2022
05.30

「消費者の無反応が一番悲しい」。 プラスチック問題に取り組むコカ·コーラ、ネスレ、JALに聞いたジレンマ

国際ニュースまとめ

レジ袋が有料化してから約2年。マイバックを持ち歩くことにも慣れてきた、という人も少なくないかもしれません。2022年4月にはプラスチックの削減と資源として循環させることを促進する「プラスチック資源循環法」が施行されました。

「プラスチックごみが環境中へ流出することで河川や海洋が汚染され、生態系に悪影響を及ぼしています」と指摘するのは、WWFジャパン プラスチック政策マネージャーの三沢行弘さん。石油や天然ガスを原料とするプラスチックの生産過程で排出される二酸化炭素の問題も深刻で、一刻も早く対応すべきだといいます。

それでもペットボトル、お菓子の包装、コンビニのお弁当容器など、私たちの生活の中にはまだまだ「使い捨てプラスチック」が溢れています。

削減すべきとわかっていても、便利でなかなか手放せない。

こうしたジレンマの中で、使い捨てプラスチックを多用している企業には一体どんな対応が求められ、どんな努力をしているのか。

「2025年まで」と期限を決め、意欲的な目標に取り組む日本コカ·コーラ、ネスレ日本、日本航空の3社と、WWFジャパンの三沢さんに話を聞きました。

左から日本航空株式会社ESG推進部 部長 小川宣子さん、日本コカ·コーラ株式会社サスティナビリティー推進部 部長 飯田 征樹さん、WWFジャパン プラスチック政策マネージャー 三沢行弘さん、ネスレ日本株式会社 執行役員・コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來さん左から日本航空株式会社ESG推進部 部長 小川宣子さん、日本コカ·コーラ株式会社サスティナビリティー推進部 部長 飯田 征樹さん、WWFジャパン プラスチック政策マネージャー 三沢行弘さん、ネスレ日本株式会社 執行役員・コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來さん

プラスチック削減「正直、まだまだ答えが出ていません」

ーー3社はWWFジャパン「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025(PCC2025)」に参画しています。使い捨てプラスチックについて、2025年という期限を設定し、包括的な5つの取り組みにコミットメントする意欲的な宣言に賛同していますね。企業が使い捨てプラスチックを削減し、資源として循環させていくために、どんなところを課題に感じていますか?

WWFジャパン「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」5つのコミットメントWWFジャパン「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」5つのコミットメント

日本コカ·コーラ飯田さん:リサイクル材を100%使って作るペットボトルには、本当に紆余曲折がありました。作り始めた当初、リサイクル材は色がくすんでしまい、透明にならないなど技術的な課題がありました。

その後研究を重ね、新規石油由来のプラスチックと遜色ない、透明なリサイクル材100%の再生ペットボトルを開発したり、軽量化して使用するプラスチック自体を減らしたり、さまざまな技術を一本のペットボトルに詰め込んでいます。

一方で、新規石油由来のものと再生ペットボトルの見た目が変わらないところまでクオリティを上げたため、消費者の人には判別がつかず、再生ペットボトルであることが伝わりづらくなってしまったジレンマもあります。

また、2020年からラベルレスのペットボトルが解禁されましたが、現在はケース売りのみです。これは、法律でパッケージに原産国、原材料など様々な記載することが義務付けられているからです。今後プラスチック削減のためにラベルレスを広げていくためには、消費者の理解を得て商慣習の変化をみながら、省庁と一緒に考えていく必要があります。

日本コカ·コーラ株式会社サスティナビリティー推進部 部長 飯田 征樹さん日本コカ·コーラ株式会社サスティナビリティー推進部 部長 飯田 征樹さん

ネスレ日本・嘉納さん:食品飲料においては、安全で美味しくお客様の手元までお届けするというのが「容器包装」の役割です。

例えばコーヒーやチョコは湿気を吸いやすい性質があり、おいしさを保つためにプラスチック包装にしています。実際、大袋のキットカットは外袋を紙素材に変えましたが、直接チョコレートに触れる中袋はプラスチックのままです。

