03.18
<北朝鮮内部>金政権が貿易会社を大リストラ(1) 「反社会主義の温床」と規定し統廃合を強行
<北朝鮮内部>金政権が貿易会社を大リストラ(2) 「個人の所有物のように変質」と腐敗批判 貿易会社と市場の遮断を徹底
北朝鮮当局が貿易会社組織の大々的な統廃合に乗り出していることが分かった。1990年代後半から権力機関や貿易会社の傘下に輸出品の生産と管理を担う「外貨稼ぎ基地」(以下、基地)と呼ばれる組織が数多く作られたが、その閉鎖・統合が昨年末から続いている。「反会主義的行為」の温床になっているという政治的理由からだという。北部地域に住む複数の取材協力者が調査し伝えてきた。2回にわたって報告する。(石丸次郎/カン・ジウォン)
◆貿易会社は権力機関傘下に作られた特権組織だった
北朝鮮の貿易会社は、労働党や軍、省庁、警察などの権力機関の傘下に数多く設立され、多くが平壌に本社を置き、地方都市には支社や物流拠点を設けている。
貿易会社は、地下資源や水産資源、漢方薬材料や乾燥山菜、果実などの一次産品や、カツラや付けまつげなどの「賃加工」品を主に中国に輸出してきた。また中国から一般消費物資や食糧、車両や機械部品などを輸入し、国内で販売、流通させることで利益を得て上部機関に上納してきた。
輸出する物品の種類と量は、中央が貿易会社ごとに「ワク」と呼ばれる割り当てを決める(日本語由来とされる)。中国から輸入については、貿易会社が独自の裁量で国内需要に合わせて輸入し、それをトンチュ(金主の意、新興富裕層)と結託して各地に流通させてきた。
貿易会社に対する統制が厳しくなったのは2019年頃からだ。内閣の対外経済省の権限が大幅に強まり、反対に各貿易会社の裁量は縮小していった。2020年1月にコロナ・パンデミックが発生すると、国境は遮断され貿易量は激減。対外経済省が承認したごく限られた品目だけが、西海岸の南浦(ナムポ)で中国と輸出入されるようになった。
コロナに対する防疫を口実に、北朝鮮の貿易システムは国が主導管理する「国家貿易」と呼ばれる体制に一気に移行していった。
◆地方の貿易会社の拠点「基地」に大ナタ
ここで「基地」について少し説明を加えておこう。外貨を稼ぐための輸出品や「賃加工」品の生産と集約の拠点を「基地」という。北朝鮮における外貨稼ぎの末端機関と理解していいだろう。
前述したとおり、中国には漢方薬の材料や山菜、水産物などがたくさん輸出されてきた(水産物は2017年の安保理経済制裁で輸出が禁止された)。それらは一般住民たちが野山や海で採取したもので「源泉」と呼ばれる。この「源泉」を生産したり買い取ってたりして管理する拠点が「基地」だ。「基地」は、中国から輸入された物資を国内各地に流通させる拠点にもなった。
2023年にコロナによる防疫統制が緩和され、朝中貿易は急ピッチで回復している。金正恩政権は貿易会社に対する統制を緩める気配を全く見せず、逆に「基地」の統廃合を強力に進めているのだ。
その目的は何なのか? 労働党員である咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者は、上部からあった説明を次のように伝えてきた。
「幹部らによれば、貿易会社が食糧や地域の物資を高値で流通させて暴利を得てきたので人民の被害が大きい。今や貿易会社は反社会主義行為の温床だ。これ以上金儲けのための組織に転落するのを防ぐための措置だ、ということだ」
この取材協力者に、貿易会社組織の再編統合の現状について聞いた。
◆軍系の貿易会社組織まで廃止
――いつから「基地」の整理が始まったのか?
昨年11月末から貿易会社を調査せよと指示が出ていた。咸鏡北道では今年1月に入って「基地」がいくつも解散させられ、働いていた人たちは人民委員会(地方政府)の労働課によって別の工場や企業に分散配置された。
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