2024
10.06

「あいつらは何かやる」。外国人には「とりあえず職質」、その狙いは。元警察幹部が証言【レイシャル・プロファイリング】

国際ニュースまとめ

インタビューに応じるNさん。「外国人に職務質問しただけで『点数』になる仕組みはおかしい」インタビューに応じるNさん。「外国人に職務質問しただけで『点数』になる仕組みはおかしい」

「外国人を見かけたらとりあえずバンカケ(職務質問)しろ、というのが県警では当たり前だった」

関東地方の警察を数年前に退職した元幹部のNさんは、ハフポスト日本版の取材にそう証言する。

「人種」や肌の色、国籍、民族的出身などを基に、個人を捜査活動の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりする警察らの慣行は「レイシャル・プロファイリング」と呼ばれる。

日本のレイシャル・プロファイリングの違法性を巡って国家賠償請求訴訟が始まっているほか、ハフポスト日本版のアンケートや東京弁護士会の調査でも、外国にルーツのある人たちに対する、肌の色や「外国人風」の見た目を理由とした差別的な職務質問の実態が明るみになっている。

レイシャル・プロファイリングが行われる背景に、何があるのか。

外国人に声をかける「最大の目的」

職務質問を主に担う地域課所属の「お巡りさん」ではなく、定年までのほとんどのキャリアを刑事課で積み上げてきたNさん。

自身が市民に職務質問する機会は多くなかったが、退職までの数年間に配属された警察署の幹部時代には、他の幹部たちが朝礼や毎月の訓示で、外国人を見かけたら職務質問するよう警察官たちに指示しているのを度々聞いたという。

「所轄では、特にベトナムやタイ、フィリピンの人には徹底してバンカケするよう指示していた。外国人取り締まり月間や職務質問の強化月間に加えて、強化月間前の『準備月間』も毎年あり、ある幹部は外国人を日本人と『区別』するようにと伝えていた」

職務質問は、警察官が好き勝手に誰に対してもおこなっていいものではない。

どのような場合に職務質問できるのか?職務質問の法的根拠である警察官職務執行法(警職法)第2条1項は、次のように定めている。

第2条1項

<警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる>

つまり、「人種」や肌の色、「外国人風」の見た目のみを理由とした職務質問は、法律上の要件を満たしていない。

だがNさんは「外国人への職務質問では、(警職法が定める)『異常な挙動』や『周囲の事情』なんていうのは一切関係ない」と言い切る。どういうことなのか。

「『外国人』を狙って職務質問する最大の目的は、警察署管内にいる全ての外国人の個人情報を把握すること。

地域課の警察官は、職務質問の時に在留カードを確認して終わりではなく、外国人の個人情報を集めて、警備課に報告していた。警備課は、管内で生活する外国人が誰とどこに住んでいて、どこで働いているかという情報がほしい。勤務先がわかり、さらに新たなヤード(※)が判明すると、それが警備課の『点数』になる。

警備課としては、外国人の不法就労やオーバーステイ(超過滞在)を検挙することよりも、管内にいる外国人の就労場所を把握することが実績になり、評価される。だから職務質問する時に異常な挙動も周囲の事情も関係なく、外国人を見かけたら誰でも声をかけ、情報を集めるよう現場の警察官に指示していた」

なぜ外国人の就労先や居住情報を集めるのか。

Nさんは、「外国人は何らかの犯罪に関わっているという前提があるのと、外国人に絡む犯罪が起きたときにすぐに手を打ちやすいようにするため」だと話す。「要は『あいつらは何かやるから、現場はそのための事前準備をしておけよ』ということ」。

(※)車両の解体・保管場所のこと。外国人が経営するヤードは多い。一部のヤードが、盗難車の解体や保管に利用されるなどの実態がある

外国人に職質すれば「1点」

愛知県警察で長年にわたり「職務質問のプロ」としてのキャリアを歩んできた男性は、職務質問を端緒とした検挙の「ノルマ」が地域課の警察官個人に課されていること、そして効率的にノルマを稼げる「オーバーステイ」の摘発を狙った外国人への職務質問が繰り返されている現状を、ハフポストの取材に明かしていた

Nさんもこの男性と同じく、レイシャル・プロファイリングの根底に「点数」(ノルマ)制度があると指摘する。

具体的には「自分がいた県警では、検挙に至らなくても外国人に職務質問するだけで『1点』になった」という点数化の方法だ。

さらに、職務質問に付随して相手の氏名や勤務先も把握できるため、報告書が一度に何枚も書けて一気に何点も稼げる仕組みだったという。

「外国人(への職務質問)は、『当たり』がない時の逃げ道になっている」

外国人への職務質問と情報収集が特に強化されたのが、約10年前に関東地方で発生した連続殺人事件以降だという。

「容疑者が外国人の事件が起きた時に、管内の外国人情報を把握していないと幹部の面子が潰れる。そうならないために、日頃から職務質問に名を借りた素性の掌握が常態化している」

Nさんは、治安を守るための情報収集の必要性に一定の理解を示す一方で、法的根拠を無視した職務質問には疑問を感じてきたと明かす。

「外国人の犯罪となるとメディアも大きく取り上げるし、社会への影響も大きい。だからと言って、犯罪と関わりのない外国人に何度も職務質問するのはおかしいし、無駄でしょう。

警察官は法律に基づいて職務を執行しているんだから、職務質問して相手をその場にとどめるだけの法的根拠をきちんと頭の中で考えないといけない。異常な挙動があったのか、周囲の事情から合理的に判断したのか?ただ肌の色が違うから、ドレッドヘアだからという理由で職務質問するのは法律違反なんだから」

Nさんは、新人教育にも問題があると指摘する。

「現場の若手警察官は、外国人を見かけたら職務質問するよう教えられている。だから在留カードの照会をかけた数日後に、別の警察官がまた同じ場所で声をかけ、同じ人の照会をかけてくることもあった。

そうした時、若手には『職務質問した理由を相手に聞かれたらなんて答えるの?何と言って弁明するの?』と問いかけ、『理由を聞かれて毅然と答えられないような職務執行はするな』と私は指導していた。

きちんと教育されてこなかった若手たちも可哀想だと思いますよ。数字を上げろと上から言われるばかりで、法律に基づいた職務執行の教育が行き届いていない」

ノルマや外国人の情報収集といった、レイシャル・プロファイリングを生む構造が警察内部に温存されている中、Nさんは「犯罪抑止という建前があるから、構造自体を一気に変えることは簡単ではない」と話す。

一方で、「現場のやり方一つで改善できることもあるはず」とも付け加える。

「例えば『パトロールカード』(※)のように、職務質問された人がいつ声をかけられたかが示せるものを渡すなど、同じ人が何度も受けなくて済む方法があるんじゃないか。

そうした工夫と併せて、そもそも合理的な根拠を持った上でバンカケするように若手に徹底して教育することも必要。そうでないと、悪い慣習が次の世代にいつまでも引き継がれてしまう」

(※)パトロール中の警察官が、市民に対して防犯上で注意してほしいことや、パトロールしていることを伝えるカード

【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)】

◎アンケート◎
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Source: HuffPost