2024
05.18

あなたはどんな風に死にたい?棺おけに入れる「終活スナック」で考えた私の「最期」

国際ニュースまとめ

「靴を脱いで、足から、お風呂に入るように入ってください」

言われた通り入り、横になると、ぴったりのジャストフィット。枕もあって居心地が良く、なんだか寝袋に入っているような気分ーー。

でも、違う。

私が入ったのは、寝袋でもベッドでも、リラクゼーションカプセルでもない…

棺おけだ。

店内には世界の葬祭品や、「Grave Tokyo」オリジナルの棺おけも店内には世界の葬祭品や、「Grave Tokyo」オリジナルの棺おけも

【こちらもおすすめ】「母の日ムード」がしんどい。亡き母へ送る手紙を集めた「死んだ母の日展」開催

「終活スナック」に込めるママの想い

私が訪れたのは、「日本初」の終活スナック『めめんともり』。

「人生の終わりについて気軽に話せる終活スナックを作りたい」と、クラウドファンディングを経て、2024年2月に東京都江東区の森下にオープンしたばかりだ。

1階にあるドアを開け、暗めの照明の中、2階へと続く細い階段をのぼると、小さなバーカウンターにはガイコツ型のボトルに入ったお酒などが並ぶ。

店内はバーの他にも、死や終活にまつわる多くの本が自由に読める個室や、葬送ブランド「GRAVE TOKYO」の展示もあり、メキシコ風のカラフルな装飾や葬祭品、そして棺おけが置かれている。「死」がコンセプトなのに、暗い雰囲気は全くない。

カラフルな葬祭アイテムもたくさんカラフルな葬祭アイテムもたくさん

「終活に必要な要素は3つあると思っています。1つ目が知識、2つ目がコミュニケーション、そして3つ目が死生観」

そう話すのは、この「終活スナック」オーナーでママの村田ますみさんだ。

「ここに来れば情報が得られる、タブー視されがちな話題でも気軽に話せる、そして死について考え、どんな人生にしたいかを考え向き合うことができる。そういう試みなんです」と話す。

オーナーでママの村田ますみさんオーナーでママの村田ますみさん

村田さんが「死」に関するビジネスを始めたのは、自身の経験がきっかけになっている。

20代の時に、当時まだ50代だった母親が急逝。ダイビングが好きだった母親が希望していた海洋散骨を行うため、終活について何も知識がないところから模索した。

また、立て続けに祖父母も他界。相続をめぐって親族と揉め、つらい思いをしたと言う。

こうした経験から、海洋散骨の会社を起業し、その後、終活カフェをオープンした。しかしカフェはコロナ禍で閉業。「やりたい事が道半ばだった」と、当時カフェでも定期的に開催していた「終活スナック」を、常設でオープンすることになった。

バーでは、ママの村田さんとチーママで「GRAVE TOKYO」代表の布施美佳子さんのどちらか(2人ともいる時もある)が迎えてくれる。布施さんは実際に生前葬を行った経験があり、興味深い話が聞けるバーでは、ママの村田さんとチーママで「GRAVE TOKYO」代表の布施美佳子さんのどちらか(2人ともいる時もある)が迎えてくれる。布施さんは実際に生前葬を行った経験があり、興味深い話が聞ける

スナック開店から約3カ月。お店での話題は、死にまつわることから悩み相談、スポーツにまで及び、タブーはない。自然と家族や介護、葬式やお墓について話していることもよくあるという。

客層の中心は40代から60代の女性だというが、若い人も多く来店する。「本当のシニア世代はあまり来ていなくて、どちらかというと、自分より親のこと、親の終活を考えながら自分のことを考えるくらいの世代が1番多い」と村田さんは話す。

「せっかく1回だけの人生なんで、やっぱり自分の人生をちゃんと生き切るというか、自分でデザインして生きる。そのためには、終わりから考えてみるというのが1つの提案なんですよね」

終活カードゲームで自分の価値観を知る

気がつけば夜8時。7時の開店から約1時間が経ち、店内には私と一緒に来た同僚の他に、2組のお客さんがいた。

奥の棺おけが置いてあるスペースにあるソファには、外国人の若者の姿も。聞くと、ネットで見て、「死」のコンセプトや内装、提供しているテキーラなどに魅せられて来店したそう。

特に死について語るため意気込んで来るわけでもなく、若者がふらっと立ち寄れる雰囲気が魅力的だ。

同僚と共にカウンターに座っていると、村田さんが見たこともないカードゲームを出してきた。

隣の席の2人に「一緒にどうですか?」と誘ってもらい、私たちも参加することに。

初対面の人ともゲームを通してオープンな会話が進む初対面の人ともゲームを通してオープンな会話が進む

その名も「人生100年これからゲーム」。カードには「痛みや苦しみがないようにしたい」「家族に迷惑をかけないようにしたい」といった内容が書かれてあり、人生の最期に何を1番大切にしたいかという価値観を元に、最も優先順位が低いカードを捨てていく、というゲーム。

