09.28
「旧姓併記」のパスポートや免許証、直面した国内外の苦労。「証明として役立たず」の例も【体験漫画】
「姓をどちらが変える?」
結婚を機に直面した改姓問題。自分の名前を変えたくなかったが、選択的夫婦別姓が叶ったら元に戻すという条件で改姓。旧姓併記をするも海外渡航を控える彼女を待っていたのは道のりの長い行政手続きだったーー。
漫画を投稿したのは、アメリカ在住のコンセプトデザイナーであるMariko Umeda(うめだま)( @umedama )さん。今回の漫画は『旧姓併記したら国内外でめんどくさい事にいっぱいあった話』として、9月15日に投稿しました。
Mariko Umedaさんは、2013年にイギリスに渡航し、現地のゲーム会社や映像制作会社での就労と大学院進学を経験。2017年に仕事で初めてアメリカに住む機会を得ました。コロナ禍を挟み、今回の渡米は2回目の長期滞在だといいます。
■社会が変わることを切実に望んでいます
2021年春、日本人男性と結婚することになり、そこで直面したのが改姓問題でした。選択的夫婦別姓が叶ったら元の姓に戻すという条件で改姓を引き受け、旧姓併記をしたMariko Umedaさん。
以前から持っていたマイナンバーカードに新姓が追加され、「元の姓の方が大きいしこれならなんとか…」と考えますが、その先に待っていたのは数々の試練でした。
運転免許証の更新やパスポート申請でも旧姓併記をしようとすると、新姓のみの場合と比べて、手間や追加の作業が発生したと言います。さらにパスポート受け取りの時、海外渡航先の入管で止められ旧姓表記について自ら英語で説明しなければならない可能性があることを伝えられ、「旧姓併記…こんなんじゃ悪い予感しかしない… !」と感じたそうです。
無事にビザが下りて、アメリカに渡航しますが、Mariko Umedaさんの悪い予感は現実に。
旧姓の使用や併記ができないアメリカでも苦戦は続いたようです。コロナ禍での手続き遅延なども相まったようで、社会保障ナンバー(日本でいうマイナンバーのようなもの)の名義変更に4カ月かかったといいます。
そんな中妊娠が発覚し、お腹が大きくなる前に現地の運転免許を取ることを決意。ですが、日本の運転免許を見せると実技試験が免除になったという夫とは違って、実技を受けるよう言われてしまいます。免許証に旧姓併記の名前であること以外に、夫との違いはなかったそうです。
臨月で試験表の有効期限が切れてしまい、結局運転免許を取得できたのは出産後でした。
「いくら日本の中で旧姓併記が拡大しても、一歩海外に出れば証明として役に立たず、むしろトラブルを呼ぶだけ」
旧姓併記をしたMariko Umedaさんの行政手続きが終わったのは、渡米から1年後だったといいます。
一方、息子が産まれたことで、アメリカの出生証明書には母親と父親の結婚前の名前が記載されることに気づきます。法的な書類に「産まれた時の名前が書かれること」の嬉しさを噛み締めたそうです。
漫画のフルバージョンは、Mariko Umeda(うめだま)さんのTwitterから。
■身近な問題として考えるきっかけになれば幸いです
ハフポスト日本版では、この作品を投稿したMariko Umeda(うめだま)さんに取材をしました。
ーーなぜ、このエピソードを漫画にしようと思われたのでしょうか?
もともと、ツイッターで日本と海外(アメリカ/イギリス)の比較をするまんがをツイートしていて、出版もしています。
いつも日本と海外、どちらもいいところと悪いところがあり、人それぞれであることを体験を通してまんがで共有していました。今回のまんがも、その中のひとつとして描きました。
結婚と改姓のエピソードを描きたいと思った理由は、元々海外生活が長かったので、別姓や複合姓、事実婚をとるアーティストの同僚が周囲にたくさんいたためです。国によりますが日本と違い別姓や創姓が結婚の時に認められたり、事実婚でも法的に守られ子供をパートナーと養育している姿が新鮮で、共働き家庭の形態としても自然に感じられました。(その時のエピソード漫画はこちら)
また海外で外国籍の方と結婚された日本人は、複合姓やミドルネームに本来の姓を入れる方が結構いらっしゃいました。私も海外と日本でキャリアを積んできたので、次第に将来結婚するのであれば別姓にしたいなぁ‥と思うようになりました。
しかし、日本人男性の夫と出会い結婚が現実的になった時、なぜか「日本人と結婚する時だけは片方が必ず改姓しなければならない」というルールに直面しました。私が別姓を希望していても日本国内では「どっちが改姓するの?」「旧姓で仕事できるからいいんじゃない?」と、別姓という選択肢そのものが自分とは関係ない遠い話、という感覚を持つ方が多いことも実感しました。
私が改姓することになり、旧姓併記がイレギュラーな記述で海外で不便があるかもしれない、という情報は事前に得ていました。が、全ての身分証を新姓にして生きるという選択は、キャリア分断のリスクを増大させるため、あり得ませんでした。また、政府が通称使用の拡大を推し進め、じきに問題が解決されるという宣伝を信じた部分もあります。
実際は、改姓して旧姓併記を選んだら、国内外でいろんな不便や時間のロスに遭遇しました。
