2024
09.27

初の女性総理、誕生一歩手前をどう見る?ジェンダー平等の観点で識者は「時期尚早だった」と評価する。

国際ニュースまとめ

石破茂・元幹事長が新総裁に選出された9月27日の自民党総裁戦では、高市早苗・経済安全保障相が上位2人の決選投票に進出し、史上初めてとなる女性首相の誕生まであと一歩という状況に迫った。

政治におけるジェンダー平等の観点から、今回の高市さんの善戦をどう見るか。「女性総理誕生せず」は、残念と考えるべきだろうか。

上智大法学部の三浦まり教授(政治学)は「仮に『女性総理誕生』となっていても、ジェンダー平等の観点からは逆効果。むしろ誕生は時期尚早だったと言えるのでは」と語る。詳しく聞いた。

――政治におけるジェンダー平等を目指すという観点から、総裁選に女性候補が2人出て、1人は善戦したという状況は、良かったと言えるでしょうか?

9人候補がいたら、少なくとも1人か2人ぐらいは女性が出ていないとかっこ悪い。レベルは低いですが、自民党がそう考えるぐらいの「相場観」ができたということは少し前進。良かったと思います。

ただ、高市さんが総理になっていたとしたら、ジェンダー平等の観点からむしろ状況を後退させる可能性が高かったと言えます。

一般的に、女性がリーダーになることは「ロールモデル効果」があると言われています。「同じ女性にできるなら私にもリーダーになれる可能性があるんだ」と他の女性たちを鼓舞し、より女性の政治参画が進むということですね。

しかし、そのリーダーの裾野、女性議員がいまだにとても少ない状態での女性リーダーの誕生は、「私にも」よりもむしろ「特別な人しか無理なんだ」と思わせるという逆のメッセージになってしまう。わかりやすいのが、韓国の朴槿恵元大統領のような「権力者の娘」です。

高市さんは世襲議員ではありませんが、男性の権力者、スポンサーに支えられて押し上げられてきた構図が明確です。安倍晋三氏の支援を得て前回の総裁選に立候補、今回も「麻生太郎氏が票をまとめるよう指示した」との報道があったといった過程からも明らかです。

――総理が女性でも「スポンサー」の意向に反する政策はできないわけですね。

自民党は選択的夫婦別姓の導入を拒否してきたように、多数を占める保守派の意向として、女性政策を進めることを拒んできた長い歴史があります。これだけ女性議員が少ない状態で、リーダーに押し上げられるのは、その方針を乱さないから。高市さんであればジェンダー平等のための女性政策は進めないだろうからと、安心して選ぶことができる、ということですね。

まとめると、高市さんのような「女性総理」が誕生することには、2つのリスクがあると言えます。一つはロールモデルとしてむしろ逆効果になり、女性の政治への参画が遅れること、二つ目は女性政策は進まないということです。

――しかし、女性総理が誕生すれば、諸外国に比べて大変低いランクでいつも話題になる「ジェンダーギャップ指数」がかなり改善しますね。

そこが「罠」なんです。ジェンダーギャップ指数は確かにかなり改善するはずです。自民党も「私たちは女性をリーダーにできる素晴らしい党なんですよ」という宣伝をするでしょう。

しかし、その女性リーダーが「スポンサーである権力を持った男性の意向に反するジェンダー平等政策はできない」という状態で、本当に実態は変わったと言えるのでしょうか?

ジェンダーギャップ指数というわかりやすいランキングで国際比較をされることによって、ここ数年、ジェンダー平等に向けて改善しようという機運はずいぶん高まりました。ところが、女性総理の誕生が結果的に「もうジェンダーギャップは解消した」という誤解を広げてしまい、機運が消滅する可能性すらある。

これを「トークニズム」と言います。「女性総理誕生」という象徴的な行為によって、あたかも問題が解決したかのように見せかけ、解決しなければならない本当の問題を隠すという行動です。夫婦別姓には取り組みませんが、なんとなく「女性に優しい政党ですよ」と見せかける、ちょうどいい「お茶濁し」です。

――本当の意味で、政治のジェンダーギャップを解消するには何が必要でしょうか。

女性議員が少ないままで、リーダーだけが誕生してもダメです。本当にジェンダーギャップ解消のための政治を進めるには、自民党が党の体質を全般的に変えなくてはなりません。しかし残念ながら、自民党は今の状態では、体質を変える必要性は感じていないでしょう。

政権交代や世代交代で、本当に自民党が危機感をもって入れ替わる時、再生の時にしか、変えるインセンティブは働きません。

――総裁選は一般国民が左右できるものではありません。今後の選挙を見据えた時に、一般の私たちには何ができますか?

女性議員の層を増やすということがすごく重要です。国会議員へとつながるため、まずは地方から女性議員を増やし、そして政治の新陳代謝を促すことが重要です。その先に女性政策を進めることがあります。

長い道のりではありますが、政治を諦めないで、政権交代ができる投票行動をすること、トークニズムの罠にかからずに、きちんと見極めていくことが重要です。

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Source: HuffPost