05.11
今つらい人が頼れる逃げ場に。無料でチャット相談ができる「あなたのいばしょ」
「つらいとき、頼れる人に出会えることを『偶然』ではなく『必然』にしたい」。
そんな思いを持つ大空幸星(おおぞら・こうき)さんにインタビューしました。大空さんは2020年、24時間365日、無料でチャット相談ができるプラットフォーム「あなたのいばしょ」を立ち上げました。開設の経緯や相談を受けるうえで大切にしていることなどを、不登校経験者の伊藤歩さんがうかがいました。
――なぜチャット形式での相談窓口を始めようと思ったのでしょうか?
私が相談窓口をつくろうと最初に思いついたときから、チャット以外の選択肢は考えていませんでした。これまで、自殺に関する相談支援は電話が主流でした。しかし、今の子どもたちや若者は、日常的に電話を使うことはほとんどありません。
総務省が毎年9月に出している「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」というデータによると、若年層はスマホの電話機能でさえ、あまり使わなくなっている。固定電話にいたっては令和2年の統計では使用時間は0分でした。
それに対して、SNSの1日の平均利用時間は1時間を超えています。ふだん、ごく近しい人や友人とコミュニケーションをとるときも、電話ではなくSNSがよく使われます。
そしてSNSは、インスタグラムなど写真がメインになっているものもありますが、LINEやツイッターなど、多くは文字を使います。つまり現在のコミュニケーションは活字がメインなんです。子ども・若者からすれば電話や対面で話すよりも、文字にして投稿するほうが、かんたんなのですね。
また電話や対面での相談は、話す内容を考えながらでないと、うまく話せません。ですがチャットなら自分のペースで思いつくままに書いて、すぐに消すこともできます。
そもそも若者にとって深刻な問題を、使いなれない電話で相談するのはミスマッチです。電話をメインに使っている相談支援者と子どもとのあいだでギャップが起きていると感じます。昨今、多くの年代で自殺者が減っているのにも関わらず、子どもや若者の自殺が増えているのには、こうしたギャップも理由の1つだと思います。
10代20代の相談内容は
――10代20代からの相談内容はどのようなものが多いのですか?
「今すぐにでも命を絶ちたい」というものが多いです。そうした相談に対してどう対応するか。
私たちはまず、悩んでいる本人が「自分が何に苦しんでいるのかを知る」ためのお手伝いをします。というのも、本人ですら、「自分が何に悩んでいるのかわからない」というケースが多いからです。
自殺に関する警察庁の統計では、1件の自殺について複数の動機や原因が挙げられています。また、30代以下の3人に1人は自殺の原因が不詳です。とくに理由がなく、漠然と「死にたい」と思い実行してしまう、というケースもありうるということです。自殺とはある1つの原因によって起こるのではなく、複数の要因が複合的かつ、連鎖的に絡み合って起こるのですね。
親族のなかには「どうして死ぬ前に親に相談しなかったのか」とおっしゃる方もたくさんいます。しかし現実には、複数の問題を抱えるなかで、本人自身も自分が何に悩んでいるのかわからない、あるいは自分の悩みを言語化する余力すらない、という状態になっていることもあるのです。
ですから、相談窓口としては「自分が何に悩んでいるのか、今後どうしたくて、どうしてほしいのか」を知るための、本人へのサポートをしなければなりません。
相談窓口を利用している以上、相談者は何か目的があって相談しに来ています。話を聞いてほしい、何かをしてほしい、雑談するだけでよいと言う人もいる。だから本人がどうしたいのか、自分で答えを導きだすことをうしろからそっと支えることが相談窓口の役割だと思うのです。
マイナスをゼロに
大切なのは相談者にとって、ここは「逃げ場」であり「頼れる場」だと感じてもらうことです。相談者が壁にぶちあたったとき、私たちは相談者のマイナスをゼロにすることを目指します。「今すぐ死にたい」というマイナスの状態から「とりあえず今日、死ぬのはやめます」というゼロの状態にする、ということです。
それ以上の状態、たとえば「これから一生懸命、仕事を探してがんばります」というプラスの状態にすることまでは、原則として私たちはしません。そうしたプラスの状態は、私たちとは別の福祉団体などとつながったときに目指していただければと思っています。
私たちの役割としては、あくまで相談者の最後のセーフティーネットであることです。
――相談を受けるうえで気をつけていることはありますか?
