分析により基準(重量の0.1%)超の石綿検出を確認した。

国際標準の定性分析法「JIS A 1481-1」で調べており、1カ所を除いてすべてクリソタイル(白石綿)の検出。市は定量分析までは依頼しておらず厳密なものではないが、目視定量で重量の0.1%超から5%の範囲内がほとんどだった。

ただし岩瀬中学校の渡り廊下に使われた吹き付けロックウールからは白石綿だけでなく、発がん性がより高いアモサイト(茶石綿)も含有(目視定量で重量の0.1%超から5%)。また第一小学校の3カ所(西棟1階の星の子プレイルーム・教材室、西棟2階の第一図書室、第二図書室)の吹き付けひる石は白石綿の検出だが、含有率が目視定量で5%超から50%と高濃度だった。

とくに第一小学校の3カ所(同)と腰越小学校の4カ所(北棟1階の第二図工室、廊下、階段下物入れ、北棟2階の廊下)の吹き付けひる石は天井に露出。市の発表は「今後の石綿含有吹付材の劣化や破損などによりアスベストが飛散するリスクが大きい」とする一方、専門業者により「早期に除去作業を実施していきます」などと、除去すれば問題ないかのような書きぶりになっている。

第一小学校の西棟は1979年度竣工、腰越小学校の北棟は1965年度竣工で、すでに45年、59年が経過。吹き付け材の劣化がないとは考えにくい。

◆小学校2校で室内空気に石綿検出

実際に室内空気から石綿が検出されており、筆者の取材に市は白石綿だったことを認めているのだ。

市は室内空気の測定は4校すべてで実施。ところが第一小学校における測定で石綿を含む可能性のある「総繊維数濃度」で空気1リットルあたり1本超だったことから、環境省のマニュアルに従って、実際に石綿が含まれているかどうか同定したのだという。念のために同じく露出のある腰越小学校についても石綿の同定をした。

その結果、第一小学校では室内空気5カ所を調べたところ、1カ所を除いてすべて石綿を検出。第一図書室でもっとも高い同0.11本だった。腰越小学校では露出のない箇所も含めて同定。13カ所のうち7カ所で石綿を検出、6カ所で定量できる下限を下回る同0.056本未満だった。また吹き付け材の露出がない相談室と第一図工室、第二図書室で同0.17本と最高値だった。逆に露出していた4カ所のうち1カ所で定量できる下限をぎりぎり超える同0.056本の検出(第二図工室)と3カ所で定量できる下限を下回る同0.056本未満だった。

一方、残る2校は石綿の有無を調べない「総繊維数濃度」測定のみ実施しており、今泉小学校で同0.22本から0.34本、岩瀬中学校で同0.39本。

第一小学校と腰越小学校では、露出のない箇所も含めて室内空気から石綿を検出しており、分析結果が確かであれば、両校の該当する部屋などを利用したときに児童らが吸っていた可能性が高い。

ところが市学校施設課は「空気中のアスベスト繊維数濃度について測定を行った結果、劣化等によりアスベストが飛散をしている状況ではありませんでした」と飛散の事実を無視した発表をしていた。

市は、環境省が毎年発表している大気中の石綿濃度結果に「一般大気環境中の総繊維数濃度が概ね1本/L以下であることから、飛散・漏えい確認の観点からの目安を石綿繊維数濃度1本/Lとしています」とあることを挙げ、「目安は(空気1リットルに)1本としてますけども、測定結果そのものは同1本よりかなり低い」(学校施設課)と問題ないとの認識だ。

しかしこれは単なる漏えい監視における技術上の「目安」であり、安全の指標ではない。空気1リットルで0.1本でも吸い続けることで発がんリスクは上昇する。

そもそも市の空気環境測定は部屋を閉め切って誰も居ない状態で実施する「静穏」測定という、もっとも濃度が低くなる手法による。つまり、児童らが実際にその場所を利用している際にはもっと高濃度だったとみられるのだ。

