2021
06.08

アルツハイマー新薬の、バラ色とは言えない評判とコスト

国際ニュースまとめ

<病気の原因に作用する初めての薬として期待が寄せられているが、今後まだ追加試験が必要だという条件つきの承認に> 米食品医薬品局(FDA)は6月7日、アルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を承認したと発表した。アルツハイマー病の新薬承認は約20年ぶり。FDAは新薬について、アルツハイマー病の進行を遅らせるだけでなく、根本的な原因に作用する初めての薬だとしているが、有識者の間からは、はっきりした治療効果が認められていないと警告する声もあがっている。 新薬は米製薬会社のバイオジェンと日本のエーザイが共同で開発したもので、一つの試験でアルツハイマー病に関連する認知障害の悪化を遅らせる効果が示された。症状を回復させる効果は示されなかった。 今回の承認は、深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」という形で行われたものであり、FDAは開発元に対して、追加の臨床試験で薬の有効性を証明するよう要請している。この追加試験の結果、効果が認められない場合には、FDAが承認を取り消す可能性もある(承認取り消しは稀なケースだが)。 アメリカの何百万人もの高齢者やその家族に影響を及ぼす可能性のある今回の新薬承認をめぐっては、医師や専門家、患者と家族、また患者の保護グループなどの間で論争が持ち上がるのは確実とみられる。一部では効果に疑問を呈する声も根強いからだ。それだけに今回の決定は、漸進的な効果しか認められない治療を含む実験的な治療を評価する基準にも、大きな影響を及ぼすことになる。 効果の割に高過ぎる 値段が高いことも問題だ。新薬は4週間に1回の点滴投与で、価格の目安は年間3万ドルから5万ドルとされている。 非営利の医療技術評価機関である米臨床経済評価研究所は、新薬承認に先立って実施した予備分析の中で、「総合的に見て有効性が不十分である」ことを理由に、新薬の価格は年間2500ドルから8300ドルに設定すべきだとの見解を示した。同研究所はまた、追加試験で新薬の有効性が確認されなければ、「どのような価格でも高すぎる」ともつけ加えた。 アメリカで600万人近くが、世界全体ではさらに大勢の人が患っているアルツハイマー病は、脳の記憶や論理的思考、情報伝達や基本的日常業務をつかさどる部分を徐々に攻撃していく病気であり、進行すると最終的には嚥下機能が失われる。認知症の原因として最も一般的で、今後何百万人ものベビーブーマー世代が60代、70代を迎えるなか、患者は増える一方だと予想されている。 今回承認された新薬のアデュカヌマブは、脳内に蓄積して認知機能を低下させると考えられている有害なたんぱく質「アミロイドベータ」を除去するのが狙いだ。これまでにも複数の実験薬がこれを試みてきたが、患者の思考能力や自立機能を改善することはできなかった。 ===== アルツハイマー病については長年、製薬業界が何十億ドルもの研究費用をかけて開発に取り組んできたものの、成功には至らなかった。今回FDAが新薬を承認したことで、過去に複数の製薬会社が棚上げにした同様の治療薬の開発に、再び活発な投資が行われることになる可能性が高い。 新薬は生きた細胞からつくられており、診療所や病院で点滴投与を行わなければならない。最も一般的な副作用は脳の炎症だが、多くの場合はそれによって症状や長期的な問題が引き起こされることはないと臨床試験で示された。 FDAによる今回の決定を受けて、治療困難な症状の治療を評価する上での基準をめぐる、長年の議論が再燃している。アルツハイマー病の患者やその家族を代表する複数の組織は、新たな治療法はどのようなものであれ(たとえ治療効果がわずかでも)承認されるべきだと言っている。だが多くの専門家は、今回の新薬承認は危険な前例をつくり、効果が疑わしい治療にも扉を開くことにつながりかねないと警告している。 2020年11月には、FDAの外部の専門家委員会が、今回の新薬の有効性について懐疑的な見方を示していた。同委員会は、バイオジェンが提出した一つの臨床試験の複数のデータについて、それが薬の有効性を示しているかどうかという問いに反対票を投じた。 臨床試験もいったん中止 バイオジェンとエーザイは、2019年にアデュカヌマブに関する2つの臨床試験を中止していた。アルツハイマー病患者の認知機能や身体機能の低下を遅らせるという目標を達成できる可能性が低いと判断したためだ。 だがその数カ月後、両社は一転、臨床試験のひとつについて新たに分析を行ったところ、高容量を投与した場合には効果が認められ、FDAからも承認申請が可能だとの助言を受けたと発表した。両社の研究者たちは、アデュカヌマブに有効性が認められないという当初の判断は、一部の患者が、アルツハイマー病の進行を遅らせるのに十分な量の薬剤投与を受けていなかったことが理由だったと説明した。 だが投与量の変更と両社による事後分析で、臨床試験の結果の解釈が難しくなり、FDAの外部委員会を含む多くの専門家の疑念を招くことになっている。

Source:Newsweek
アルツハイマー新薬の、バラ色とは言えない評判とコスト