傾聴すること、そしてアドバイスや情報提供はしないことです。
虐待やDVなど緊急を要する場合は専門家を紹介することはありますが、基本は傾聴に徹しています。
難しいのは、アドバイスや情報提供をせず、ひたすら傾聴するなかで、どうやって相談者に寄り添えるかです。相談者は問題の解決を望んでいます。しかし、私たちは相談者の問題を解決することはありません。たとえその問題が私たちに解決できることであったとしても、私たちが解決をしてしまうことはご法度です。
アドバイスをしない理由は
なぜなら、私たちを含め、相談窓口が問題解決をしてしまうと、相談者が本来持っている問題を解決する力が生かせないからです。相談者は人生のなかで何度も壁にぶちあたるでしょう。そのたびに相談窓口が問題解決を図ることはできません。
しかし、まわりに頼れる人がいない、悩みを誰にも話せない、というような場合に、相談者は相談窓口を利用するのです。私たちはあくまでも最後の逃げ場なので、相談者の身のまわりにいる人ができることをしてはいけないのです。踏み込みすぎてはいけません。
私も過去につらかった経験があるので、自分と同じような状況に立たされている子どもたちに対して特別な感情を感じて、個人的に言葉をかけてあげたくなるときもあります。でも、相談窓口として、それは絶対にやってはいけないことです。相談者が、私の思っていることとちがう考えを持っていた場合、その人は今後、窓口が使えなくなってしまうかもしれないからです。
――私が以前、相談窓口を利用した際には、その窓口は私にとってセーフティーネットにはならなかったです。大空さんの窓口なら、ちがっていたかもしれないですね。
いや、ちがいはないと思いますよ。私たちに相談しても救われなかったという人はいっぱいいると思います。極論を言えば、一昨年の3月に相談窓口を始めてから15万件以上の相談を受けていますが、そのなかには、相談ののちに命を絶ってしまった人もいらっしゃるかもしれません。
ただ、どの相談窓口にも言えることですが、1人の人を救うことができなくても、ほかの何千人、何万人の命が救われている。私たちも同じです。「ひとつの窓口がすべての人を救う」なんて、おこがましくて言えませんし、そんなことはできません。
相談員が投げかけた言葉が相談者を意図せず傷つけてしまうことだってあると思います。私たちはそうしたことを未然に防ぐ努力をしなければならない。ただ、事実として相談をして命を絶った人もいれば、反対に相談をしたことで助かった人もたくさんいる。そんな矛盾を抱えながら相談窓口というのは存在しているんです。
――「苦しんだ経験があったから今の私がある」と当事者が話すことがありますが、私は自分の苦しみを肯定する気持ちにはなれません。私の苦しみは私にとって何か意味があったのでしょうか。
私は苦しみをともなうものに意義はないと思いますよ。「つらい経験が糧になる」なんて、そんな言葉いらないですよね。過去のことがあったから今の自分があるのは、現在とはそもそも過去の積み重ねで存在するのだから、あたりまえのことです。
もちろん、つらい経験をした本人が「つらい経験があってよかった」と言うぶんにはよいと思いますが、他人が苦しんでいる人に対して「苦しんだ経験は人生の糧になる」と言う権利はまったくないと思います。
さまざまな苦痛 根源には孤独が
虐待にしろDVにしろ経済苦にしろ、さまざまな苦しみの根源には「孤独」がある、と私たちは考えています。自殺の理由は複数あるという話をしましたが、さまざまな理由の背景に大きく横たわっているのが孤独の問題です。孤独というのは、事実として本人のまわりに人がいるか、いないかではなく、本人がまわりの人に頼ることができるかどうか、によって決まります。多くの人が、頼れる人がいない状況に苦しんでいます。
人は深く苦しんでいても、偶然の出会いやきっかけによって救われることがありますよね。私自身も、ある偶然の出会いに救われたことがあります。しかし、頼れる人に出会えることが「奇跡」や「偶然」であり続けては、いけないんです。もっと確実に頼れる人に出会える社会でなければいけないと思います。私は相談事業を通じて、頼れる人に確実にアクセスできるしくみをつくるために、日々、活動しているんです。
――ありがとうございました。
(聞き手・伊藤歩、編集・茂手木涼岳)
⬛️ 相談窓口「あなたのいばしょ」
利用方法
①「あなたのいばしょ」もしくはhttps://talkme.jp/で検索。
②トップページから「いますぐ相談する」をクリック。
③お住まいの都道府県などの簡単な質問に答えたあと、相談ができます。通常、数分以内に返信されます。
※24時間365日、年齢や性別を問わず誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口です。
【プロフィール】大空幸星(おおぞら・こうき)
1998年愛媛県生まれ。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的にNPO法人あなたのいばしょを設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動している。
(この記事は2022年04月26日の不登校新聞掲載記事「『2年で15万件以上の相談に対応、今つらい人が頼れる逃げ場をつくる意味』」より転載しました)
Source: HuffPost