2021
06.09

三人っ子政策に中国国民の反応は冷ややか 「二人目さえ欲しくない」理由

国際ニュースまとめ

<今後の人口減を危惧して中国政府は少子化対策に大きく舵を切ったが、この政策が機能しない理由が3つある> 中国の出生率が下がり続けている──そんな懸念すべき傾向が、5月半ばに発表された国勢調査の結果で確認された。中国国内では以前から、日本のように人口減に伴う労働力不足に見舞われるのではないかと危惧されていた。 中国政府は少子化対策として2016年、それまで30年以上続けてきた「一人っ子政策」を廃止した。だが効果が芳しくなかったため、この5月31日、第3子までの出産を許可するとした。「三人っ子政策」の導入ということになるが、いつどのように施行されるかは明らかではない。 今までも専門家からは、人口政策の見直しの必要性を指摘する声が一貫して多かった。北京のシンクタンク「中国・グローバル化センター(CCG)」で人口問題を研究する黄文政(ホアン・ウェンチョン)は、以前から21~22年に人口減が起こると警告し、出生数の減少から想定される数々の危険を指摘してきた。国勢調査で冷厳な事実を突き付けられた格好の中国政府が、行動を起こす必要性を感じたのは当然かもしれない。 しかし多くの国民は、「三人っ子政策」に懐疑的な目を向けている。すぐに3つの批判が噴き出した。 「2人目さえ望んでいない」 第1に「三人っ子政策」は、中国人(特に新興の中間層や富裕層)が子供を持ちたがらない根本的な理由を考えていない。人口学者の何亞福(ホー・ヤーフー)がニューヨーク・タイムズ紙に語ったように、「多くの人は3人目どころか、2人目さえ望んでいない」のだ。 産児制限の撤廃だけでは、構造的な障壁はなくならない。子づくりを抑制する一番の要因は、将来も豊かな暮らしができるかどうかだ。育児や教育のコストは、これから子供をつくろうとする夫婦にとって大きな足かせになる。 ネット上には「子供を3人産むなら、夫を3人探さなきゃ。お金がかかり過ぎる!」とぼやく声もある。中国では生活費も住居費も教育費も高騰しており、特に大都市ではその傾向が強い。 共産党の青年組織の機関紙「中国青年報」の社会調査センターが今年3月にミレニアル世代(2000年前後に成人した世代)の1938人を対象に行った調査では、2人目の子供をつくらない大きな理由として、家事を手伝う人がいないことを挙げた回答者が全体の67%に達した。 ===== 都市部では人口増と都市の膨張に伴って、渋滞、環境汚染、インフラの逼迫といった問題も増えている。地方でも労働集約型産業から機械化された製造業などへの移行が進んでおり、子供の多い家庭が得をするとは限らない。 今の状況で子供を3人持つことが奨励されても、強いインセンティブは見当たらない。例えばシンガポールでは出生率を上げるために出産・育児や医療に支援金を出し、子供が3人以上いる家庭に公営住宅入居の優先権を与え、若い母親に対しては税金を優遇している。中国政府も少子化に本気で取り組むなら、子供を3人以上持つ「貴い務め」を果たそうとする国民にもっと報いるべきだろう。 第2に「三人っ子政策」は、女性の人生、権利、利益に配慮を欠いているという批判がある。中国の女性は人口政策の大幅な変更のたびに、貧乏くじを引かされてきた。SNSには、こんな書き込みがあった。「私たち女性の基本的な社会経済的自由を支える政策や保護措置がない限り、仕事を含む将来の計画を危うくしてまで、女性はさらに子供を産もうとは思わない」 女性が貧乏くじを引く 中国企業の最高幹部レベルに女性が占める割合は、経済の開放と自由化が本格化した1990年から着実に低下している。2019年の時点で、上場企業の女性役員の割合は10%程度だ。原因の1つに、成功した女性はいずれ子供をたくさん産むから、企業は育児の負担が少ないと思われる男性を優遇したほうがいいという考えがあった。 多くの国と同じく中国の女性も、仕事か子育てかという選択を迫られる。経済状況が不安定な今は、多くの女性が仕事を選ぶ。 さらに根本的な要因として、中国では個人主義的な傾向が強まり、個人の選択が重視され始めている。いま20~30代の中国女性は前の世代よりも、結婚して子供を産み、仕事を辞めるという伝統的な期待に逆らってきた。 ここに三人っ子政策の大きな誤解が見える。この政策は「女性に子供を産む機会を与える」という趣旨だが、本当の問題は「女性が子供を産みたいかどうか」なのだ。 政府が現実の問題に取り組むには、育児関連のコストと弊害を大幅に削減してフルタイムの女性労働者の負担を軽減するとともに、家事の平等な分担を推進する必要がある。「女性は天の半分を支える」と毛沢東は言ったが、実際には女性は育児負担の大部分を背負っている。 ===== 戸籍を持たない子供たち 最後の3点目として、政府の方針に逆らって生まれた子供と家族に対する倫理的な課題がある。 一人っ子政策が取られていた頃は、2人目以降の子供については出生届を出さないケースが多かった。そうした子供たちは戸籍を持たない「黒孩子(ヘイハイツ)」(闇っ子)と呼ばれ、教育や医療を受ける権利を与えられていない。政府は黒孩子に権利を認め、不公平な扱いを正すべきだ。 このように政策を修正したからといって、子供を持とうという家庭が増えるとは限らない。しかし、重要なのは数だけではない。生活の質の向上は、これまで社会制度の枠外に置かれてきた人々にとって特に大切だ。 一部の専門家は、新政策の下でも法に反して生まれた子供たちに確実な法的保護を与えるために、出生にまつわる全ての制限をなくすよう政府に要請している。その一方で政府当局者や研究者は、出生に関する制限の全面解除に難色を示している。以前のように、人口が制御できないほどに増加することを恐れているためだ。 だが、そんな懸念は明らかに無用だ。今の中国は、例えば1970年代とはあらゆる面で異なっている。教育水準が高く、専門の技術や資格を持つ中流層が存在する。この層は、2人以上の子供をあまり欲しがらない。 識字率の向上と、農村部における避妊手段の普及で、過剰な人口増加の可能性は大幅に減った。むしろ今の中国は、高齢化や労働人口の減少といった問題に直面している。 三人っ子政策に対する中国国民の見方は複雑だ。この問題についての中国政府の対応は、国民にどこまで寄り添えるかを占う大きな試金石になるかもしれない。 From Foreign Policy Magazine

Source:Newsweek
三人っ子政策に中国国民の反応は冷ややか 「二人目さえ欲しくない」理由