安全性の確保や品質保持を担保した上で、どうやってサステナビリティを実現していくか。まだまだ答えは出ていませんが、意欲的な目標を掲げ、チャレンジを積み重ねています。開発、調達、素材開発などチーム一丸となって悩みながら、一歩ずつチャレンジしているのが正直な現状です。

ネスレ日本株式会社 執行役員・コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來さんネスレ日本株式会社 執行役員・コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來さん

JAL・小川さん:コロナ禍になって、いかに感染せずに飛行機をご利用いただくか、安心・安全への取り組みはとても重要で、そういった意味でも個包装のビニールや使い捨てプラスチックは大変役立っています。一方で気候変動への対応や資源の有効利用の観点で、安全性を確保した上で使い捨てプラスチックを減らしていかなければならないという使命感を持っています。

例えば空港内には機内ごみ焼却用の共用施設がありますが、焼却でなくリサイクルするためには独自の仕組みが必要だったり、空港の外に持ち出すには通関の許可が到着ごとに必要だったりして、リサイクルしたい、分けて捨てたいと思ってもできない現状があります。

弊社は独自の取り組みで税関などと調整し、ケータリング会社やリサイクル業者の協力も得て、通常だと焼却されてしまうペットボトルのリサイクルを実現しています。今後は他の航空会社とも協力しながら、省庁にお願いをして変えていかないといけない部分もあると思っています。

日本航空株式会社ESG推進部 部長 小川宣子さん日本航空株式会社ESG推進部 部長 小川宣子さん

WWFジャパン・三沢さん:使い捨てプラスチックの問題を根本的に解決する鍵は、「大量生産・大量消費・大量廃棄」から抜け出し、新たな資源の投入や廃棄を可能な限りゼロに近づけ、限りある資源を永く繰り返し使い続ける「持続可能なサーキュラーエコノミー」です。

今まで日本の企業は取り組んできましたが、取り組みの全体像をあまりオープンにしてこなかったと思います。簡単なことではありませんが、さらに動きを加速していくためにも、3社をはじめPCC2025に賛同した企業のように、社会に見える形でやっていくことが重要です。

「プラスチック削減=不便・我慢」だけじゃない

ーー2022年4月に「プラスチック資源循環法」が施行された時、「不便を強いられるのではないか」という不安の声もありました。使い捨てプラスチックの使用を減らすのはもちろん重要ですが、繰り返し使えるデザインにしたり、プラスチックだったものを別の持続可能な素材に変えたり、プラスチックをゴミではなく「資源」として循環させたりなど、多少の変化は伴いますが、基本的には我慢ではなく「価値の転換」だと感じます。

日本コカ·コーラ飯田さん:ペットボトルは消費者にとって身近なため「使い捨てプラスチック」だと誤解されているように思いますが、しっかり回収すれば資源として再利用が可能です。大きなシェアを持っている企業として、リサイクルへの責任を果たさなければならないと強く感じています。

ラベルを剥がして、できればすすいで回収に回してもらえれば、ゴミにならず資源になります。そこで、ラベルを剥がすと「当たり」「はずれ」があるキャンペーンや、ラベルがリボンのようになるキャンペーンなど、みなさんが楽しみながらラベルを剥がしたり、ボトルを潰したりできる企画もしています。

日本コカ·コーラ株式会社サスティナビリティー推進部 部長 飯田 征樹さん日本コカ·コーラ株式会社サスティナビリティー推進部 部長 飯田 征樹さん

ネスレ日本・嘉納さん:お客様の選ぶ基準は、美味しさ、香り、嗜好、値段が主なものだと思います。その基準に環境への配慮が入ってくると嬉しいですし、製品を通して海洋プラスチック問題があるんだよ、という気づきをお知らせしたいです。

ただ、実はみなさんに情報を公開する時に、「こんな小さなことだとニュースにもならないし、発表しなくてもいいんじゃないか」という声が上がる時があります。しかし、「言わない」ことは「何もしていない」ことになってしまいますから、小さな一歩でも発表するべきだと考えています。