日本国内では、新姓のみをつかうことを選んだ人よりも役所を何度も往復したり、改姓しない側は一切必要ない、改姓を証明するための住民票や謄本の発行手数料を取られる仕組み一つ一つにびっくりしました。ぱっと見ナンセンスなマイナンバーカードの旧姓/新姓書き換えシステムも当時マイナンバーカードが普及途中の段階のため情報が少なく、「なんで?」の連続が起きました。
また、国外では旧姓併記がイレギュラーな表記であり個人に説明の裁量を完全に委ねる対応に唖然としました。海外で自分を一番守ってくれるはずのパスポートの表記が「身分証として使えない」ことは、単純に残念に思います。
さらに、現地の運転免許申請で日本の免許証を使用した際、領事館で発行される英訳と国際免許証を持っていたにもかかわらず、表記の違いで夫と違う扱いを受けたことにビックリしました。これは、現地で旧姓併記を求めたわけではなく、領事館に事前に問い合わせて、現地では新姓表記が原則との回答をいただき、それに則って書類を用意し申請したにもかかわらずです。また、コロナ禍のなか妊娠した体で何度も対面のリスクを伴う免許センターに通うストレスはかなりのものでした。もちろん、コロナ禍でアメリカの行政システムの遅延が著しいことも原因の一つではありますが‥。
このような時間と費用の消費は、日本で別姓婚が可能なら起きなかったことでしょう。ましてや政府が推奨し拡大している旧姓併記で、さらに手間と苦労を被ったという事実は、ぜひ選択的夫婦別姓に興味がない人にも知ってほしい内容だったので、まんがにしました。
ーー夫と自分のどちらが姓を変えるかで、最終的な決め手になったことなどがあれば、差し支えのない範囲で教えてください。
夫個人のプライバシーに関わる事なので詳細は控えますが、夫も結婚前にアメリカ就労を経験しており、もし夫側が改姓したとしたら私と同等かそれ以上の負担を背負う立場です。お互いの家族や心情などたくさん議論した中で、私が引き受ける結論に至りました。
また、反響をいただいた中で、夫が姓を変えなかったのか?妻が辛い思いをしているのに他人事なのか、という印象を持たれた方がいらっしゃいました。
ですがそれは全くの逆で、つらい手続を行う過程をずっと横で支えてくれました。またまんがを上げる際にある程度の夫に対する批判が発生する事も予期していましたが、事前に確認をしたところ、実際に横で見ていたからこそ、その過程で起こった事や心情を理解し、公開することを了承してくれました。
ーー多くの手続きの中、旧姓併記を選択して良かったと感じた点はありましたか?
日本では仕事で使う銀行口座を旧姓で維持できたので、それはよかったと感じています。ただ、その口座に紐づくクレジットカードなどは会社によっては新姓のカードと旧姓の口座を結びつけられなかったり、新姓が原則だったりと、対応がバラバラで未だに解決できていない部分が多いです。旧姓併記が拡大している国内でも、企業ごとにそれぞれ対応が違うので、混乱が起きていることを感じました。
ーーもし選択的夫婦別姓が実現したら、もとの姓に戻したいと思いますか?
はい。選択的夫婦別姓が実現したら元に戻るのが結婚の時の約束でしたので、戻ると思います。
「子供と親の名前が違うのがかわいそう」という意見を持つ方もいらっしゃるのは承知していますが、私が出会った海外の同僚は別姓や複合姓など、さまざまな家族形態を認める社会で、皆幸せに暮らしていました。「かわいそう」と思う理由は、同姓が当たり前な日本の世の中で、ある意味イレギュラーな離婚等が原因で親と名前が変わってしまった子供などを想定しているのではないでしょうか。私の子供時代にも友達が両親の離婚で改姓をしショックを受けている子がいました。
社会が姓の多様性を認めれば、同姓の親子でも、生まれた時から親と別姓の親子でも、離婚による別姓の親子でも、それぞれが一緒に社会の中で生きている事になるので、「そういう人がいるのも当たり前」になり「かわいそう」は減っていくと思っています。また、私は今、実親と法律上は別姓ですが親子の信頼や愛情は変わりません。
ーー漫画を読んだ人たちから多くの反響が寄せられていますが、どう感じていますか?
改姓手続きの大変さに共感してくださったり、海外で似たような経験をされている方が予想以上にいる事に驚きました。また、ネガティブな反応や議論も起こっていることも、この問題が社会のトピックとして注目されているためだと思いますので、別姓賛成、反対にかかわらず、これをきっかけにたくさんの方が身近な問題として考えるきっかけになれば幸いです。
ーー同じように悩んでいる人に、何かメッセージがあれば一言お願いします。
現状では、名義変更をおこなった後も、どの場面でどちらの姓をつかうかなど悩みがずっと続いてしまい、辛いことと思います。ただ、自分のアイデンティティやキャリアを守りたい気持ちは、普遍なものだと思います。ないがしろにしていいものでも間違いでも絶対ありません。今回同じ境遇で悩む方が私以外にもたくさん居ることが分かり、胸が熱くなりました。これからもがんばりましょう!
ーー
ひとりひとりが、サステナブルな地球環境の中で、自分らしく生きていくためにーー。
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Source: HuffPost