2021
06.16

次期フィリピン大統領は2世候補の一騎打ち? 来年の選挙へ早くも候補者選定

国際ニュースまとめ

<アジアの激動の現代史の舞台となってきたこの地で、また新たな歴史が動き出そうとしている> 2022年5月に次期大統領選を迎えるフィリピンでは、与野党それぞれの陣営で有力な立候補者をめぐる情報が早くも飛び交っており、乱戦となりそうな気配だ。 現職のドゥテルテ大統領は「大統領の任期は1期6年で再選禁止」との法規定があるため次期大統領選に出馬することは法律を改正しない限り不可能となっている。 このためドゥテルテ大統領としては正式には表明していないが、自身も市長を務めた南部ミンダナオ島ダバオの現職市長である娘のサラ・ドゥテルテ氏を意中の後継者として考えている、といわれている。また、最大与党「ラバン」も大勢はサラ市長の大統領選擁立で動いているとされる。 こうしたなか、”打倒ドゥテルテ”を掲げる野党「自由党」などはサラ市長の対抗馬となる大統領選候補者の選定を進めているとされ、最近、候補者6人を発表するなど、世論へのアピールを強めている。 野党の最有力候補は現職副大統領 各種の世論調査ではサラ・ドゥテルテ市長を「望ましい次期大統領候補」とする結果が多い。しかし国民の間や人権団体などには、麻薬取締りでの超法規的殺人という強硬姿勢や、南シナ海の領有権問題で中国に強く出られない「軟弱外交」などからドゥテルテ大統領への批判も多く、2世大統領の誕生への抵抗感は強い。 こうした状況を背景に常に世論調査で高い支持を得ているのが野党陣営のレニー・ロブレド副大統領である。2016年の前回大統領選では副大統領候補として立候補して、反ドゥテルテ票を集めて当選を果たし、ドゥテルテ政権内でも大統領には常に批判的な立場をとって政権内の「バランス」をとっている。 フィリピンでは正副大統領はペアではなくそれぞれに選挙の審判を受けるため、大統領が与党、副大統領が野党という「ねじれ」が可能となる。 ロブレド副大統領自身は次期大統領選への立候補に関して明確な姿勢をこれまでのところ見せていないが「国民が望むなら」との条件付きで立候補する方針といわれている。 野党「自由党」などで組織する連合体「イサンバヤン」は6月12日、現時点での野党候補として6人の名前を発表した。 ===== その6人はレニー・ロブレド副大統領を筆頭に、アントニオ・トリリャネス前上院議員、マリー・グレイス・ポー上院議員、シバック党代表エドワルド・ビリャヌエバ氏、ルソン島バタンガス州知事のヴィルマ・サントス・レクト氏、法律家のホセ・マニュアル氏となっている。 6人の候補者を発表した「イサンバヤン」のメンバーでもあるデル・ロサリオ前外相は「野党擁立候補者に関しては今後も常にアップデートした情報を提供していく」と述べて、現時点ではこの6人から正副大統領候補を絞り込んでいくとの見通しを示した。 与党は大統領一家を軸に これに対しドゥテルテ大統領を支える与党側はサラ市長に次いで知名度が高いマルコス元大統領の息子、フェルナンド・マルコス(愛称ボンボン)前上院議員、国民的英雄のボクサーであり現職上院議員でもあるパッキャオ氏などを有力候補者としている。 このほかにも元警察長官のパンフィロ・ラクソン氏が6月8日に地元メディアから「立候補を検討している」と伝えられ、その去就が注目されている。 サラ市長はミンダナオ島での支持率は高いものの全国レベルではパッキャオ氏やバンバン氏には及ばないと言われている。パッキャオ氏はフィリピン国民の間では絶大な人気を誇り、かつて俳優のジョセフ・エストラーダ氏が1998年に大統領に選出された土壌もあるだけに、大統領選で台風の目になりそうだ。 そうした人気を背景にパッキャオ氏は地元テレビ局に対して「他の者にもチャンスを与えるべきだ」と発言。与党内がサラ市長支持一色になることへの警戒感を明らかにし、サラ市長を牽制する動きに出ている。 一部報道ではパッキャオ氏は「ラバン」を離党して新党を立ち上げるのではないか、との観測も出ているという。 ボンボン氏はマルコス元大統領の息子として全国的な知名度があり、とりわけ父親の出身地であるルソン島北部での支持率は高い。ただマルコス元大統領が在任中に戒厳令を発令し、反政府を訴えた活動家や学生、市民を弾圧した「フィリピンの暗黒時代」を生んだことは今も多くの国民が記憶している。 ドゥテルテ大統領は就任後の2016年11月、実家敷地内に保存されていたマルコス大統領の遺体をマニラ首都圏の「英雄墓地」に埋葬を断行した。歴代の大統領が国民の反マルコス感情への配慮から躊躇してきた懸念を強行突破したことで、マルコス一族とドゥテルテ大統領は急速に接近したと言われている。 こうした経緯から与党陣営の大統領選候補は「ドゥテルテ一族」と「マルコス一族」という大統領経験者の親族を中軸に進み、そこにパッキャオ氏がどう関わっていくのるかが今後の焦点となる。 いずれにしろ、選挙までまだ1年という現段階から与野党から多くの大統領選立候補者の名前が取り沙汰されており、2022年の大統領選は白熱した乱戦になりそうだ。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

Source:Newsweek
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