2021
06.11

バイデンが禁止令を撤回したWeChatがそれでも「要注意アプリ」な理由

国際ニュースまとめ

<中国共産党の批判や民主化支持の投稿内容を検閲し、新型コロナ関連の情報検索を制限していることも明らかに> ジョー・バイデン米政権は5月9日、中国の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や通信アプリ「WeChat(ウィーチャット)」の利用を禁じていたドナルド・トランプ前政権の大統領令を撤回すると発表。同時にこれらのアプリを利用することによる安全保障上のリスクについて、独自に「証拠に基づく」分析を行うと表明した。 サイバーセキュリティサービスを提供するオンショア・セキュリティのステル・バラバニス最高経営責任者(CEO)は本誌に対し、バイデンのアプローチはトランプよりも「婉曲的」だとの見解を示した。トランプが「高圧的な」全面禁止措置を取ったのに対し、バイデンは時間をかけて証拠固めをする方法を取っていると説明した。 バイデンは9日の発表の中で、米商務省が今後、米国民の個人データの保護強化について幾つかの提言を行い、また中国と関連のあるアプリのリスクを改めて明らかにすると述べた。 サイバーセキュリティコンサルティング企業シナジステックのケーレブ・バーローCEOは、バイデンの動きは「サイバーセキュリティが重要な問題だという認識」の表れだと指摘する。 「これらのアプリについては、単に利用を禁止しようとする以外にも、適切な規制や監視によって影響を及ぼす方法が幾つかある」と彼は本誌に語った。 「国家安全保障上の脅威がある」 中国のテック企業である騰訊(テンセント)が運営するメッセージアプリのWeChat(中国国内版は「微信」)は、中国では「スーパーアプリ」として知られている。ユーザーは1億人を超え、メッセージ以外にもニュースや決済サービス、ゲームや旅行の予約もできる。 だが同アプリについては、検閲やユーザー監視が行われているという批判の声もある。トランプ前米大統領は2020年、データ収集のおそれや国家安全保障上の脅威があるとして、WeChatをはじめとする複数の中国系アプリの利用を禁止した。 トランプは大統領令の中で、「このデータ収集によって、中国共産党が米国民の個人情報や機密情報を入手できるようになるおそれがある」と指摘し、さらにこう続けた。「問題のアプリはアメリカを訪れている中国人の個人情報や機密情報を入手している。これによって中国共産党が、人生で初めて自由な社会を楽しんでいるかもしれない中国市民を監視できるようになる」 中国政府は、これらの批判を否定。中国外務省の汪文斌報道官は当時、「アメリカは国の安全保障を口実に国家権力を利用して、アメリカ系以外の企業を迫害している」と反論した。 ===== トロント大学(カナダ)の研究機関「シチズンラボ」は、WeChatが中国のユーザーを監視下に置いていることを突き止めた。政治的な投稿の内容を監視することがその目的で、中国政府やその政策に対する批判や、民主活動家や民主化を求める考え方への支持などが検閲の対象となる。天安門事件や、中国国内および香港で展開されている民主化運動に関連する言葉を含む複数のキーワードが「ブラックリスト」に登録されていることも判明した。 中国サイバースペース管理局(CAC)は2020年2月、新型コロナウイルス感染症に関する「有害な」コンテンツを公開し、「恐怖を広めて」いる「ウェブサイト、プラットフォームとアカウント」を罰則の対象にすると発表。なかでも騰訊を名指しして、同社のプラットフォームについて「(新型コロナウイルス関連に)テーマを絞った査察」を実施すると述べた。 シチズンラボは最近、2020年1月から5月にかけて、WeChat上で新型コロナウイルスに関連する何百ものキーワードの組み合わせの検索がブロックされていたことを突き止めた。 たとえばWeChatは、新型コロナウイルスについていちはやく警告を発した武漢の医師、李文亮に関する検索をブロック。米疾病対策センター(CDC)についても、「コロナウイルス」という言葉や中国政府の対応を批判する言葉と組み合わせた検索をブロックしていた。 中国人とそれ以外では異なる制限レベル またシチズンラボは、WeChatが「1つのアプリ、2つのシステム」の検閲モデルを展開していたと示唆した。中国国内のユーザー、あるいは中国の電話番号で姉妹アプリ「Weixin(微信)」を利用しているユーザーに対しては、キーワード検索について厳しい制限を課す一方で、外国人ユーザーについては制限が緩和されているのだ。 騰訊はIT系ニュースサイトのザ・バージに対して、同社は「中国でもそのほかの国・地域でも、複雑な規制環境の中で事業を展開している。ほかのグローバル企業と同様に、それぞれの地元の法律や規制に従うのが当社の信条だ」と述べた。 同社はまた、WeixinとWeChatは使っているサーバーも、データが保存される場所も異なるとして、次のように説明した。「WeChatのサーバーは中国国外にあるため、中国の法律の適用対象にはならない。一方でWeixinのサーバーは中国国内にあるため、中国の法律の適用対象だ」 ザ・バージは2019年、WeChatが、中国系米国人が香港地方選挙での民主派勝利についてメッセージをやり取りするのを禁止したと報じていた。

Source:Newsweek
バイデンが禁止令を撤回したWeChatがそれでも「要注意アプリ」な理由