07.09
選挙公約、どう読み解けばいい?お金・財政の専門家に聞いたチェックポイント【参院選2022】
7月10日に投開票を迎える参院選。
投票先を決める判断材料の一つとなるのが、政党が掲げる「選挙公約」です。
この「選挙公約」をどう読み解けばいい?チェックポイントは?「お金」の視点で見てみると?
「若者の投票率が1%下がると、若者は約7万8000円損をする」という試算を出した東北大大学院教授で、東北大学高齢経済社会研究センターの吉田浩所長(@CAES_Tohoku)と、お金の専門家で金融教育の普及に取り組む一般社団法人「日本金融教育推進協会」代表理事の横川楓さん(@yokokawakaede)が、Twitterの音声配信機能「Spaces」で話し合う「#お金を話そう」で7月5日夜、「選挙公約の読み解き方」をテーマに話し合いました。
(※記事化にあたり内容は一部加筆・編集しています)
そもそも「予算を決める人」を選ぶのが選挙
吉田教授は、「選挙を『お金』の視点で考えるというと、違う方向から考えるというふうに感じる方もいるかもしれませんが、実は選挙そのものがお金の問題だと思います」と指摘。その理由について、「選挙というのは国会議員を選ぶこと」だと指摘し、国会議員の“3つの大きな仕事”について説明しました。
1.総理大臣を選ぶこと…主に間接民主制が採用されている日本では、私たちの選んだ国会議員が国会で総理大臣を選びます。国会議員は内閣不信任案を提出することができ、時に総理大臣を辞めさせることもできると言えます。
2.法律を作ること
3.国の予算を決めること
吉田教授は「予算を決める人を選ぶというのは極めて『お金』の問題ですよね。私たちの税金の使い方を決める人を選挙で決めるわけですので、実は横から考えるんじゃなくて、真正面から考えなければいけないということだと思います」と語りました。
選挙公約を「お金」目線で見てみよう
吉田教授と横川さんは、選挙公約のチェックポイントの1つ目として「お金」の視点で見てみることを挙げ、その重要性について吉田教授はこう語りました。
「政党の公約を見るときに、自分にとって望ましい政策を実現してくれるのかどうかということはとても大事な視点だと思います。ただ、自分にとって良いと思われる政策があったら、それを実現するための財源はどうするのか、どれくらい具体的に書かれているのかはポイントです」
「車や家を買うときに『見積もり』をとると、ちょっと仕様を変えるとこんなに費用が上がるんだ、じゃあこれはやめようということをみなさんすると思うので、政党もそうした(歳出の)裏づけを出しているのかどうかを比べながら見てほしいと思います」
その「比べ方」については、
1.政党の「いいな」と思う政策と、その裏付けとなる財源を比べる
2.複数の政党が同じような政策を掲げていた場合、どのようにその政策を実現しようとしているのか、政党別に比べる
ーーという2つのポイントを挙げました。
主要政党の公約を読み比べたという横川さんは、「仕事があって生活に追われている方だと、全て読み込む時間はなかなかないんじゃないかなと思います」と指摘した上で、「今の国の予算の使い方など『現状』を見て考えるというのも一つの手だと思います」と話しました。
「令和4年度社会保障関係予算を見てみると、子育てや雇用対策など現役世代に対する予算が少ないことが分かります。現状を見た上で、どんな政党がどんな政策を重視しているかを比べることも大事ではないでしょうか」
岸田政権が現在掲げている「貯蓄から投資へ」という方針についても、「若い世代からお金について話を聞く中で、給料が低く、入ってくるお金が少ない中でどうやって貯金していこうという人もいます。そんな中、『貯蓄から投資へ』を進めていくのは、最初のステップである『貯金』が大事だという点からすると少し違うのかなと思います」と指摘しました。
その上で、「金融経済教育」の重要性について言及。「個人が投資をして資産を増やすことを進めるのであれば、資産運用の知識などを身につける『金融経済教育』がとても大切。高校の家庭科でも投資に関する内容も取り上げられていますが、実態を見てみると、家庭科自体がそもそもない学校があったり、授業時間が少なくてほとんど取り上げられていない学校もあったりと、そもそも満足にできていません」
「金融経済教育について公約で触れている党は少ない。『貯蓄から投資へ』というのであれば、これからの時代を生きる世代がお金としっかり向き合うためにも、金融経済教育の大事さ、拡充、徹底は、触れてほしいポイントです」
女性に対する支援を打ち出しているか?
公約の2つ目のチェックポイントとして、女性に対する支援を打ち出しているかーーが話題になりました。
横川さんはその背景について、
1.平均給与の男女格差…国税庁のデータによると、女性は生涯を通しての平均年収が約300万円台となっている
2.非正規雇用は圧倒的に女性が多い…総務省のデータによると、非正規雇用者2064万人のうち、女性は1413万人で半数以上を占めている
ーーといった点を挙げ、「女性の賃上げや正規雇用を進めるためにも、妊娠・出産によってキャリアが断絶したり、収入が下がったりしないような環境整備をしていけば、ジェンダーギャップを埋めることにもつながり、日本全体にとって重要なことになってくるのではないでしょうか」と指摘しました。
吉田教授も、世界経済フォーラム(WEF)の国別の男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ指数2021」で日本が世界156カ国中120位だったことに言及。
「特に社会的な意思決定における女性の地位がかなり低い。日本はこれまで女性の総理大臣がいたことがありません。政党がどれだけ女性を社会的な意思決定の場に加えるために準備しているのかという点は、大事なチェックポイントです」
「また、女性が活躍している企業ほど収益率が高いというデータもあります。女性だけではなくマイノリティーの方も含めて、多様性をどのぐらい重んじようとしているのかは、私たちの生活の改善に影響するという意味で、ぜひ確認していただきたい点です」
「あいまいなフレーズ」に注意して見てみよう
公約の3つ目のチェックポイントとして、吉田教授は「あいまいなフレーズ」に注意してみることーーを挙げました。
「公約では、有権者の心をつかむために甘い言葉を並べがちになります」と語り、ある例を挙げました。
「例えば、『サポートします』と言った時に、聞く人によってその意味が異なる可能性があります。おんぶして助けてくれるように感じる人もいるかもしれませんが、外野から『頑張れ』という“サポート”かもしれません」と述べ、言葉やフレーズだけではなく、具体的にどんなことをしようとしているのかを考えていく重要性を指摘しました。
「選挙のことを考えていくとお金のことを考えることになる」
最後に、吉田教授は「私たちが生活する上で、何かをやろうとしたら何かを犠牲にしなければいけないように、選挙のことを考えていくと、お金のことを考えることになるんだということを感じていただけたら」と語りました。
横川さんも「選挙や政治というと自分に関係ない、ちょっと難しいと感じる若い世代もいるかもしれませんが、そうしたマクロの視点で決められることが、年金や税金、子育て支援策などミクロの視点で私たちの生活に大きく影響します。選挙では、そうした視点を持つことがすごく大切だと感じます」と話し、こう呼びかけました。
「自分の世代の投票率を上げるために投票に行く、というような考えを持って選挙に挑むというのもありだと思います。ぜひ自分の大切な1票を投じて欲しいです」
Source: HuffPost