2021
06.14

軍人の「英雄化」続く中国、批判は違法に

国際ニュースまとめ

<全人代は、軍や警察、武装警察部隊に対する批判を違法とする法案を可決した> 6月10日、中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は、軍人に対する批判的な表現は違法とする法律を可決した。 同じ日、1年前にインドと中国の実効支配線(LAC)上に位置するガルワン渓谷で起きたインド軍と中国人民解放軍の武力衝突の犠牲者を称える式典が開かれた。この衝突で活躍して時の人となった人民解放軍の将校、祁発宝(チー・ファーバオ、41)は「われわれに恐れはいっさいなく、犠牲を恐れてもいない」と述べた。 また祁は「われわれは犠牲を恐れず、わが国の領土を1寸失うより自分たちの命を犠牲にする信念がある」とも述べた。この式典は、中国共産党中央軍事委員会の政治工作部の主催で行われた。中央軍委の主席は習近平(シー・チンピン)国家主席だ。 報道によれば、祁はガルワン渓谷での衝突で頭部に重傷を負ったが、その後、西部戦区の連隊長に任命されたという。 国営テレビ局の中国中央電視台(CCTV)は、祁は衝突で死亡した4人について語ったと伝えた。4人は死後、国のために命を捧げた「烈士」として称えられている。 祁のスピーチは中国版ツイッターの新浪微博(シンランウェイボー)でもトレンド入り。祁らガルワン渓谷における衝突で活躍した軍人たちは、7月1日の中国共産党創立100周年や8月1日の「建軍節」でも功績を称えられると見られる。 衝突から発表まで「8カ月」 ガルワン渓谷での衝突の直後、インド政府はインド軍の20人が死亡し76人が負傷したと発表。一方、中国側は8カ月後の今年2月になってようやく、死者が4人、重傷者が1人だったと発表した。 衝突の発端について両国は、互いに相手が許可なく境界を越えたと非難の応酬になっている。 ガルワン渓谷での死者・負傷者数についても発表に続き、中国政府は死亡した大隊長の陳紅軍(チェン・ホンチュン)ら3人を「国境防衛の英雄」として顕彰した。 そして全人代はこの日、軍や警察、それに治安維持やテロ対策を担当する武装警察部隊に対する批判を違法とする法案を可決した。 この法律は、いかなる個人や組織であっても、軍人の名誉や名声を棄損することは違法行為にあたると定めている。モニュメントなどを汚すことも処罰の対象になる。 軍の権利を侵害したりその任務の遂行に悪影響を及ぼしたことが明らかになれば、検察はいかなる個人に対しても裁判を起こすことができるという条項もある。その対象は幅広く、表現の自由をさらに狭めかねない。 ===== 中国では2018年に「英雄烈士保護法」という法律が成立した。これは戦争で命を落とした軍人に特別なステイタスを与える初の法律だった。また、今年3月から施行された改正刑法では、「英雄烈士」への侮辱は最長で禁固3年の刑が科せられる違法行為となっている。 その初の適用例となったのが南京市に住む著名ブロガーの仇子明(チウ・ツーミン、38)だ。ガルワン渓谷での軍事衝突に関する中国政府の発表に疑問を呈したことが罪に問われた。 仇は新浪微博に、政府が公式発表した死者数が不当に少ないとの見解を投稿。それから数時間のうちに、仇を含む6人が逮捕された。 5月31日に仇は英雄烈士への中傷により有罪となり、8カ月の禁固刑が言い渡された。

Source:Newsweek
軍人の「英雄化」続く中国、批判は違法に