カードを選ぶ過程で、人生の最期に対する相手や自分の価値観を知ることができ、自分にとっても学びになる。家族と一緒にやれば、お互いの理解の助けになるだろう。

一緒にゲームをした女性は、「カードを通して自分が本当に大切にしている価値観とかが分かって、面白かったです。そういうことを考える機会って普通に生きてたらないので」と話してくれた。

村田さんと仕事関係の知り合いだというこの女性は、今回初めての来店だという。

「良い空間ですよね。死についてポジティブに語って。それを語ることで、これからどういうふうに生きていくのかにつながっていく。いい発見がたくさんありました」

これが「人生100年これからゲーム」。カードを引き、人生の最期に大事にしたいカードは捨てずにキープ。カードは「なりゆきに任せたい」「痛みや苦しみがないようにしたい」「家族に迷惑をかけないようにしたい」などさまざまだ。これが「人生100年これからゲーム」。カードを引き、人生の最期に大事にしたいカードは捨てずにキープ。カードは「なりゆきに任せたい」「痛みや苦しみがないようにしたい」「家族に迷惑をかけないようにしたい」などさまざまだ。

入棺体験に挑戦。思っていたよりディープな体験に

お店では、お酒(ノンアルもあり)やつまみを楽しみながら、終活について話をしたり、ゲームしたりできるだけではない。

冒頭で私が体験した、「入棺体験」も1100円で提供しており、これを目当てに来店する客もいるという。

 この「入棺体験」は、棺おけに入って終わりではない。その後の「体験」にこそ価値があるのだ。

棺おけに入り横たわると、村田さんが私への感謝(?)の言葉を述べながら、メキシコの祝祭「死者の日」で用いられるマリーゴールドの造花を、私の顔の周りに添えてくれた。

そして桶の蓋が閉められるーー。

枕もあって意外と心地よい枕もあって意外と心地よい

一緒に来た同僚は、弔辞を述べるかのように、私のことを語ってくれた。(ポジティブなことだけ)。入った棺おけはかごでできていたため、中は真っ暗にはならず、外の様子も見えたが、あえて目を閉じて同僚の言葉に耳を傾けた。

「…明るくて、オフィスにいるだけで本当に雰囲気が変わるんですよね。いつも出社して彼女に会えるのを楽しみにしていて、いないとちょっと寂しいくらい…」

なんて優しいお言葉…!ありがたい限りです!

感慨に浸りながら、「私ってこう思われてるんだなぁ。本当の葬儀ではなんて言ってもらいたいかな。人の心にどんな風に残りたいかな」と考える貴重な機会となった。

棺おけから出ると、新たな人生のパーパスを得たような気分になって、まさに「生き返った」ような感覚だった。

人によって感じることはそれぞれで、入館体験をして「まだ死にたくないと思った」「これまでの人生が走馬灯のように見えた」など、さまざまな声が寄せられるという。

村田さんは、「そもそも死について考えることって生きることについて考えることだし、いろんな死生観がある。それに向き合うことで、人生が豊かになると思います」と語る。

あなたにとって理想の人生の最期とは?

結局気がついたら、入店から約2時間以上が経っていた。

「店に来た人に、帰る前に必ず書いてもらっているものがある」と村田さん

壁を見ると、「What’s your ideal end of life?(あなたにとって理想の人生の最期とは?)」という質問が書かれ、自身の答えを、付箋に書いて貼るスペースがある。

「あなたにとって理想の人生の最期とは?」「あなたにとって理想の人生の最期とは?」

村田さんも書いたか尋ねると、「こんなに色んな人に終活について話しているのに、自分について考えたことがなかったんですよ。でもこのスナックで毎日色んな人と話して、だんだん考え始めましたね」と苦笑い。

「終活スナックめめんともり」。「めめんともり」はラテン語で「死を想え」という意味「終活スナックめめんともり」。「めめんともり」はラテン語で「死を想え」という意味

「終活ってシニア世代の活動ではなくて、むしろ若い人の方がやったほうがいいかなって思っている」

これまで多くの人の人生の最期の相談に乗ってきた村田さんはそう語る。

「死はいつくるか分からないし、じゃあ『明日死ぬとしたら本当に後悔ないの?』っていうのを日々自分に問い続ける、そういう生き方をしてみると、1日1日大切に生きようと思うし、人生が豊かになるんじゃないかな、と思います」

こうした思いを広めるため、2025年には「終活スナック」2店舗を沖縄にオープン予定だという。

『あなたにとって理想の人生の最期とは?』

実は筆者も、帰り際にバタバタして、付箋に書き忘れてしまったのだが、ここでの時間を通じて、自分の中の答えをもうすでに見つけ始めている。

…クリックして全文を読む

Source: HuffPost