08.19
「1500万円持ち逃げされる」東京都の外国人起業家支援制度にSNSで批判⇨「疑問ある事業には融資しない」都が説明
外国人の起業家を対象に最大で1500万円を融資する東京都の新制度が、SNSで「日本人差別だ」「持ち逃げされる」などと批判を呼び、都には抗議電話も寄せられている。
これに対し都の担当者は、行政や金融機関による事前の審査があり、疑問を持たれた事業に融資することはないと説明。「適切な情報発信を心がけたい」と話している。
また、外国人だけを優遇しているという趣旨の指摘は事実と異なり、国籍問わず利用できる制度には外国人向けよりも金利が低く設定されたものがある。
■スタートアップ支援の一環
東京都は2030年に向けた戦略で「スタートアップ支援」を掲げている。有望なスタートアップ企業が都内で出現・増加すればビジネスによる行政課題の解決などが期待できるうえ、税収増も見込める。6月28日から受付を開始した外国人起業家向けの資金調達支援制度は、その一環だ。
融資額は最大で1500万円。返済期間は10年以内で、金利は固定で2.7%以内。融資を受けるには▽都の政策企画局に事業計画を提出し、認定を受けることや▽都内に本店や主な事務所を持つ法人の代表者であることなど4つの条件を全てクリアする必要がある。
この制度が8月になってからTwitterで批判的に取り上げられている。外国人を対象にしていることから「日本人差別だ」とする言説のほか、「中国で評判になっている」という投稿もある。また、無担保で借りられるため「持ち逃げされる」「使い切ったら中国に戻るだけでOK」といったツイートも拡散されている。
■「疑問ある事業には融資しない」
東京都産業労働局の高須信二・金融支援担当課長によると、都には、ネットで拡散された内容を元にした抗議電話が複数件寄せられているという。
批判が上がっている理由の一つに、無担保で融資が実行されることがある。返済されなかった場合に代わりに取り立てる土地や建物などがなければ、外国へ「高飛び」されるリスクがあるというものだ。
高須担当課長は「創業期の企業は担保となる土地や建物を所有していないことが多い。担保を求めれば支援すること自体が難しい」と話す。国籍を問わず活用できる創業者向け融資プランでも同じように担保を求めていない。保証人については、原則として法人代表者本人がなる。
融資後のトラブルを避けるためには「きちんとした審査をすることが重要と考えています」と高須課長は話す。今回の制度では複数段階にわたって事業計画を審査する。
「融資を受けたい場合、ビジネスコンシェルジュ東京(都のビジネス支援窓口)にご相談いただき、中小企業診断士が事業計画書をチェックします。その後、東京都が事業の実現可能性などを審査します」
「都の認定後は、取扱金融機関が改めて審査します。仮に都が認定を出していても、金融機関が疑問を持てば融資はされません。中小企業診断士など専門家が融資の前後からサポートに加わることもあり、継続的に第三者の目が入ることになります」
ほかにもネット空間では、融資が日本国内の不動産の購入資金に充てられ、そこからビザを取得し家族ごと移住することも可能なのではないか、といった推測も拡散されている。
しかし、そもそも申請できるのは永住者や「経営・管理」ビザなど、事業活動の制限を受けない在留資格をすでに保有している外国人に限られる。高須担当課長は「(こうしたビザがない場合)そもそも申し込めません。日本に生活基盤があるなど、しっかりした在留資格を持つ方が対象です」と否定した。
この融資制度の受付が開始されてからおよそ1ヶ月半が経つが、都の認定を受けた事業はまだない。最大で年間40件程度を想定しているといい、高須担当課長は「適切な情報発信を心がけたい」と話している。
■「外国人優遇」は事実ではない
また、外国人だけが資金調達面で優遇されている、というSNS上の指摘は事実と異なっている。国籍に関係なく活用できる制度には、外国人を対象にしたものよりも金利が低く設定されているメニューもある。
都産業労働局金融課相談係の担当者によると、国籍に関係なく活用できるものでは例えば「東京都中小企業制度融資」がある。これは創業計画のある個人などを対象に、無担保で最大3500万円を貸し付けるもので、金利は返済期間によって変動するが、3年以内の場合は1.5%を下回るケースもある。
さらに、一般的に金融機関から融資を受けづらいとされる39歳以下の若者や55歳以上のシニア、それに女性(年齢制限なし)を対象にした「女性・若者・シニア創業サポート事業」がある。こちらは最大1500万円だが、無担保かつ金利1%以内という点が魅力だ。
いずれも、原則として代表者個人が保証人になる必要があるが、第三者の連帯保証人は求めない。融資を受けるには、銀行や信用金庫などの金融機関と、東京信用保証協会の二重の審査を通過する必要がある。
Source: HuffPost