できてないという声も、できているという声もフィードバックなので、一喜一憂はしますが、無反応が一番悲しい。反応をしてくださるのが嬉しいです。

ネスレ日本株式会社 執行役員・コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來さんネスレ日本株式会社 執行役員・コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來さん

JAL・小川さん:私たちもプレスリリースを出すときに、そのことの大きさや影響度合いはどうなのかを考えて、発表を躊躇してしまうことがあります。資源に対するお客さまの反応や社会のフィードバックを知ることができれば、より活動の刺激になってありがたいですね。社内外の理解を得ながら、着実にアクションを重ねて、中身のある発信をしていきたいと思っています。

また、私たちの職務上、お客様の安全性と快適性の確保は必要不可欠です。だからこそ、プラスチックの代替品もよく考えて、使い捨てではないものや安全で持続的な素材のものを選ぶなど工夫を重ね、同じ品質のサービスができるように努力しています。

WWFジャパン「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」に参画した3社が語り合ったWWFジャパン「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」に参画した3社が語り合った

消費者の声、どう届ければいい?

ーー企業の取り組みを応援したいと思っても「どうすればいいか分からない」という人も多いと思います。WWFジャパンの「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」特設サイトでは、消費者の声を企業に届ける取り組みが行われていますね。

WWFジャパン・三沢さん:特設サイトで、企業に包括的なコミットメントを求めた上で、具体的な取り組みに投票する仕組みを作っています。集まった声は集計して「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」の関連イベントで発表するなど、積極的に企業へ伝えていきます。

フリーコメントだとハードルが高い…という人のために、選択肢を用意して、投票する形で気軽に参加できるようにしています。

企業と生活者の接点は、購入やお客様センターへの電話、投書が中心ですが、もっと両者が深く繋がった上で、「どういう選択肢があるのか」ともに考えられるような世の中にしたいという思いで作っています。ぜひみなさんの投票もお待ちしています。

「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」特設サイト「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」特設サイト

ーー消費者が企業に声を届ける方法として「その商品を選ぶ」が大きいかと思いますが、他に何か方法はありますか?

ネスレ日本・嘉納さん:もしお願いできるなら、例えば自治体によっては分別されていない「プラスチックごみの分別」など、弊社の小さなテストや新しい取り組みに手を貸して欲しいです。もちろん、みなさんがやってみたくなるような面白い仕掛けを作ります!

JAL・小川さん:SNSの発信もよく見ています。ぜひ弊社を利用していただいた際は、SNSに投稿していただけると私たちも励みになります。

◇◇◇

最後に、消費者はどんな視点で企業の取り組みを判断すればいいのか三沢さんに聞くと、「期限を決めて、包括的で意欲的な方針を打ち出しているか」が重要だと指摘しました。

「プラスチックによる環境汚染問題は、今できることを積み重ねても解決できません。消費者のみなさんも、企業のプラスチック問題に対する全体の指針を見た上で、小さくても一つ一つのアクションを評価するといいのではないでしょうか。WWFジャパンとしても、意欲的な目標を掲げた上で、結果的にもし達成できなかったとしても、努力する姿勢自体は評価したいと思います」

WWFジャパン プラスチック政策マネージャー、三沢行弘さんWWFジャパン プラスチック政策マネージャー、三沢行弘さん

使い捨てプラスチックを抑制する動きが加速しています。2022年3月には、国連でプラスチックごみを抑制するための国際条約に向けた交渉を開始することが合意され、「環境分野で気候変動対策のパリ協定以来、最も重要な合意」だと評価されました。プラスチックによる環境汚染が、気候変動と並ぶ「危機」だと世界で認識されているのです。

日本でも、今後ますます政府と企業の取り組み強化が必要です。そのためには、消費者一人一人の意識と行動の変化が大きな後押しになります。まずは身近な食べ物や飲み物の容器包装に目を向けることで、使い捨てプラスチック問題の解決に取り組むきっかけになれば嬉しいです。

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Source: HuffPost