さらに市が石綿の同定に採用した「位相差/偏光顕微鏡法」は簡便に石綿繊維の同定が可能ではあるが、濃度が実際より低くなる傾向があることが環境省の報告書で指摘されている。よって、実際より2重にばく露が低く見積もられている可能性がある。

きちんと走査電子顕微鏡(SEM)による石綿の同定が必要だろう。また腰越小学校では吹き付け材が露出していない場所の室内空気からも石綿を検出していることから残る2校でも石綿の同定が必要のはずだ。そのうえで室内空気で石綿検出があった2校(残る2校もSEMによる分析で検出があれば同様に)については、児童らのばく露リスクを調査したうえで保護者らに説明するべきだ。

市は「報道発表より前に保護者宛てに測定結果などは細かく報告させていただいたが、健康リスクまでは触れていない」(同)と不備を認め、改めて専門家などに相談して対応したいと前向きに答えた。

しかしすでに自治体の担当者レベルの知識で容易に対応できるものではない。低濃度の石綿ばく露について専門的な知見を有する第三者の有識者による専門委員会を設置して、児童・生徒らの石綿ばく露の状況を調査すべき事案ではないだろうか。どのような内容になるのか注視したい。

◆通常通り週1回の測定で除去計画

もう1つ重要なのは、市が吹き付け材を早期に除去する方針であること。もちろん除去することは望ましいのだが、問題は吹き付けの除去では石綿の外部漏えいが非常に多いことだ。

環境省による測定に同意し、事前に通告したうえで実施している調査であっても2023年度に50%で空気1リットルあたり1本超の石綿が外部に漏えいしていた。2010年度以降の平均でも37.9%と4割近い。あらかじめ測定日がわかっていても、である。

そのため仮に何らかの失敗があって石綿が外部に飛散したとしても、その周辺に子どもたちがおらず、ばく露しない「フェイルセーフ」の仕組みが必須だ。そうでなければ、すぐばく露する事態になりかねない。

もっとも確実なのは、子どもが居ない夏休みなどに実施することだ。それが難しいのであれば、せめて工事期間中だけはその校舎に子どもが居ない状況をつくるべきだろう。そのうえで、たとえば東京都が築地市場解体で専門業者とともに編み出した作業時の飛散・ばく露防止を徹底させる「築地方式」を採用した施工監理・監視の仕組みの導入、国土交通省の標準仕様書や神奈川県を含む一部条例で規定されている実質週1回(作業初日、7日以上の場合は6日間ごと)の測定義務を毎日に拡充するなどの徹底した措置が必要だ。

ところが市学校施設課に聞くと、ごく一般的な発注内容でフェイルセーフの仕組みもない。漏えい監視の測定も実質週1回で上乗せ的な対策も考慮されていなかった。

そもそも石綿を含む吹き付け材の管理は2005年7月施行の労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)第10条で義務づけ。ところが市は吹き付け材からの石綿ばく露のおそれがないよう対策しなくてはならなかったにもかかわらず、20年近くにわたっておこたってきた。市は安衛法違反の可能性が高い。

つまり規制を無視し、子どもたちを石綿ばく露の危険にさらしてきた。あげくに対策工事でも石綿が飛散したとすれば、目も当てられない。考えられる万全の対策を講じることが市にとって、今回工事を実施する最低条件のはずだ。認識が甘いといわざるを得ない。

そうした指摘をしたところ、市学校施設課は「専門業者と相談して、ばく露リスクを回避できるなら検討したい。漏えい監視も学校であることをもう少し考慮して検討したい。ご指摘ふまえて、なるべくリスクを低減させるよう動いていきたい」と答えた。

どこまでの対策が講じられることになるのか。その内容いかんで市の誠意が測られよう。20年近くにもわたる違法を正すためであるうえ、子どもの命にかかわる重大事案である以上、万全の対策が求められる。

 

Related Images:

[ギャラリーを表示: www.02.asiapress.org]
Source: アジアプレス・ネットワーク